エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

男子会と妻の危機【清広】(1)

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「新婚生活はどうだ?」
「順調です」

 目黒海将の送別会に呼ばれた清広は、居酒屋のカウンターで彼と横並び座る。
 満面の笑みを浮かべる息子を膝上に乗せ、生ビール片手に談笑していた。

「妻の話を聞く限りでは清広が海港している間にらしくもないミスをするし、ぼんやりしていて、散々だったらしいぞ?」
「そうですか」
「最近は夫に会えない寂しさを埋めるように、仕事を全力で頑張っているそうだ!」

 清広が素晴らしい女性と結婚したと上機嫌な目黒は、豪快な笑みを浮かべる。

 (暫く目黒海将とは、会えなくなるのか……)

 清広はそんな彼の姿を目にして、なんとも言えない気持ちになった。

「俺たちがいない間、妻がどのような生活をしているかは、面と向かって話し合わなければわからん。対話は欠かすなよ」
「はい」
「ところで……」

 ジョッキの生ビールを一杯空にし終えた目黒は、声を顰めて清広へ念を押す。

「幸せいっぱいなところ大変申し訳ないのだが、そろそろ将来について考えなくてはならん。この意味がわかるな?」

 誰が聞いているかわからない場所で、仕事の話をするわけがない。
 そう油断していた清広は、ピンと背筋を伸ばし、緊張の面持ちで小さく頷く。

「優秀な人材に甘い蜜を吸わせ、生涯幸せな暮らしを続けさせるほど自衛隊は甘くない」
「……そうですね」
「あちこちを行ったり来たりしている私を見て、他人事のように思っているかもしれないが……。すぐに君も、私と同じ経験をするだろう」
「覚悟の上です」
「では、私と一緒に来るか?」

 思わぬ提案を受け、清広は目を丸くした。

 (なんだって……?)

 驚きを露わにする機会などほとんどないため、膝の上に座って大人しくしていた息子が不安そうな声を出す。

「パパ……? また、どっか行っちゃうの……?」

 広春は初めて顔を合わせた時から、清広に懐いている。

 (愛する人達にだけは、嘘をつきたくない……)

 こちらがなんとも言えない複雑な表情で返答を迷っていたからか。
 真横でその様子を見つめる彼が、助け舟を出してくれた。

「家族みんなで、別の場所へ引っ越すんだ!」
「おひっこしー?」
「ああ。坊やは、ずっとここで暮らしたいか?」

 上司から質問を受けた息子は、おそらく保育園でできた友人達のことを考えているのだろう。
 難しい顔で思い悩んだあと、瞳を潤ませる。

「そしたら、パパと僕はどうなるの……?」
「離れ離れになるかもなぁ」
「そんなの、やだ! 僕はママとパパ、みんなでずっと一緒にいるんだ!」
「そうか。それを聞いて、安心したよ。あとは、奥さんの気持ち次第だな?」

 目黒海将は「その言葉を待ってました」と言わんばかりに、ニヤニヤと口元を綻ばせる。
 清広はそこでようやく、これが避けては通れぬ異動の打診だと知った。

「内示ですか」
「いや? 内々示だ。断ってもいいが、キャリアには傷がつく。想い人と結婚して、息子さんはもうすぐ小学校入学ときたら、ちょうどいいタイミングだろ?」

 お世話になった上司が乗り気なあたり、恐らく彼と同時期に決まった話なのだろう。
 あえてこのタイミングで打ち明けたのは、恐らく彼と離れるのが淋しいと柄にもなく感傷に耽っていた姿を見られていたと考えるべきだ。

 (仕事を選ぶか、家族を選ぶか……。思ったよりも、早いタイミングで来たな……)

 清広は息子を抱きしめる力を強め、ぐっと唇を噛み締めた。

「妻が保育士だと、引く手あまただからな。転居もスムーズだぞ。あとは険悪な雰囲気にならぬよう気をつけること、喧嘩になったらすぐに非を認めるのが夫婦円満の秘訣だ!」

 こちらが暗い顔で目黒の飲むビールが発泡する様子を眺めていたからだろう。

 己を元気づけようと、明るい上司の声が聞こえてくる。

 だが、そのアドバイスは清広にとって勇気づけるものではなく、地獄に叩き落とされた感覚に陥る内容でしかなかった。

 (妻と子は果たして、目まぐるしく変化する環境についていけるのだろうか……)

 彼の心配事は、いつだって最愛の人達に纏わることだけだ。
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