エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

最悪な逆切れ劇(1)

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 (今日の主役とも話ができたし、もういいよね……)

 すっかりお酒が入って盛り上がる輪の中からこっそり抜け出し、姿を消そうとした時だ。
 強い力でいつの間にか真横に来ていた山田に、腕を掴まれたのは。

「どこに行くつもり?」
「子どもを夫に預けているのが、心配なので……。帰ろうかと……」
「あんたって、本当に勝手な人ね。目黒先生の門出を祝おうと言う気持ちが、足りないんじゃないの?」
「そんな、つもりは……」
「あんたの旦那が、異動になればよかったのに」

 同僚から厳しい言葉をぶつけられた直後、頭が真っ白になった。

 (広春がここにいなくて、本当によかった……)

 繊細な息子がここにいれば、今頃自分の代わりに泣き叫んでいただろう。
 悪意をぶつけられたつぐみは泣きたい気持ちをぐっと堪え、静かに山田の主張に耳を傾けた。

「うちの園に必要なのは、誰がどう考えても目黒先生のほうでしょ。安堂先生よりも、よほど戦力になるし」
「そう、ですね……」
「子どもが熱を出したからとか、保育園にお迎えへ行かなくちゃいけないからとか。延長保育を担当できないだけでも迷惑なのに、仕事中にも凡ミスをやらかすとか、いないほうがマシなんだけど?」
「それは……」
「言い訳なんか、聞きたくない!」

 彼女は苛立ちを隠しきれない様子で、空になった缶ビールをドンッと床の上に置いた。
 カラン、と小気味よく軽快な音が室内に響き渡ったせいか。
 この場にいる誰もが、同僚の豹変っぷりに目を丸くした。

「山田さん? どうしたの?」
「あたしはあんたが、ずっと大嫌いだったのよ! シングルマザーだかなんだか知らないけど、この世で一番不幸な人間ですみたいな辛気臭い顔で園児の前に立つ姿も、何もかも全部が!」
「また、トラブル……?」
「仕事を押しつけてやるたびに、胸がスッとした! あんたが苦しむ姿を見ることでしか、あたしはストレス発散ができなかったのよ! なのに……!」

 酔っ払っているせいか、それとも頭に血が登っているせいか。
 彼女の口からは酷い言葉ばかりが紡ぎ出される。

「子どもの父親と偶然再会したかと思えば、籍を入れて幸せな夫婦生活を満喫するとか、何考えてんの!? 仕事に集中できないなら、専業主婦にでもなりなさいよ!」

 山田の告白は、逆恨みもいいところだった。

 (以前の私だったら、傷つく必要がないのに……。必要以上に己を責めて、苦しんでいた。でも、今は……)

 つぐみはもう、弱い自分とはさよならをしたのだ。
 清広の影に隠れて甘えてばかりなど、いられない。
 今こそ、広春を守るために鍛えた精神面の成長を披露する時だ。

「山田さんが私をすごく気に食わないと感じているのは、初めて顔を合わせた時から気づいていました」
「だったら、なんでもっと早くにここを辞めないのよ!?」
「山田さん……っ。落ち着いて……」
「私はあなたを幸せにするため、働いているわけではないからです」
「な……っ!」

 まさか普段はほとんど言い返さない自分が、こうして彼女を睨みつけながら歯向かってくるなど思いもしなかったのだろう。
 山田は顔を真っ赤にして、わなわなと全身を震わせる。
 つぐみはその一瞬の隙をつき、静かに言い放つ。

「仕事に集中できず、迷惑をかけてしまったこと。子どもがいるせいで、独身の山田さんに迷惑をかけてしまった件は謝罪します。でも、園長先生はそれを了承の上、採用してくださいました。あなたが働く上で不愉快だから辞めろと、私に凄む権利はありません」
「あたしよりも、あとに入って来たくせに! 生意気な口を、利かないでくれる!?」
「普段延長保育ができない分、卒園式の飾りつけに使う装飾品の作業を自宅でやってこいと押しつけて来るのだって……。本来だったら、許されないですよね……?」
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