エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

離婚届と提案(1)

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「来てくれて、ありがとう……」

 自宅に戻ってきた直後、広春は安心したのだろう。
 泣きつかれて、眠ってしまった。
 つぐみもまさかあの場で山田と言い争いになるのは予測していなかったため、疲弊の色を隠せぬ様子で作り笑顔を浮かべた。

「いや……。俺は何もしていない」
「うんん……。清広さんが来てくれたから、酷い目に遭わなくて済んだんだよ。これから、どうなるかはわからないけど……」

 ただでさえ目黒が抜けたら、その穴を埋めるのが大変なほどに人手不足だったのだ。
 山田は保育士として子どもにかかわる資格のない人間だが、いないよりはマシだった。

 (鈴木さんが被害を訴えたら、最悪の場合は園事態が閉園に追い込まれるかもしれない……)

 そうなれば、かなり前の段階で子どもが受けた痛みを知りながら、己が毎日生活するのが精一杯で隠蔽し続けていたつぐみも同罪だ。

「無職になっても、清広さんの妻でいてもいい……?」

 こちらが意気消沈する様子をじっと見つめていた清広は、その質問に返事をしなかった。

 (やっぱり、駄目だよね……)

 つぐみが今にも泣き出しそうに瞳を潤ませると、彼の口から想像もしていなかった言葉が紡がれた。

「俺と君がこのまま夫婦で居続けるのであれば、つぐみにはあの園を辞めてもらう」
「山田さんに、胸倉を掴まれたから……?」
「いや。俺も、転勤になった」
「清広さんも……?」
「ああ。行き先は、目黒海将と一緒だ」

 清広から衝撃的な事実を打ち明けられても、不思議と驚きはなかった。むしろ、この状況であれば渡りに船だ。
 つぐみはどこか疲れたように口元を綻ばせると、ぽつりと呟く。

「送別会へ行く前に知っていたら、こんな騒ぎを起こさずに済んだのかな……」

 その言葉は、清広にとっても意外だったようだ。
 短い沈黙のあと、なんとも言えない表情とともに重苦しい声が紡ぎ出された。

「受け入れて、くれるのか」

 つぐみが「そのつもりだ」と一言告げて頷けば、慌ただしく引っ越しの準備を始める羽目になる。
 住み慣れた地を離れ、新生活に挑むのだ。
 恐らく彼は、繊細なつぐみと広春が耐えられるか心配で堪らないのだろう。

「縁を切るなら、このタイミングしかないと思っていたのだが……」

 清広は苦しそうに眉を顰めつつ、ジャケットのポケットから4つ折りの紙を取り出した。

 (離婚届……?)

 それがなんなのかを理解した直後、頭に血が登っていく。

 (こんなふうに別れを切り出すなど、もう二度として欲しくなかったのに……!)

 夫から馬鹿にされているとしか、思えなかった。

「どう、して……? 私を離さないって、言ったよね!?」

 清広に裏切られるのが嫌だと涙ながらに語るつぐみに、彼は何度も愛を囁き、約束した。

 (それを反故にするなんて、許さない!)

 疲れたなど言っている暇など、今の自分にはない。
 つぐみは再び怒りを爆発させたが、清広も負けてはいなかった。

「これからは君の人生を、自由に歩んでほしい」

 彼が固い表情で淡々とこちらを突き放したあたり、生半可な覚悟では離婚を切り出してはいない。
 そういうことなのだろう。

 (もしかしたら……。清広さんの中ではすでに、離婚することが決定しているのかもしれない……)

 そんな不安に駆られたら、堪えていた涙が頬を伝って流れ落ちるのを止められなくなった。

「嘘つき……!」

 ――わかっていた。
 どんな言葉を投げかけても、未来が覆ることはないと。

「私は清広さんが、二度も間違いを犯すような人ではないと信じたからこそ、あなたの妻になったの!」

 それでも、諦められなかった。
 夫婦になった以上は我慢しないと、決めたからだ。
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