エリート海上自衛官は秘密の息子ごと、保育士の妻に海よりも深い愛を注ぎ込む

桜城恋詠

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4・すれ違い夫婦生活と同僚とのトラブル解決

離婚届と提案(2)

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「一生添い遂げる覚悟がなければ、結婚なんてしない! 今度こそ2人で、広春の成長を見守るんでしょ!?」

 つぐみは涙ながらに清広を睨みつけて訴えかけ、机の上に置かれた記入済みの紙を手に取る。
 その後、それを勢いよく破った。

「私と二度も縁を切ろうとするなんて、絶対に許さない……!」
 
 どうせ、真面目な清広のことだ。

 こうなることを予想して、何枚も記入済みの紙を用意しているのだろう。

 (次々と懐から代わりの紙切れが目の前に差し出されても、おかしくはない……)

 つぐみは内心ビクビクと怯えながら、ビリビリに破り捨てられた離婚届が紙吹雪となり宙を舞う幻想的な光景の中で吐き捨てた。

「私の清広さんに対する愛を、見くびらないで!」

 言いたいことを吐き出して、ようやく気が晴れた。

 (やりきった……!)

 つぐみは荒い息を吐き出して呼吸を整えたあと、疲弊の色を隠せぬ様子でぐったりとその場に崩れ落ちる。
 そんな妻の身体を優しく抱き留めた夫は、耳元で重苦しい口を開いた。

「俺はつぐみに、何もしてやれなかった」

 つぐみはその声を聞いて、何度も首を振って否定する。

「何もしなくて、いいんだよ……! 私達はただ、清広さんと一緒にいたいだけ……! それじゃ、駄目なの……?」
「そんなわけが、ないだろう」

 最愛の妻が悲しむ姿を、見たいわけではなかったからだろう。
 清広は苦しそうに否定の言葉を絞り出したあと、己の身体を力強く抱き寄せた。

「俺も、同じ気持ちだ」
「だったら、こんな提案……しないでよ……」
「すまない……」
「何度謝ったって、許さないから」

 つぐみは眠りにつく広春の分まで怒りを露わにすると、彼の胸元を握りこぶしを作ってポカポカと叩く。
 その後、時折嗚咽を漏らしながら涙声で訴えかけた。

「私の意思を無視して、別れようとか、離婚しようって一方的に提案してくるなんて、1回で充分だよ!」
「ああ……」
「こんなふうに何度も清広さんから提案される私の気持ち、本当にわかってる? 大好きな人に拒絶されるのって、本当につらいんだよ」
「すまない……」

 つぐみに責められた清広は普段の勢いは鳴りを潜め、随分とおとなしい。

 (あの時も、ちゃんとこうやって叱りつければよかった……)

 どうやら愛する妻に怒鳴りつけられたのが、相当堪えたようだ。
 つぐみはもっと早くにこうするべきだったと後悔しながら、頬に付着した涙を小さな指先で拭う。

「あの頃とは違って、広春だっているんだから……。私達のためを思ってとか、これが最善だからとか勝手に思い込んで、こんな提案をするのはやめて」
「ああ。不安にさせて、申し訳ない……」

 つぐみらしくない強い口調で凄めば、さすがの夫も反省したらしい。
 清広は謝罪の意味を込め、仲直りの口づけを交わす。

「ん……っ」

 それはやがて、鼻呼吸すらままならないほど激しい口づけの応酬に変化する。
 つぐみは瞳を細めてどうにかなってしまいそうな思いを耐え忍び、唇が離れた瞬間を見計らってか細い声で彼の名を呼んだ。

「き、清広、さ……」

 2人の間に粘り気のある透明な糸がたらりと伸びていた。

 その光景をぼんやりと見つめていたつぐみの瞳は潤み、熱っぽい視線に変化していく。

「――これからもつぐみの夫と広春の父親を、名乗らせてほしい」

 夫の懇願を受けたつぐみの答えは、考えるまでもなく決まっている。

「つぐみさえよければ……」
「違うでしょ?」

 だからこそ、こちらの意思を尊重したいと考える彼の申し出では、満足できなかった。
 つぐみが欲しかったのは、こちらを思いやる言葉ではなく――。

「着いて来てほしい」

 ――そう。
 夫として、妻子と何があっても離れないと言う覚悟を見せほしかったのだ。

「もちろん……!」

 ようやく思い通りの言葉を引き出すことに成功し、つぐみは花が綻ぶような美しき笑顔を浮かべた。
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