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高校三年 山王丸兄弟
不正解
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「俺は歪んでる自覚があるが、ミツにはそれがねえから、海歌は受け入れらんねえんだろ。あいつはサイコパスだが、地雷さえ踏まなきゃいい男だ。まあ、無理に理解しろとは言わねえけど」
「山王丸さんのことは、どうでもいいです。葛本は、どれに該当するのですか」
「どれだと思う?」
葛本は海歌に当ててみろと促した。
親愛、独占力、憎悪のうちどれか一つに該当するのならば、やはり憎悪だろうか。
何十年と暴力を振るわれ続けた彼の憎悪ほど、恐ろしいものはない。
「憎悪、でしょうか……」
「まーな。やられてる時は、絶対に殺してやるって憎悪を募らせてた」
「では……」
「残念だったな。不正解だ」
葛本は海歌へ向けて笑いかける。どうやら、機嫌が直ったらしい。
海歌はクイズに失敗したのに、葛本は喜んでいる。
(私に、知られたくないのか……)
海歌は打ち明けて貰えないことが少しだけ寂しくて。
葛本へ笑いかけられずに告白を聞く。
「まぁ、なんだ。海歌が生きて、隣にいてくれさえすれば、それでいい。それが俺の幸せだ。自分でそれを壊すようなことはしねえから、安心しろ」
「…………私が、生きていることは…………。葛本にとっての幸せ、なのですか」
「ああ。海歌は俺が、不幸な目に合うのは耐えられねえんだろ。どんなに辛くても、俺のために生きろよ」
「……葛本の、ために」
ずっと、生きる意味を探していた。
誰からも必要とされない海歌を、唯一必要としてくれたのは、葛本だけだった。
(葛本は、俺のために生きろと告げた。私が死ねば、不幸になるから……)
葛本が不幸になることを防ぎたい海歌は、やはり自ら死を選び取るようなことなど、してはいけないのだ。
「海歌が死んだときのことなんざ、考えたくもねぇけど……。ミツなら、壊れちゃったの一言で済ませるんだろうな。あいつは、人の痛みがわかんねえから」
「山王丸さんは、どうでもいいです」
「海歌はさっきからそればっかだな。今までさんざん、都合のいいように扱ってきたのに。ミツのことはどうでもいい奴扱いとか、よくわかんねぇな」
彼は海歌を鈍感だと何度か口にしているが、彼も大概だ。
山王丸は駄目で、葛本がいい理由は一つしかない。
海歌はどうしたら葛本に伝わるだろうかと思考する中で、海歌の毛先を弄ぶ彼の瞳を覗き込む。
「葛本はいつだって私に、望むものをくれるので……」
「……俺は海歌に、望むもんを与えられてんのか。よかった」
ずっと下ばかりを向いていた葛本は、嬉しそうに微笑み、海歌と目線を合わせた。
強い意志を感じる目だ。その瞳の奥底には、憎悪など感じない。
強い愛情が見え隠れしているような気がして、海歌は嬉しくなった。
死にたいと、考える必要などなかったのだ。
もっと早くから、海歌の自分勝手な思考を押し付け実行するのではなく――葛本と、向き合えばよかった。それだけで海歌は、欲しいものをなんでも手に入れられる。
「海歌」
「葛本。お近づきの印に、まずは連絡先を交換いたしましょう」
「……持ってねえ」
「……携帯電話、持っていないのですか?」
「普段はミツのを借りてんだよ。あれ使って、海歌とやり取りはしたくねえ」
葛本が普段利用している名義は山王丸のものらしい。
肌見放さず持っていると、意地悪なご令嬢に破壊される恐れがあったからだろう。
葛本は今まで、自宅へ戻る前に山王丸に預けていたらしい。
彼が携帯でやり取りを行う履歴はすべて従兄がチェックしているらしく、海歌とのやり方は見られたくないので、連絡先を教えるわけには行かないと告げられた。
(葛本とのやり取りを、山王丸さんに見られるのは嫌だ)
携帯番号を教えたら、当然のように山王丸から連絡が掛かってくる可能性を想像した海歌は、彼に謝罪をする。
葛本は気にした様子もなく海歌の肩を叩くと、射抜くような視線とともに耳元で囁く。
