【本編完結】この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして

春野オカリナ

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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして

餌付けされている?

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 広い食堂で旦那様との二人だけの食事はなんだか寂しい。

 だからと言って使用人たちと和気藹々という訳にもいかないのが貴族の世界。

 最近、旦那様は私の口に食べ物を運ぶことが楽しみだというけれど、私は雛鳥ではない。自分の手で食べられる。

 この国の貴族令嬢や令息の食事の作法指導は、母親の役目なのだ。しかし、私の母親は平民出で既に亡くなっている。旦那様は私の事情をどうやらご存知の様で、何から何まで準備万端に整えてくれている。

 食事のマナーは旦那様が教えてくれることになった……はずなのに……なんでこうなった?

 今までは旦那様は向かい合わせで食事を摂っていたはずなのに、今はどうだ。真横に席を移している。

 しかも私の手を取り、前菜はこれをメインはこれとこれをとそれは甲斐甲斐しく世話を焼くのは良いけれど、でもですよ!それならどうして食事の時間になると私を横抱きにした旦那様は私の口に食べ物を運ぶんだろうか?

 ちょっと違いますよね!はっきり言ってマナーを覚える意味がないのでは……?

 私は、旦那様の嫌いな人参スープを旦那様の口に放り込んだ。

 「美味しいでしょう?人参・・スープ」

 「うん、美味しいね。じゃあ、食べさせ合いっこしようか」

 そう言って満面の笑みを見せて私の口にまた食べ物を放り込む。

 おかしい…どうして…ニックが言っていたのに…これでは細やかな報復の意味がない。

 嫌いだと聞いていたのに嬉しそうに咀嚼する姿が憎らしい。むむむっ。負けてなるものかと次々とお互いに食べ物を食べさせ合っている。

 これでは単なるバカップルだ!

 「僕の可愛い奥さんはもう少し肉付きをよくしないとね……抱き心地がちょっと…」

 何だか旦那様の手の動きが怪しくなっていく。

 ぺしりっと旦那様の手を叩いて動きを止めた。

 毎日こんな食事の時間は疲れるのだけれど……。

 しかも、食事だけではない。お茶の時も同じように食べさせられる。

 確かに私は貧相な体つきをしている。でも、自称記憶喪失で10才の精神年齢を押し通すなら、そんな不埒な言葉を言わないでほしい。

 朝から晩まで私達のイチャイチャバカップルぶりを見ながら使用人たちは口から砂糖が出そうな表情をしていた。

 
 そして、私はその夜の晩餐でやらかしてしまった。

 飾りでついていたラディッシュをフォークで刺そうとしたら、あら不思議ラディッシュが空中を彷徨って、ロータスの眉間の皺にヒットした。

 そしてそのまま一枚のラディッシュを眉間に張り付けたまま彼は給仕に徹していた。

 流石プロの家令だ!

 そう感心していたら、周りの侍女やルファスさん、それに旦那様「ブフッ」って言いましたよね。もしかして吹き出しました。

 私だって笑いを堪えているのに……。

 だって、今笑ったら明日からの地獄の淑女教育コースが待っているでしょう。きっと旦那様だって執務の書類を増やされるんじゃあないですか?

 この場の全員の肩が小刻みに揺れている。きっと笑いを堪えているんだ。

 ジロリッと睨まれたような気がしたが、この際、気の所為だと思う事にしよう。うんそうしよう。私は見ない言わない聞こえなーいっと……だけれどやっぱり気になる……。

 「あのう、ロータスさん。眉間に……」

 「ええ、奥様が飛ばしたものですね・・・・・・・・・・・・

 「ははは……すみません…」

 わざとではないんですよ。だから地獄の淑女教育コースは止めてください!!


 私の心のHPがまた減っていったのだった。


 翌日、老家令ロータスさんによる静かな報復?『地獄の淑女教育コース』が用意されていたことは言うまでもない。

 因みに旦那様も一日中、執務室から出してもらえなかった。自業自得なのである。

 その日一日旦那様不足でなんだかちょっと淋しい気がしたのは気の所為なのだろうか……?

 ん…?あれ…?もしかして私、密かに旦那様に餌付けされてしまっている?

 そして今宵もまた、仁義なき夫婦のやり取りが寝室で繰り返されたのだった。

 
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