【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる

春野オカリナ

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一度目の人生

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 全ての事柄には、必ず始まりと終わりがある。そういったのは誰だったのか分からないが、確かにこの話にも始まりはあった。

 イエニー・フラウ。

 彼女は裕福なフラウ侯爵家の一人娘だった。
 
 しかし、彼女は家族には恵まれなかった。それが今回の事件に発展したのだと私、クリント・モーガンは考えている。

 それではここより、彼女が独白した内容を書き記した手記をご覧ください。






 私、イエニー・フラウは生まれた時から愛されない子供でした。

 どうしてそう思うのか分からないでしょう。

 両親は物心ついた時から不仲?というよりどこか他所他所しかったのです。

 何か特別な事情があったのでしょう。そのことが起因して、私に対しても愛情を向ける事が出来なかったのだと、後で知りました。

 全ての原因は、両親に愛されていない私が一人の男性に精神的に依存したことがきっかけでした。

 誰でも辛い時に傍で優しくしてくれる人間に心を預けるのは当たり前だと思いますが、私の場合その依存は過度だったと思います。執着していたのです。盲目的に彼を愛していると信じ切っていた私は邪魔なものがいなくなれば、彼が自分を愛してくれると考えていた愚か者だったのです。

 愛には色々な形があり、一つではない事を私は知らなかったのです。

 ただその想いに縋る事しか、自分の価値を見いだせなかった幼い私。そのままに大人になってしまった私は彼の言われるままの人形のようでした。

 一度目の私の人生からお話ししましょう。

 両親は、屋敷の中でお互いに目を会わせず、会話もない状態でした。

 しかし、時々父はふとした時に母をずっと見つめているのです。それが愛だとは幼い私に分かるはずもなく、母にそれを告げる事もしなかったのです。

 ある日、母は壊れて、父の目の前でバルコニーから、

 「そんなにわたくしが疎ましいのなら、消えて差し上げるわ。そして、ローザと一緒になればいい」

 そう叫んで身を投げました。父は母の手を掴もうとしましたが、その手が届くことはなかったのです。

 ドサッと鈍い音と共に赤く染まった母の姿がまだ5才にもならない私の脳裏に焼き付きました。

 葬儀が終わった頃に彼女はやってきました。

 それがメリル・リープだったのです。

 彼女の母親は、ローザ・リープ。

 そう言えば、彼女が何者かお分かりでしょう。

 彼女は、父シドニー・フラウとローザ・リープとの間に生まれた子供だったのです。

 父には大きな秘密がありました。

 母が私を妊娠していた時にローザに薬を盛られて事に及んだのです。しかも、父が無抵抗なのをいいことにローザは父の上に跨って犯したのです。

 潔癖症に近かった父は大層ショックを受けていました。

 それからです。父は愛する母を見る度にあの女、ローザを思い出して母を避ける様になったのです。そのことが母の精神が病んでいく原因になるとは思わなかったのでしょう。

 母は急に態度が余所余所しくなった父を疑いました。

 そして、母宛てにある手紙が送られてきたのです。

 ローザからのもので、父との間に子供が出来た事を知らせるものでした。母は後悔しました。

 従姉妹であるローザを嫁ぎ先に一時でも匿った事を……。

 ローザ・リープは子爵令嬢で、結婚を嫌がって家を飛び出したのです。

 それを憐れに思った母が婚家に匿うように暫く滞在させていました。

 後から詳しく調べたところ、ローザは複数の男性と行為に及んでいて、誰の種か分からなくなり、幸せな母エレナに嫉妬してあの様な事をしでかしたのでした。

 母は、ローザを引き入れた事によって幸せが壊れた事に罪悪感を持つようになり、とうとう自分を追い詰めて死を選んだのです。

 母が亡くなってから、父はますます仕事人間になり、私を顧みる事はなくなりました。

 きっと母とよく似た私を見ることに耐えられなかったのでしょう。

 私がブライアンに依存していくようになったのはそれからです。

 優しい彼と一緒に居る時だけが、嫌な事を忘れられる様になったからです。

 父とブライアンの父は学生時代からの親友同士で、ブライアンは父親に連れられて昔からよく遊びに来ていました。

 母を亡くしてからは特に父を気遣って、レーガン・マシュー侯爵は度々訪れる様になったのです。

 そして、お互いの家の為に私とブライアンは婚約しました。

 でも、気付いてしまったのです。ブライアンが侯爵家に来ていても、何時もメリルの方を見ている事に…。

 気付いていても、いつか私の方を見てくれると信じていました。現実から目を背けていたのです。

 そんな僅かな期待も粉々に砕け散ったあの夜。

 私はブライアンと結婚して新婚の初夜を迎えました。

 ブライアンは貴族の義務と言わんばかりに処女の私を乱暴に抱き、事が終われば自分の部屋に帰って行きました。

 次の日から彼はメリルのところから帰って来なくなり、私は一人寂しく侯爵家で過ごすことになったのです。

 5か月ごろになってやっと帰ってきた私を見ると、

 「お前のような女を妻にしなければならない俺の気持ちは分からないだろう」

 と詰りました。
 
 私の大きなお腹を見て今度は、

 「不貞を犯した売女め!!」

 そう言って罵ったのです。

 お腹の子はあの初夜の一度きりで出来た子供でブライアンの子供に違いなかったのです。

 彼が私を殴ろうとした瞬間、避けようとした私の身体は階段下に転落したのです。

 落ちていく私を冷たく見下ろす彼の目を忘れる事はできませんでした。

 一命を取り留めて意識が回復した私に医師が、

 「残念ながら、二度とお子は授かれないでしょう」

 そう告げてきたのです。

 どんなに愛しても愛されない私は、全てに絶望して、純白のウェディングドレスに着替えた後、彼らの待つ寝室に向かったのです。

 この頃にはブライアンは、両親が領地で隠居しているのをいいことにメリルを屋敷に引き入れていました。

 彼らは獣の様にあの初夜に使った夫婦の寝台で、盛って睦あっていたのです。

 「何をしに来たんだ。ささっと出ていけ!」

 「ふふ、それとも私がブライアンに愛されているところを見物に来たのかしら。可哀想にお飾りの愛されない妻なのにね。貴女が私に勝てるとしたら、その血筋だけよ」

 二人の嘲笑う声が部屋中に木霊している中、私はバルコニーの窓を開けてその身を投じました。

 手を伸ばして止めようとしているブライアンの姿が最後に見えたのは、きっと神の慈悲だったのかもしれません。

 そうして純白のドレスを自らの血で赤く染めたのです。

 何故、ウェディングドレスをと疑問に思われるかもしれませんが、あの結婚式が自分の人生で最も幸せな瞬間だったのです。

 その思い出と共に死にたかったのでしょう。

 それが一度目の人生でした。

 これで苦しみから解き放たれると思っていたのに、目が覚めると私は時間を遡っていたのです。

 5才の自分に戻っていたのです。

 そうして、私は二度目の人生を歩むことになったのでした。

 

 
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