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02.
しおりを挟む「『宵闇の王、御門 司、吸血鬼狩りになすすべなくーー。
吸血鬼狩りの組織。
その1つであり、その攻撃性から危険視されている【エクスシア】。三大闇組織のひとつであり、吸血鬼殺しを率先して行う彼らは「過激派」の派閥として認識され、煙たがられている。すれ違いざま何もしていないのに襲われたーーという吸血鬼も数知れず、吸血鬼側の事情など一切考慮しないその残虐さから、非常に恐れられている。更に、彼らは吸血鬼側に付く人間すら殺戮対象となる。彼らの狂気の手は人間か吸血鬼か、ではなく、人間側か吸血鬼側かで決まるのである。
彼らエクスシアのもう一つの特徴として、「必ず吸血鬼の血を採取して帰る」というものがある。
恐らく研究材料として使われていると言われているが、真偽の程は定かではない。しかし、【エクスシア】が持つ武器は吸血鬼にとって致死的なダメージを与え、防御力の高い吸血鬼を即死させる事もあるほどの威力を持つ。武器を創るのに利用されているというのが最も有力な説だ。
その為、今回の「宵闇の王の血を採取された」という噂が流れて恐れ戦かなかった吸血鬼はいないだろう。何せ彼が重症で保護されるなど初めてのことなのだ。噂は恐ろしい速度で広まり、我々が取り上げるまでもなく最先端の話題となった。しかし、陛下のお言葉では「脅威にはなり得ない」という。宵闇の王ほどの血液では、人間が上手く扱えることは無いと言う意味だと我々は推測したが、おそらく間違いはないだろう。』
ーーだとよ、一躍話題の的だなァ」
「はぁ、そうですか」
いつも通りの見回りのさなか、地面に落ちていた破れ掛けの記事を拾い上げ、朗々と読み上げた男は鼻で笑う。
こちらを見てニヤニヤと笑う彼は、一応俺の部下である。しかし年上で歴は彼の方が長いからか、どうにも突っかかってきがちだ。そんな彼に俺は曖昧に微笑み、ゴーグルの位置をなおす。しかし彼はどうにも不満な様子で鼻を鳴らすと、持っていたくしゃくしゃの新聞記事を俺に渡し、胸を小突いてきた。
「あんま出過ぎたマネはやめろ。こっちが迷惑だ」
「任務だったので仕方ないです。それに、」
「ちげえ、無闇矢鱈に殺すなって言ってんだ」
首を傾げてしまう。彼は一体何を言っているのだろうか。殺すのが、俺のエクスシアでの存在理由であり意義であるのに、殺すなとはこれ如何に。彼が言いたいことが分からなくて思わず立ち止まると、彼もピタリと足を止め、俺と向き合うように体の向きを変えた。
「俺ァお前に死んで欲しくねぇんだよ……」
「いつか死にますからいつでもいいんですよ」
そう、人はいつか死ぬ。それが早いか遅いかなんて、俺がーーましてや彼が決めることでは無いはずだ。尚も見つめ続けると、彼は溜息をついて目を逸らした。
記事に目を落とす。写真にはあの日見た桜の木の下で【宵闇の王】を囲むように集まる吸血鬼の姿が写っている。当然俺の姿は写っていないが、犯人としての目星はついているのだろうと思う。街の吸血鬼達も何処か不穏な出来事にピリピリとしている。
そんな中目立つ格好をした俺たちが街を歩いて注目されない訳もなく。
「みて、【エクスシア】よ」
「逃げましょう!殺されてしまうわ」
「おい、【エクスシア】だ……」
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ。
迷わず銃を向ける俺に、悲鳴が上がる。しかし引き金を引こうとした俺の手はあっさりと先程の男に止められてしまい、銃を奪い取られる。これ幸いとばかりに逃げていく雑魚共。
俺はどっちかと言うと戦闘を楽しみたいタイプなので、彼らみたいな弱い吸血鬼なんて論外だ。ただの駆除に過ぎない。本来ならば、奴ら程度銃一発でドンのはずなのに。思わず睨みつけるが、彼はまた鼻を鳴らすだけだった。癖なのだろうか。
関係ないが、目立つ為の【エクスシア】の衣装だが、最近はどうにも逆効果らしい。みんな警戒して逃げてしまうのだ。そろそろ改善策を講じる必要があると思う。
俺は銃を持つ手を掴んでいる手を振るが、ビクともしない。
「職務妨害ですかー?」
「やたらと手を出すのはやめろっつったろうがァ」
「聞くなんて言ってませーん」
花にたかる虫のように集まってくる彼らを殺し尽くすために、あえて目立つ格好で俺達は街を歩いているのに、なぜ彼は殺させたくないのだろうか。そろそろ俺も邪魔されすぎてイライラしてきた。
「貴様ら、【エクスシア】だな」
ーーほら、こいつらみたいなのを殺すための、この衣装なのだ。