「死のうとすんなよ、海歌」
何度も念押しされているのに、死のうとするほど馬鹿ではない。
海歌は小さく頷き、葛本に誓った――。
「山王丸さんのことは、どうでもいいです。葛本は、どれに該当するのですか」
「どれだと思う?」
葛本は海歌に当ててみろと促した。
親愛、独占力、憎悪のうちどれか一つに該当するのならば、やはり憎悪だろうか。
何十年と暴力を振るわれ続けた彼の憎悪ほど、恐ろしいものはない。
「憎悪、でしょうか……」
「まーな。やられてる時は、絶対に殺してやるって憎悪を募らせてた」
「では……」
「残念だったな。不正解だ」
葛本は海歌へ向けて笑いかける。どうやら、機嫌が直ったらしい。
海歌はクイズに失敗したのに、葛本は喜んでいる。
(私に、知られたくないのか……)
海歌は打ち明けて貰えないことが少しだけ寂しくて。
葛本へ笑いかけられずに告白を聞く。
「まぁ、なんだ。海歌が生きて、隣にいてくれさえすれば、それでいい。それが俺の幸せだ。自分でそれを壊すようなことはしねえから、安心しろ」
「…………私が、生きていることは…………。葛本にとっての幸せ、なのですか」
「ああ。海歌は俺が、不幸な目に合うのは耐えられねえんだろ。どんなに辛くても、俺のために生きろよ」
「……葛本の、ために」
ずっと、生きる意味を探していた。
誰からも必要とされない海歌を、唯一必要としてくれたのは、葛本だけだった。
(葛本は、俺のために生きろと告げた。私が死ねば、不幸になるから……)
葛本が不幸になることを防ぎたい海歌は、やはり自ら死を選び取るようなことなど、してはいけないのだ。
「海歌が死んだときのことなんざ、考えたくもねぇけど……。ミツなら、壊れちゃったの一言で済ませるんだろうな。あいつは、人の痛みがわかんねえから」
「山王丸さんは、どうでもいいです」
「海歌はさっきからそればっかだな。今までさんざん、都合のいいように扱ってきたのに。ミツのことはどうでもいい奴扱いとか、よくわかんねぇな」
彼は海歌を鈍感だと何度か口にしているが、彼も大概だ。
山王丸は駄目で、葛本がいい理由は一つしかない。
海歌はどうしたら葛本に伝わるだろうかと思考する中で、海歌の毛先を弄ぶ彼の瞳を覗き込む。
「葛本はいつだって私に、望むものをくれるので……」
「……俺は海歌に、望むもんを与えられてんのか。よかった」
ずっと下ばかりを向いていた葛本は、嬉しそうに微笑み、海歌と目線を合わせた。
強い意志を感じる目だ。その瞳の奥底には、憎悪など感じない。
強い愛情が見え隠れしているような気がして、海歌は嬉しくなった。
死にたいと、考える必要などなかったのだ。
もっと早くから、海歌の自分勝手な思考を押し付け実行するのではなく――葛本と、向き合えばよかった。それだけで海歌は、欲しいものをなんでも手に入れられる。
「海歌」
「葛本。お近づきの印に、まずは連絡先を交換いたしましょう」
「……持ってねえ」
「……携帯電話、持っていないのですか?」
「普段はミツのを借りてんだよ。あれ使って、海歌とやり取りはしたくねえ」
葛本が普段利用している名義は山王丸のものらしい。
肌見放さず持っていると、意地悪なご令嬢に破壊される恐れがあったからだろう。
葛本は今まで、自宅へ戻る前に山王丸に預けていたらしい。
彼が携帯でやり取りを行う履歴はすべて従兄がチェックしているらしく、海歌とのやり方は見られたくないので、連絡先を教えるわけには行かないと告げられた。
(葛本とのやり取りを、山王丸さんに見られるのは嫌だ)
携帯番号を教えたら、当然のように山王丸から連絡が掛かってくる可能性を想像した海歌は、彼に謝罪をする。
葛本は気にした様子もなく海歌の肩を叩くと、射抜くような視線とともに耳元で囁く。
「死のうとすんなよ、海歌」
何度も念押しされているのに、死のうとするほど馬鹿ではない。
海歌は小さく頷き、葛本に誓った――。
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