エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

男子会と妻の危機【清広】(2)

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『清広さん』

 満面の笑みを浮かべた愛おしき妻の表情が曇る姿を想像し、即座に打ち消す。

 (目黒海将の話は、冗談では済まされない。ほぼ確定している、俺のキャリアだと認識するべきだ)

 清広は先延ばしにしていたつぐみと自分の未来を考える時がついに来たのだと悟り、ある悩みを目黒に打ち明けようとしたが――。

「目黒海将。俺は……」

 それを拒むように、清広の携帯がメッセージの訪れを知らせた。

「ママから、来た!」
「すみません……」
「ああ、遠慮せずに出てくれ!」

 彼は目黒に一言断り、画面に表示された文字を息子と一緒にじっと見つめる。

『送別会どころではなくなっちゃった。いつ頃、終わりそう?』

 清広はつぐみのメッセージを確認し、覚束ない指運びで返事をする。

『何があった』
『私とトラブルを起こした先生が、ちょっと……。目黒先生、すごく怒っていて……。もう、疲れた。帰りたい……』
『すぐに行く』

 携帯をしまって帰り支度を始めれば、すぐに彼も異変を悟ったのだろう。
 こちらに不思議そうな視線を向けてきたので、事情を簡単に説明する。

「どうした?」
「保育園でトラブルがあり、奥様が激怒しているようです」
「私の妻か?」
「はい。俺はつぐみを迎えに行きます。目黒海将は……」
「同行しよう」
「タクシーを呼びます」
「私は勘定を」

 目黒と息のピッタリ合った連携プレーを行い、息子を伴い店を出る。
 こうして清広達男性陣は、送迎を頼んだタクシーに乗り、保育園に向かって車を走らせた。

 *

「山田さん!」
「なんであたしばっかり、叱るのよ!? こうなったのは、全部あんたのせい!」
「やめて……!」

 保育園に駆けつけた清広は、愛する人の叫び声を耳にして息子と顔を見合わせる。

「ママ……?」

 室内で異常事態が起きているのは、明らかだ。
 急いで靴を脱ぎ、不安そうに眉を顰める広春を抱きかかえたまま、妻の元へ駆けつける。

「つぐみ……!」

 そこはまさに、修羅場の真っ只中だった。
 見覚えのある女がつぐみの胸ぐらを掴み、髪を引っ張っている。

「い、痛……っ」
「ママを、助けて!」

 苦悶の表情を浮かべて涙目で同僚を睨みつける妻の姿と、助けを求める息子の声。
 その双方を聞いて、冷静でいられる夫などほとんどいないだろう。
 清広は広春を抱きかかえたまま山田に近づき、力いっぱい最愛の女性から引き剥がした。

「きゃ……っ」
「俺の妻に、何をした!?」

 息子が怖がるかもしれないと、配慮する様子すらなかった。
 床に倒れ伏した女性を恫喝すれば、山田は悪びれもなく大声で言い訳を始めた。

「雑用を押しつけて、ちょっと胸ぐらを掴んだだけでしょ!? 一体それの、何が悪いの!?」
「これのどこが、少しだと言うんだ!」
「どいつもこいつも、うっさいわね……! もう、いい! 話にならないわ!」

 大柄の男が出てきて、分が悪いと悟ったのだろう。
 彼女は苛立ちを隠しれない様子で、清広達の横を通り過ぎて外へ出ようとする。

「あなた! 捕まえて!」
「はいよ」

 しかし、目黒夫妻がそれを許すはずもない。
 妻の指示を受けた夫は、あっさりと山田を捕らえた。

「ちょっと! 何するのよ!?」
「これは園の存続にかかわる重大事件です。あなたをこのまま、帰すわけには行かないわ」
「あんたは辞めるんでしょ!? この園の未来なんか、心配される筋合いはないんだけど!」
「私だって、これからも子どもにかかわる仕事をしていくのよ!? こんな蛮行……! 見逃すわけがないわ……!」

 目黒の妻と山田は、激しい口論を初めてしまった。

 (酷いな……)

 この場には、その場に崩れ落ちて呆然としているつぐみの体調を心配する人が、誰1人いない。

 (とてもじゃないが、このままここで働かせる気にはならんな……)

 清広は内々示の打診をしてくれた目黒に感謝しながら、息子とともに最愛の妻へ寄り添った。

「ママ……!」
「広春……。清広さん……」

 広春は母親と抱き合い、涙を堪えきれなかったのだろう。
 ピリピリとした雰囲気に耐え切れず、大泣きし始めた。

「清広。ここは私達に任せて、帰れ」
「はい。お言葉に甘えます」

 このままここにいたところで、親子が傷つくだけだ。
 清広は上司の言葉を素直に受け止め、騒がしい喧騒を横目にこの場をあとにした。
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