漸くゾクリと湧き上がってくる殺戮衝動に思わずにやけてしまう。声を掛けたくせして訝しげにこちらの様子を眺める「軍」の吸血鬼達。そこそこ強そうな彼らに俺の笑みが深まる。ーー楽しめそうだ。
「そうだとしたら?」
「捕縛する」
「処分の間違いです?」
「殿下からの仰せだ。着いてきてもらおう」
そう言って武器を構える彼らに、俺は思わず噎せた。彼らの言う殿下とは、【宵闇の王】のことだろう。つまり、彼が探しているのは、ーー俺だ。
あらら。まぁまぁ。
「そうなんですねー、でも無理ですね」
嘲るような声を意識してそう言うと、彼らはプライドに障ったのか、一斉に襲いかかってきた。今度こそ邪魔はさせないと男を見るが、彼は俺を見ることなく目を閉じている。黙認する、ということだろう。微笑んで、ハルバードを取り出し緩く構えた。
静寂が街を包みこむ。
誰もが声すら出せずに固まっている。それ程までに彼らの目の前にある光景は、彼ら自身を守ってきた確固たる常識を覆すものなのだ。
綺麗に整頓されていた白い煉瓦造りの道はすっかり血に染まり、かつて軍の吸血鬼であったはずの肉塊が道に散乱している。新鮮な肉がビクビクと震える度、小さな悲鳴が上がる。
人間如きが自分達吸血鬼を蹂躙したのだ。ーーそれも圧倒的な力量差で。
それは、本来あってはならない事だ。
自然の摂理にすら反する事実だ。
地獄の底にあるような恐ろしい血の海の中心に立つ黒衣の少年。まだ少年特有のあどけなさを残す彼は、身の丈程の巨大な血濡れのハルバードを片手で持ち、一振りして血を落とす。まるで踊り子のような軽やかな動きで軍の吸血鬼を殺し尽くした彼は、溜息を着いた。
「飽きちゃいました」
ボソリと呟いたそれに、吸血鬼達はいきり立つ。この少年は自分達の同胞を殺しておいて、「飽きた」と言ったのだ。巫山戯た事をーー下賎な人間如きが。
しかし、誰も不満を口に出すことは出来ないまま、呆然と血の海を見つめている。地獄のような絵に、少年と共に歩いていたガタイのいい黒衣の男が呆れた様子で近付いた。
「おら、追っ手が来る前に帰んぞ」
「追っ手が来るのが狙いでは……?」
「いいから」
何やら揉めている様子の彼らの姿が消えていく。脅威は去ったのだ。にもかかわらず、連絡の取れなくなった仲間を探しに来た軍の人間がやって来るまで、その場にいた誰もが身動きすら出来ずに呆然と立っていた。
「『中尉を含む軍の吸血鬼7人が、【エクスシア】の人間1人に殲滅された。目撃者は多数。吸血鬼の『目』避けのゴーグルを付けており、顔の確認は出来ていない』
……ねぇ。またまた派手に動いたねぇ、唄。」
ニヤニヤとこちらを見つめる同僚、莉音。何が言いたいのか分からないまま肩をすくめると、莉音は呆れたように笑った。
「ただでさえ【宵闇の王】に狙われてるのに、軍の人間おびき寄せるのは悪手だよぉ。下手に隠れるよりはいいけど、唄の『武器』は目立つんだから。」
「狙われてるんですか?俺」
「そこから?……狙われてるんだよ。生け捕りにしようってね」
それは困る。Sランクの血液を持つ俺は、もし捕まれば一生飼い殺しになってしまうだろう。もぐもぐと粟飯を食べ進めながら、小さく頷く。
「分かりまひた、ひをふへまふ」
「はぁ……分かってないでしょ!唄になんかあったら、マスターの機嫌が悪くなるんだから、とばっちりくらう僕達の身にもなってよねぇ。てゆーか僕も心配してるんだから!」
プリプリと可愛らしく怒る莉音に周囲の部下がデレっとしている。じっと見つめてやると顔を一斉に背けられた。すると、莉音は片耳にしか聞いていない俺の頭を鷲掴み、おでことおでこをぶつけてきた。地味に痛い。
「唄でも抵抗すらできなかったんでしょ?【宵闇の王】にバレたら、それこそマスターがいないと連れ去られちゃうよ。簡単に」
莉音の発言は俺のプライドを傷付けるもので。周囲の部下が顔を青ざめさせる。唄が唯一嫌っているのが名誉毀損だと彼らは重々知っているのだ。別にそんなに身構えなくても、莉音は正しいので若干腹は立つが怒ったりはしない。ーー腹は立つが。
「分かりました。暫く隠密しますって」
「……ならいいけどぉ……しないんだろうなぁ」
むぅ、と唇をとがらせる莉音。可愛らしいその小さな唇を摘んでやると、再びプリプリと怒り出す。可愛い莉音に昼の見回りから溜まっていたイライラが消えていくのが分かる。
俺がいつ死んでもいいと言った時に、泣いてくれた莉音。死なないでと叫んでくれた莉音。その言葉が俺を縛ると知っていて、それでも離したくないのだと言ってくれた。
莉音のお願いなら、そうしよう。
俺は、粟飯をおかわりしながら太もものホルダーに入れた銃をするりと触った。
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