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高校三年 デートと噂
死を望む人
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「エグすぎんだろ……アイドルのライブじゃねえんだから……」
「……これほどまで……」
これほど、死を望む人間がいるのか。
二人は驚きを隠せなかった。
人間は大勢が集まる場所へ、理由もわからず集まる習慣がある。
盛り上がっているから、誰かの付き添いなど。
本気でどうにかなるつもりのない人間も混ざっているだろうが――命と引き換えにしてでも、過去に未練を残した人や、この世界を壊したいと思う犯罪者予備軍がこれほど多くいるのならば。
『愛する人を取り戻すために、もう一度人生をやり直したい』
そう願い、不可能を可能とするべく行動する彼の目論見も……実現する日は近いのかもしれない。
「どうすんだ? 整理券配ってんならともかく、外でずっと並びっぱなしってのも、しんどいだろ」
「どのくらい待つか聞いてみましょうか」
「聞いたところで……」
「若草海歌様。葛本椎名様ですね」
「……誰だ、あんた」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「こちら、とは?」
「詳しいお話は、主がお話されるかと思いますので……」
顔を見合わせ、二人は頷き合う。
突然ナイフで襲われ、口封じに殺害されることはないだろう。
そう判断したからだ
声をかけてきたスタッフへ誘導されるがまま、会場内を歩く。
会場内は人で溢れかえっていたが、先導するスタッフはすいすいと奥へと迷いのない動作で案していき、とある部屋の前で止まる。
ノックをしてからドアを開けた人物が中に入ったのを確認し、葛本とともに歩みを勧めれば――。
「ようこそ、若草様。葛本さん。お二人のご訪問を、心より歓迎しますよ」
「てめえ……」
二人を出迎えたのは、涼風楓だった。
彼が話をするのなら、海歌が葛本を連れて説明会に顔を出した意味がない。
優しく微笑んだ男を睨みつける葛本の姿を不安そうに見つめながら、彼女は楓の言葉を待つ。
「普段は、数十人一気に説明を行うのですが……我が一族の後継者を人目に晒すのは憚られましてね。私からご説明させ頂きます」
「必要ねぇよ。説明なんざ……」
「あなた方には選ぶ権利がございます。当日、私どもとともに自ら命を断つか。誰かの騒ぎに便乗して、死ぬタイミングを測るか」
「必要ねぇって言ってんだろ!?」
「葛本……」
海歌は楓の説明を受け、集団自殺だけではなく、大規模テロを起こそうとしている話が事実であったと知る。
海歌はもっと楓から詳しい話を聞き出したかったが、男に対して怒声を浴びせた葛本の苛立ちは最高潮に達しているようだ。
彼は繋いだ手を引っ張り、海歌へ声をかけた。
「帰るぞ、海歌」
「待ってください。もう少し……」
「イカれた奴の妄想話に、付き合ってられるかよ!」
「お二人でしたら、どちらを選んでも、過去に戻って思い通りの人生を歩めるでしょう。基準となるのは、誰よりも強い未練があるかだけですからね。覚悟さえ決まれば、再び人生をやり直したあと願いを叶えるなど造作もないことです」
海歌は葛本に手を引かれるまま、部屋をあとにしようとはせず踏み止まる。
楓の企みに加担するつもりはないが、大規模テロに巻き込まれるわけには行かないのだ。
首謀者である彼から詳細を聞き出しておけるのなら、聞いておくに越したことはない。
「もっと他に、説明するべき重大なことはないのですか」
「ありますよ。お二人がどちらの選択肢を選び取らずとも、この世界で生きとし生けるものは、全て死に至ります」
「……なんつった?」
葛本が乗り気ではないことに気づいたのだろう。
楓は、彼が興味を持つであろう爆弾発言をした。
案の定聞き返した葛本に、楓は嬉々として説明する。
「世界中がパニックになると、こちらの計画に支障が出ますから。申し上げておりませんでしたが、三月三日十五時三十三分分に、この世界は滅亡します」
「……この説明会に選ばれたものだけが、真実を知っているのですか」
「そうです。どうせ死ぬのなら、過去に戻って人生をやり直した方がいいですよね」
「そんなわけ……」
「自ら死ぬ勇気のない人間は、破滅願望のある者に命を終わらせてもらえるように願うだけでいい。よくできていると思いませんか」
「狂ってやがる」
「否定はしません。事実ですので」
集団自殺や大規模テロを企て、人々を死に追いやろうとしている重罪人は、悪びれもなく宣言してみせた。
楓の言葉が正しければ異論を唱える意味などないが、世界がその時刻に滅びる保証がない。
証拠もないのに人々を巻き込み、大規模テロや集団自殺を実行しようとしている楓は、葛本が指摘する通り正気ではないのだろう。
涼風楓がやろうとしていることは、愛する妹を失った時の儀式によく似ている。
たった一人の命で世界が守られる。
どうせ滅亡するなら、みんなで一緒に命を終えよう。
規模が大きいか、小さいかでしかないのだ。
海歌は固い口調で、楓に向かって言葉を紡ぐ。
「私はお二人がどのような選択肢を選び取ろうとも、構いません」
「どっちでもいいなら、世界の真実なんてイカれた話をしねぇで黙ってろよ」
「葛本。落ち着いてください」
「イカれ野郎に付き合ってられっか!」
ある日突然世界が滅びると提案されても、信じるつもりはない。
海歌だって葛本と同じように、そのつもりだった。
