31 / 62
高校三年 涼風神社
私達の幸福
しおりを挟む
(涼風さんは私が自ら死を選んだあと、一人取り残された……未来の葛本だ……)
涼風の長男は、どんな手段を使ってでも涼風の長女を取り戻そうと画策している。その一環が、自ら命を絶ちたいと願望した人々を集めた無理心中計画なのだろう。
(死んだ人間が、生き返ることなどなのに)
涼風楓は、愛する妹を取り戻そうと行動しなければ――生きて行くことすら、できなかった。
そう言うことなのだろう。
それがあの人にとっていいことのか、悪いことかは意見が分かれると海歌は考えた。
「過去になんて、戻ってどうすんだよ……。今よりもよくなる保証はねぇだろ……」
葛本は、過去に戻る気はないらしい。
海歌が一人で死ぬことは許さないと、鬼の形相で訴えかけるくらいだ。
一人残されたら、海歌のあとを追うか――他殺であれば、きっちりと復讐を終えてから命を散らすだろう。
葛本の狂気と執着を垣間見た海歌は、彼が自分を大切に思っていると実感しながら葛本の呟きに耳を傾ける。
「死体の山を築き上げて、どうするつもりなんだか……」
涼風楓が本懐を遂げれば、涼風神社は大きな注目を集めるだろう。
どの程度の規模を想定しているかは謎だが、大々的に看板やインターネットなどで広告を出しているくらいだ。
名乗りあげる死にたりは、かなりの数に及ぶかもしれない。
首謀犯として楓の世間に名が知れ渡れば、世間は生育環境に注目するはずだ。
(それが、狙い……なの……?)
養子であること、人柱になった長女を愛していたこと、儀式の最中に命を落とすように強要したことが露呈すれば、海歌と葛本の周りも騒がしくなる。
世間からの批判は免れないだろう。
涼風楓が目論む集団自殺の成功は、腐敗した一族の内情を作り変える神の一手にもなりかねない。
(次期当主に内定している私へこの話をするのは、悪手としか思えない……)
涼風楓は、本気で海歌を集団自殺の一員に加えたいわけではないのだろう。
海歌が当主になれば、緑谷で絶対的な権力を持つ。海歌がこのまま葛本と生きる道を選ぶのなら、責任を持って緑谷を導けと伝えたかったのかもしれない。
「話に乗る気は、ないのですか」
「ねーよ。俺は諦めてねえもん」
涼風楓の目論見を理解した海歌は、自殺する気はないのかと葛本に問いかけた。
山王丸の弟であると知り、許嫁として任命された日から。
彼は海歌と生きる道が、素晴らしいものだと決めつけている。
それはとても、危うい思考だ。
『あんたとともに生きるなんて、決意しなければよかった』
そう考えるような出来事が起きれば、葛本は壊れてしまうだろう。
それだけは絶対に、防がなければならない。
海歌は彼を、どうやって現実と向き合わせるか悩んでいた。
「お前こそ、どーなんだよ。この話に乗れば、今とは違った未来を歩めるかもしれねぇぞ」
「そうですね……」
たらればの話など、考えたくない。
海歌がここまで歩んできた道のりは、辛く苦しかったが――葛本がいてくれるからこそ、どうにか息をしている。
今より悪くなることはあっても、いいことなど訪れない。
もし取り返しのつかない出来事が起きて、やり直さなければならなかったと考えることになるのであれば――。
「今のままが、私は一番幸福です」
「……だったら、死のうとすんなよ」
「はい」
葛本が、海歌を必要とする限り――海歌は、この世界で生きていくと決めた。
涼風の長男は、どんな手段を使ってでも涼風の長女を取り戻そうと画策している。その一環が、自ら命を絶ちたいと願望した人々を集めた無理心中計画なのだろう。
(死んだ人間が、生き返ることなどなのに)
涼風楓は、愛する妹を取り戻そうと行動しなければ――生きて行くことすら、できなかった。
そう言うことなのだろう。
それがあの人にとっていいことのか、悪いことかは意見が分かれると海歌は考えた。
「過去になんて、戻ってどうすんだよ……。今よりもよくなる保証はねぇだろ……」
葛本は、過去に戻る気はないらしい。
海歌が一人で死ぬことは許さないと、鬼の形相で訴えかけるくらいだ。
一人残されたら、海歌のあとを追うか――他殺であれば、きっちりと復讐を終えてから命を散らすだろう。
葛本の狂気と執着を垣間見た海歌は、彼が自分を大切に思っていると実感しながら葛本の呟きに耳を傾ける。
「死体の山を築き上げて、どうするつもりなんだか……」
涼風楓が本懐を遂げれば、涼風神社は大きな注目を集めるだろう。
どの程度の規模を想定しているかは謎だが、大々的に看板やインターネットなどで広告を出しているくらいだ。
名乗りあげる死にたりは、かなりの数に及ぶかもしれない。
首謀犯として楓の世間に名が知れ渡れば、世間は生育環境に注目するはずだ。
(それが、狙い……なの……?)
養子であること、人柱になった長女を愛していたこと、儀式の最中に命を落とすように強要したことが露呈すれば、海歌と葛本の周りも騒がしくなる。
世間からの批判は免れないだろう。
涼風楓が目論む集団自殺の成功は、腐敗した一族の内情を作り変える神の一手にもなりかねない。
(次期当主に内定している私へこの話をするのは、悪手としか思えない……)
涼風楓は、本気で海歌を集団自殺の一員に加えたいわけではないのだろう。
海歌が当主になれば、緑谷で絶対的な権力を持つ。海歌がこのまま葛本と生きる道を選ぶのなら、責任を持って緑谷を導けと伝えたかったのかもしれない。
「話に乗る気は、ないのですか」
「ねーよ。俺は諦めてねえもん」
涼風楓の目論見を理解した海歌は、自殺する気はないのかと葛本に問いかけた。
山王丸の弟であると知り、許嫁として任命された日から。
彼は海歌と生きる道が、素晴らしいものだと決めつけている。
それはとても、危うい思考だ。
『あんたとともに生きるなんて、決意しなければよかった』
そう考えるような出来事が起きれば、葛本は壊れてしまうだろう。
それだけは絶対に、防がなければならない。
海歌は彼を、どうやって現実と向き合わせるか悩んでいた。
「お前こそ、どーなんだよ。この話に乗れば、今とは違った未来を歩めるかもしれねぇぞ」
「そうですね……」
たらればの話など、考えたくない。
海歌がここまで歩んできた道のりは、辛く苦しかったが――葛本がいてくれるからこそ、どうにか息をしている。
今より悪くなることはあっても、いいことなど訪れない。
もし取り返しのつかない出来事が起きて、やり直さなければならなかったと考えることになるのであれば――。
「今のままが、私は一番幸福です」
「……だったら、死のうとすんなよ」
「はい」
葛本が、海歌を必要とする限り――海歌は、この世界で生きていくと決めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる