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しおりを挟むこの世界は【吸血鬼】と呼ばれる人型の生き物に支配されている。彼らは非常に高い身体能力を持っていて、人間10人が束になってかかったとしても吸血鬼1人すら倒すこともできないだろう。
王家や貴族も全て吸血鬼で、貴族は第一貴族から第五貴族まで存在する。彼らの力は遺伝によるものが大きく、身分の高い第一貴族程強く、第五貴族に下がるにつれて弱くなる。ーーそれでも人間よりは遥かに強い訳だが。
彼らは人間の血を主食として生きているのだが、彼らには自分たちに最も合う最高の血液を持つ【運命】と呼ばれる人間が一人いるらしい。それも、一生のうちで一人だけ。運命の相手に出逢うことが出来た吸血鬼は、類まれなる強さを手に入れることが出来るのだとか。
対して、この世界においての人間は、被支配階級に位置する生物だ。吸血鬼に管理される人間は、血液の純度
でSS・S・A・B・C・D・Eに細かく分類され、SS~Aは保護(という名の上位奴隷)対象、B・Cは平民階級、D・Eは奴隷階級を与えられる。勿論貴族共の気分次第で、どのランクの人間も奴隷にする事ができるのだが、一応の指標としてはこんな感じである。
そして、人間は【運命】の吸血鬼が相手なら、オスでも妊娠出産が可能という特異体質がある。
まぁそんなこんなで人間は吸血鬼が管理する平民街、スラム街で生殺与奪の全てを握られていると思ってくれればいい。
しかし、当然それに不満を抱く人間がいるわけで。そういった人間達が陰ながら集まって組織化したものが【吸血鬼狩り】だった。最初は悪口大会の集まりのようなものだったらしいが、それが増長し、拡大したのが今の俺たちだ。
今では、俺たち吸血鬼狩りは吸血鬼の数少ない弱点の一つである銀でつくられた様々な武器を携帯し、更には人間ではありえないほどの身体能力を駆使して吸血鬼と同等に戦うことができるようになった。当然犯罪組織として指名手配されているし、捕まれば極刑か吸血奴隷として最下層の人生を送ることになるのだが。
「はい、今日の分投与するから座って」
「あーい」
白衣の男性の言葉に頷けば、チクリとした痛みと共に首筋から薬液が体内に流し込まれる。この薬は、吸血鬼の血液を限りなく希釈して他にもなんか色々配合して作ったものらしい。俺たちが吸血鬼と同等に渡り合う為の身体能力を得る為の薬である。
ちなみに、先日俺が【宵闇の王】の血液を採取する任務を請け負ったのも、この血液を強化する為だ。
「はい、終わり。お疲れ様」
「お疲れ様でーす」
「あんまり無理しないでね。君は【エクスシア】の主戦力なんだから」
「はいー」
医務室を出て、広い廊下を歩く。結局宵闇の王の血液は、純度が濃すぎて人間に投与すれば細胞を破壊しかねないと言うことでお蔵入りになったらしい。命懸けで行った此方としては少々不満だが、仕方ない。ボーナスに期待しよう。
【エクスシア】とは、俺が所属する吸血鬼狩り組織の名前だ。【三大闇組織】と呼ばれる吸血鬼狩りの組織の内のひとつでもある。吸血鬼狩りをするのに何となくかっこよさそうな名前だからここを選んだ、と言った時のマスターの顔を思い出してクスクスと笑う。
俺は別に、母を殺された事も父をおかしくした吸血鬼の事も恨んではいない。他のメンバーのように何かしら吸血鬼への憎悪が募ったとかでもない。ただ、何となく向いてそうな気がしたのだ。
黒い軍服に身を包み、悠然と平民街を歩く。安静にするように、と言う医療部隊の男性の言葉は無視である。
マスターの意向により全く身を隠すことなく堂々と街を闊歩する【エクスシア】は、吸血鬼にとっては不気味な存在であるらしい。吸血奴隷を見繕う為に平民街へと降りてきた吸血鬼が、俺を避けるように逃げていく。
「ーー待ってくださいよぉ」
ーーズドン!!!
俺は躊躇いなく追い掛けて、質のいい服を見に纏った子どもの脳天を銃でぶち抜いた。前のめりにスっ倒れる子どもを認めた母親の絶叫が辺りに響く。続いて、激昂して此方に向かってきた母親を背負っていたハルバードで真っ二つにする。それでも構わぬとばかりに突き進んでくる無駄に丈夫な吸血鬼の母親の頭も、同じように銃でぶち抜いてやると、漸く白目を向いて仰向けに地に伏した。
平民街に絶叫が響く。人々が散り散りになって逃げ惑うのが面白くて、笑ってしまう。そして、子を失って怒り狂った母親とは違い、その場で腰を抜かしている父親らしき男の目の前に立った。ーーおやおや、失禁してしまっている。
「母親みたいに向かってこなくていいんですか?」
「ひ、ーーヒィッッ、た、助けてくれ」
「あらら、おしっこしちゃったんですね」
「か、金ならやる!ーーそうだ、儂の吸血奴隷になれ!!そしたら可愛がってやーーーーぁ、れ?」
髭面の吸血鬼は、漸く自分の首が胴体から離れていることに気付いたらしい。ハルバードを振り抜いた俺が、汚い血を払うのを呆然と見つめている。
たまたま擦れ違った部下に死体処理を任せ、ハルバードを背負い直して歩みを再会する。化け物を見るような目で此方を見ないで欲しいなぁ。同じ人間なのに。
黒い手袋に覆われた手の甲を摩る。俺の手には、人間として生を受けた瞬間から授けられた【S】という呪いが焼印されているのだ。
「吸血奴隷なんて死んでもごめんですよぉ」
欠伸が零れた。
腹の包帯を替えながら、部下が持ってきた監視カメラの映像を見つめた御門は湧き上がる狂気のままにニヤリと笑った。監視カメラには瞬きをするような速さで吸血鬼を殺す、黒服の少年が写っている。一切の躊躇いもブレもなく振るわれる武器が、美しい赤の弧を描く。
吸血鬼の目を避ける為だろう、これまた軍服と同様に真っ黒なゴーグルを付けている少年の顔は、はっきりとは分からない。ーー分からないが、御門にはその身のこなしに覚えがあった。
あの日御門に怪我を負わせた【夜桜の君】に間違いないだろう。さらに、全員を逃がさない為に子どもから狙う手口。残酷そのものだが、御門好みだ。弱い奴に興味はない。
「【エクスシア】か」
「はい、ハルバードが主武器の戦闘要因だと思われます」
「随分と目立つ武器を選んだな」
「……目立つのが目的かと」
成程、目立てば目立つ程吸血鬼が近寄ってくるからか。ーーそして、それら全てを屠り尽くす確固たる自信があるから。
くつくつと笑いを堪えきれない様子の御門に、部下は苦笑する。大怪我をして帰ってきて以来、随分と機嫌が良い主。部下的には嬉しい誤算だった。
「捕らえましょうか」
「あぁ、俺も出向こう」
「……随分と気に入られたのですね」
「……あぁ、【運命】だ。間違いなく」
あの日の血と性の味を思い出し、御門は歓喜に震えた。
「ーーへっっくし!……鼻痒いです」
「うわ、大丈夫?唄。無理しないでね」
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