エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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3・つかの間の幸せ

残業と会いたかった人 (2)

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「かにゃじゃわせんせ! 誰か来たー!」

 ――すると、保育園の敷地内にある変化が訪れた。

「ママー!」

 懐中電灯の明かりのような小さな光が、こちらに向かってやってきたのだ。

 つぐみに抱きかかえられた園児は迎えにやってきた母親だと勘違いをして、嬉しそうに窓の外に手を振るが――。

 すぐに異変を悟り、肩を落とした。

「違う……。あの人、だぁれ……?」

 園内に侵入してきた人物が大柄の男性だと知った園児は怖がり、つぐみの胸元をきつく握りしめると小さな瞳に涙を浮かべる。

 (まさか、不審者……?)

 姿を見せた男性の顔を確認していなかったつぐみは、外から自身の名を呼ぶ声を耳にするまで、それが誰なのか気づけなかった。

「つぐみ」
「き、清広さん……?」
「ママー!」
「広春まで!」
「よかった……。無事で……」

 つぐみは園児を抱いたまますぐさま清広に駆け寄り、言葉を交わした。
 どうやら連絡が長時間取れなかったため、わざわざ様子を見に来たようだ。

「広春のお迎え……。どうやって……」
「今日の朝、引っ越したと先生方に連絡をしたんだろう? 自宅に、電話がかかってきたんだ。代理で迎えに行った」
「あのね! せんせー達、パパがかっこいいねって、褒めてくれたの!」

 もう夜も遅いと言うのに、息子は元気いっぱいだ。
 キラキラと瞳を輝かせて、保育園での一幕を語ってくれる。

 (ここが自宅だったら、息子を優先できるけど……。まだ、お迎え待ちの園児がいるから……)

 嬉々として話しかけてくる広春に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら生返事を返したあと、彼に頭を下げた。

「ごめんなさい。急に、延長保育を担当することになって……」
「こんなに遅くまで、働いているのか」
「この子のお迎えがこないと、退勤できなくて……」
「かにゃじゃわせんせ、だれー?」

 つぐみの腕の中で不思議そうに清広の顔を確認した園児は、不思議そうにこちらへ問いかけてくる。

 (知らない男の人を見て、不審者だって叫ばれたら、どうしようかと思った……)

 目の前で最悪な事態が起きるのだけは回避できたことにホッとしながらどう説明しようか迷っていると、清広が一歩前に出て自己紹介をしてくれた。

「俺はつぐみの、交際相手だ」
「こーしゃい?」
「子どもにはまだ、難しいか……」
「んー?」
「この子は、俺達の息子。広春だ」
「僕、かなざわひろはる。ごしゃい!」
「わたしといっしょだー!」

 清広がつぐみとの関係を明かしたところでうまく受け入れてはもらえなかったようだが、息子が園児と同じ年齢だと知るや否や、2人にはシンパシーが芽生えたようだ。大人達の腕から抜け出た子ども達は、楽しそうに遊び始めた。

 (あんまりこう言うことは、言いたくないけど……)

 これで一件落着だと言いたいところだが、笑顔でその様子を見守れないのには理由があった。

 (保育園に部外者がいるのは、あまりいい状況とは言えないよね……)

 しっかりと園児に言い聞かせておかなければ、後々その話を聞いた親御さんからどんなクレームがくるかなどわかったものではない。
 覚悟を決めたつぐみは、難しい表情で息子と遊び始めた女児を呼び止め告げた。

「あのね。金沢先生と清広さんは、鈴木ちゃんのパパとママみたいな感じ、なの……」
「かなじゃわせんせ、らぶらぶ?」
「ああ」

 つぐみが園児の問いかけに答えるよりも早く、清広がこちらの腰を抱く。

「うん! 僕とパパとママ、とっても仲良し!」
「いいなぁ。わたしのパパとママも、らぶらぶしてほしい……」

 その様子を目にした息子の援護射撃を受けた女児が羨ましそうな声を上げた直後、パタパタと清広の後方からこちらに向かってやってくる軽快な足音が聞こえてきた。
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