エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

文字の大きさ
51 / 62
4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

憂鬱な送別会(2)

しおりを挟む
「アイス!」

 つぐみは身体を起こし、広春と一緒になってキラキラと目を輝かせる。

 溶けたバターの上に、アイスクリームとはちみつがかかった作ったスイーツは、いつまで落ち込んでいないで、これでも食べて元気を出せと背中をしてくれるような気がした。

「いつも、ごめんね」
「気にしないでくれ。俺が食べたいものを作っているだけだ」
「広春。半分こしよっか」
「うん! いただきまーす!」

 ナイフとフォークを手に、一切れ取り分けて口に含む。

 ほっぺたがとろけてしまいそうなほどの幸福感に包まれたつぐみは、口元を緩めて舌鼓を打つ。

「すごく、おいしい……!」
「気に入ってもらえて、本当によかった」
「家庭で作ったとは、思えないような味だよ!」
「焼いて乗せただけだぞ。料理が下手でも、誰だっておいしく作れる」

 最初は謙遜していた清広も、妻に褒められると悪い気はしないのだろう。

 口元を緩めると、作業を終えたペーパーフラワーやメダルが汚れないように隅へ退けてから、親子の隣で食事を始めた。

 ハニートーストを食べて幸せな気持ちに包まれたつぐみは、急いで夕食を完食すると、使い終わった食器を洗ってから清広の手に指先を絡めた。

 ずっと言えなかった言葉を、伝えるためだ。

「お帰りなさい……」
「ああ、ただいま」

 清広による苦しそうにも愛おしそうに聞こえる挨拶を聞いて、つぐみは妻になれてよかったと幸福な気持ちでいっぱいになる。

「私は優しい清広さんが、大好き……」
「ああ。知っている。仕事を全力で頑張るつぐみを、俺も愛している……」

 夫婦はお互いに対する愛を告げると、息子を抱きしめてゆっくりと目を閉じた。
 *

 目黒夫妻の飲み会は、男女に別れて別々の場所で行われた。

「行ってくる」
「うん。広春を、お願い……」
「ああ」
「ママ! またねー!」

 男性陣の方が、30分早く飲み会が開始されるらしい。

『ただでさえ気分の乗らない場所へ向かうんだ。息子も一緒だと、大変だろう』

 清広はこちらに配慮し、広春を一緒に連れて行ってくれた。
 母親よりも父親と一緒にいたがる息子も大喜びしているため、つぐみからしてみれば大助かりではあるのだが……。

 (行きたくないなぁ……)

 やはり、1人になるとどうしても弱気な自分が顔を出してしまう。

 (少しだけ顔を出して、さっさと帰ろう……)

 つぐみは憂鬱な気持ちをいだいたまま、女性陣が集まる保育園へと向かった。

「それではこれより、目黒先生の送別会を始めまーす!」

 会場へ顔を出したのは、つぐみが最後だったようだ。

 後輩の音頭によって職場に丸い円を描くように集まった保育士達は、全員缶ビールやソフトドリンクを片手に乾杯の挨拶をする。

「ちょっといいかしら?」
「は、はい。もちろん……」

 本日の主役が同僚達と笑顔で会話する姿を無言でぼんやりと見守っていたつぐみが、ミネラルウォーターのペットボトルを一本飲み干しそうになった頃だった。
 雑談の輪から抜け出した目黒に、声をかけられた。

「安堂先生も、そろそろ安堂海曹長に愛想が尽きた頃なんじゃない?」

 その問いかけを耳にしたつぐみは、ぶんぶんと勢いよく左右に首を振る。

「いえ、そんな……」

 彼女は彼と過ごすうちに、その言葉とは真逆の感情を抱いていたからだ。
 目黒は口ごもるこちらに向かって笑顔を浮かべ、無言で圧をかける。

 (怖いなぁ……)

 つぐみはその視線に怯えて引き攣った笑みを浮かべながら、か細い声で告げた。

「むしろ、興味が出てきたと言いますか……。たとえ、どんなに遠く離れていたとしても……」
「ええ」
「毎日、彼のことを考えるだけで……幸せな気持ちになります……」
「あら、そうなの? 私が心配する必要は、なさそうね」

 目黒なりに、海上自衛官の妻としてつぐみを心配してくれたのだろう。

 (目黒先生は、悪い人じゃない……)

 目黒の期待に応えられなかったことを気に病んだつぐみが申し訳なさそうに眉を伏せると、上司は再び同僚達の輪に戻って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。

藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。 集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。 器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。 転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。 〜main cast〜 ・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26 ・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26 ・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26 ・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26 ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

イケメン社長からの猛烈求愛

鳴宮鶉子
恋愛
イケメン社長からの猛烈求愛

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

龍の腕に咲く華

沙夜
恋愛
どうして私ばかり、いつも変な人に絡まれるんだろう。 そんな毎日から抜け出したくて貼った、たった一枚のタトゥーシール。それが、本物の獣を呼び寄せてしまった。 彼の名前は、檜山湊。極道の若頭。 恐怖から始まったのは、200万円の借金のカタとして課せられた「添い寝」という奇妙な契約。 支配的なのに、時折見せる不器用な優しさ。恐怖と安らぎの間で揺れ動く心。これはただの気まぐれか、それとも――。 一度は逃げ出したはずの豪華な鳥籠へ、なぜ私は再び戻ろうとするのか。 偽りの強さを捨てた少女が、自らの意志で愛に生きる覚悟を決めるまでの、危険で甘いラブストーリー。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

処理中です...