楓の妄想だと吐き捨て、聞き耳を持つべきではないと彼女もよく理解している。
しかし……。
「……これほどまで……」
これほど、死を望む人間がいるのか。
二人は驚きを隠せなかった。
人間は大勢が集まる場所へ、理由もわからず集まる習慣がある。
盛り上がっているから、誰かの付き添いなど。
本気でどうにかなるつもりのない人間も混ざっているだろうが――命と引き換えにしてでも、過去に未練を残した人や、この世界を壊したいと思う犯罪者予備軍がこれほど多くいるのならば。
『愛する人を取り戻すために、もう一度人生をやり直したい』
そう願い、不可能を可能とするべく行動する彼の目論見も……実現する日は近いのかもしれない。
「どうすんだ? 整理券配ってんならともかく、外でずっと並びっぱなしってのも、しんどいだろ」
「どのくらい待つか聞いてみましょうか」
「聞いたところで……」
「若草海歌様。葛本椎名様ですね」
「……誰だ、あんた」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
「こちら、とは?」
「詳しいお話は、主がお話されるかと思いますので……」
顔を見合わせ、二人は頷き合う。
突然ナイフで襲われ、口封じに殺害されることはないだろう。
そう判断したからだ
声をかけてきたスタッフへ誘導されるがまま、会場内を歩く。
会場内は人で溢れかえっていたが、先導するスタッフはすいすいと奥へと迷いのない動作で案していき、とある部屋の前で止まる。
ノックをしてからドアを開けた人物が中に入ったのを確認し、葛本とともに歩みを勧めれば――。
「ようこそ、若草様。葛本さん。お二人のご訪問を、心より歓迎しますよ」
「てめえ……」
二人を出迎えたのは、涼風楓だった。
彼が話をするのなら、海歌が葛本を連れて説明会に顔を出した意味がない。
優しく微笑んだ男を睨みつける葛本の姿を不安そうに見つめながら、彼女は楓の言葉を待つ。
「普段は、数十人一気に説明を行うのですが……我が一族の後継者を人目に晒すのは憚られましてね。私からご説明させ頂きます」
「必要ねぇよ。説明なんざ……」
「あなた方には選ぶ権利がございます。当日、私どもとともに自ら命を断つか。誰かの騒ぎに便乗して、死ぬタイミングを測るか」
「必要ねぇって言ってんだろ!?」
「葛本……」
海歌は楓の説明を受け、集団自殺だけではなく、大規模テロを起こそうとしている話が事実であったと知る。
海歌はもっと楓から詳しい話を聞き出したかったが、男に対して怒声を浴びせた葛本の苛立ちは最高潮に達しているようだ。
彼は繋いだ手を引っ張り、海歌へ声をかけた。
「帰るぞ、海歌」
「待ってください。もう少し……」
「イカれた奴の妄想話に、付き合ってられるかよ!」
「お二人でしたら、どちらを選んでも、過去に戻って思い通りの人生を歩めるでしょう。基準となるのは、誰よりも強い未練があるかだけですからね。覚悟さえ決まれば、再び人生をやり直したあと願いを叶えるなど造作もないことです」
海歌は葛本に手を引かれるまま、部屋をあとにしようとはせず踏み止まる。
楓の企みに加担するつもりはないが、大規模テロに巻き込まれるわけには行かないのだ。
首謀者である彼から詳細を聞き出しておけるのなら、聞いておくに越したことはない。
「もっと他に、説明するべき重大なことはないのですか」
「ありますよ。お二人がどちらの選択肢を選び取らずとも、この世界で生きとし生けるものは、全て死に至ります」
「……なんつった?」
葛本が乗り気ではないことに気づいたのだろう。
楓は、彼が興味を持つであろう爆弾発言をした。
案の定聞き返した葛本に、楓は嬉々として説明する。
「世界中がパニックになると、こちらの計画に支障が出ますから。申し上げておりませんでしたが、三月三日十五時三十三分分に、この世界は滅亡します」
「……この説明会に選ばれたものだけが、真実を知っているのですか」
「そうです。どうせ死ぬのなら、過去に戻って人生をやり直した方がいいですよね」
「そんなわけ……」
「自ら死ぬ勇気のない人間は、破滅願望のある者に命を終わらせてもらえるように願うだけでいい。よくできていると思いませんか」
「狂ってやがる」
「否定はしません。事実ですので」
集団自殺や大規模テロを企て、人々を死に追いやろうとしている重罪人は、悪びれもなく宣言してみせた。
楓の言葉が正しければ異論を唱える意味などないが、世界がその時刻に滅びる保証がない。
証拠もないのに人々を巻き込み、大規模テロや集団自殺を実行しようとしている楓は、葛本が指摘する通り正気ではないのだろう。
涼風楓がやろうとしていることは、愛する妹を失った時の儀式によく似ている。
たった一人の命で世界が守られる。
どうせ滅亡するなら、みんなで一緒に命を終えよう。
規模が大きいか、小さいかでしかないのだ。
海歌は固い口調で、楓に向かって言葉を紡ぐ。
「私はお二人がどのような選択肢を選び取ろうとも、構いません」
「どっちでもいいなら、世界の真実なんてイカれた話をしねぇで黙ってろよ」
「葛本。落ち着いてください」
「イカれ野郎に付き合ってられっか!」
ある日突然世界が滅びると提案されても、信じるつもりはない。
海歌だって葛本と同じように、そのつもりだった。
楓の妄想だと吐き捨て、聞き耳を持つべきではないと彼女もよく理解している。
しかし……。
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