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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
密談〜ラインハルト〜
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応接室からアシュリー達が退出した後、僕はアルバート、ロバート、ルファス、ロータスらと執務室に移動した。
アルバートと僕は同じ年で、彼の弟のロバートは僕らより一つ下だった。乳兄弟のルファス、伯父のロータス。彼らは本当の僕を知っている数少ない味方だ。
「では、殿下いえ、公爵。王都の近況報告から」
「ああ」
アルバートは現在宰相の補佐官を務めている。弟のロバートは王宮騎士団に配属されている。現在は第4王子レナードの護衛だ。
まだ、レオパルドの母親は側妃になれていない。それはメイナード侯爵家を筆頭に身分が低いと言う理由だった。王妃は侯爵家以上の家からと法で定められている。
子爵家出身でも側妃にはなれる。
しかし、高位貴族の作法を学んでおらず、公式な場での対応は確かに難しいものがある。
今度の夜会でレオパルドを正式に王太子に据えるために国王は動いている。その為に僕に邪魔になるメイナード侯爵家を排除せよとの命令文が届いていた。
つまり5年前の借りを返す機会をくれた訳だ。そして、僕の愛しい妻アシュリーを連れてくるようにとも言われている。
国王の思惑は分かっている。大勢の臣下の前で弟に臣下の礼を取らせるつもりなのだ。
そして、僕という後ろ盾を持っている事も貴族達に知らしめたいのだろう。
僕には断るという選択はなかった。約束通りこれが最後の情なのだと言うように、5年間は僕の好きにさせてくれていた。
だから、僕も約束通り、弟を守る。それがアシュリーを守る一番の最善だからだ。
彼女は、僕さえいれば貴族でなく平民として暮らしても構わないと思ってくれている。僕もそうしたいが、そういう訳にもいかない。
王家の長子としての責務は果たさなければならない。何とも面倒臭いことだと思うが仕方がない。
夜会までにやらなければならない事が沢山ある。
話を詰めていっていると、アシュリーにつけていた侍女が執務室のドアを叩いた。
「大変です。奥様が倒れられました」
その言葉に僕の口からヒューッと空を切るような音がした。心臓が止まりそうだった。
そんな…さっきまで元気だっただろう。一体何があったんだ。毒…等という事はないか……。
頭と心はチグハグに動いている。
心臓はバクバクと鼓動が早くなっているのに、頭の何処かは冷静に分析している。こんな時はかつての王太子教育が恨めしい。
どんなに愛しい人が危険に曝されても僕の中で長年培ってきた教育が邪魔をする。それが僕という人間を冷たいと表現する所以だ。
僕の中に残っている忌々しい過去の残骸だ。
「医師を呼んでこい!!」
僕は直ぐにアシュリーのいるサロンに向かった。
アシュリーは青白い顔をして、意識はなかったが呼吸は乱れていなかった。
毒ではない。
ホッとしながら、彼女を抱き上げて彼女の自室に向かった。焦っている僕を揶揄うようにデボラ・カートン伯爵夫人は、
「公爵、きっと大丈夫ですわ」
クスクスと嗤っている姿が憎らしい!
僕が睨んでいると、彼女のその表情はまるで良かったですね。と言わんばかりだった。
何がそんなに嬉しいのか分からなかった。
その理由は、医師から告げられて僕もようやく理解した。
「閣下、おめでとうございます。夫人はご懐妊されておいでです。そうですなあ、ざっと2ヶ月過ぎぐらいかと思われますので、今後の行動は慎重にしてください」
「えっ…子供……」
僕は思わぬ言葉に戸惑った。嬉しい反面、子供が生まれればアシュリーを独り占めできないかもと思いながら、これで彼女は僕の元をされない理由が出来たと自分勝手な事を考えていた。
家族とは無縁な生活をしていた僕には自分の子供に対する喜びよりも不安の方が大きかったのだ。
僕はアシュリーが目覚めるまで手を握っていた。
彼女が目覚めたらどんな顔をするのだろう。喜んでくれるのだろうか。それとも……。
僕の不安を他所に彼女は目覚めて開口一番に口にしたのは、
「…?ハルト様。そんな泣きそうな顔をしてどうしたのです。私は一体…あ…しまったお菓子を食べ損ねた」
自分が倒れたことよりもお菓子を食べ損ねてガクリと項垂れる彼女を見て、僕は安心してしまった。彼女なら子供が出来てもきっと今まで通りだろう。
後は僕がそう過ごせるように周りを整えるだけだ。
僕は決心した。速やかに害虫駆除をすることを……。
「アシュリー様。おめでとうございます。ご懐妊だそうですよ」
「ご解任?もしかして妻解任ですか?」
「はっ……?どうしてそうなる」
「だって、ご解任だって…えっ?懐妊…?赤ちゃんの事?」
「そうだよ。君のお腹には僕との子供がいるんだ。これからはあまり無理をしてはいけないよ」
「えええ…!じゃあ、洗濯もお料理もですか?」
「それだけじゃない!畑仕事もだ」
「そ…そんな──」
後ろからデボラたちが「公爵夫人が畑仕事って」と呟いていたことは無視することにした。
兎に角、アシュリーは子供を身籠ってもやっぱりアシュリーだった。僕の不安は杞憂に終わったのだが、それにしても「妻解任」なんて何処からそんな恐ろしい考えを持っているんだ。これは安定期になったらみっちりと彼女に分からせなければならないなと僕は考えていた。
アルバートと僕は同じ年で、彼の弟のロバートは僕らより一つ下だった。乳兄弟のルファス、伯父のロータス。彼らは本当の僕を知っている数少ない味方だ。
「では、殿下いえ、公爵。王都の近況報告から」
「ああ」
アルバートは現在宰相の補佐官を務めている。弟のロバートは王宮騎士団に配属されている。現在は第4王子レナードの護衛だ。
まだ、レオパルドの母親は側妃になれていない。それはメイナード侯爵家を筆頭に身分が低いと言う理由だった。王妃は侯爵家以上の家からと法で定められている。
子爵家出身でも側妃にはなれる。
しかし、高位貴族の作法を学んでおらず、公式な場での対応は確かに難しいものがある。
今度の夜会でレオパルドを正式に王太子に据えるために国王は動いている。その為に僕に邪魔になるメイナード侯爵家を排除せよとの命令文が届いていた。
つまり5年前の借りを返す機会をくれた訳だ。そして、僕の愛しい妻アシュリーを連れてくるようにとも言われている。
国王の思惑は分かっている。大勢の臣下の前で弟に臣下の礼を取らせるつもりなのだ。
そして、僕という後ろ盾を持っている事も貴族達に知らしめたいのだろう。
僕には断るという選択はなかった。約束通りこれが最後の情なのだと言うように、5年間は僕の好きにさせてくれていた。
だから、僕も約束通り、弟を守る。それがアシュリーを守る一番の最善だからだ。
彼女は、僕さえいれば貴族でなく平民として暮らしても構わないと思ってくれている。僕もそうしたいが、そういう訳にもいかない。
王家の長子としての責務は果たさなければならない。何とも面倒臭いことだと思うが仕方がない。
夜会までにやらなければならない事が沢山ある。
話を詰めていっていると、アシュリーにつけていた侍女が執務室のドアを叩いた。
「大変です。奥様が倒れられました」
その言葉に僕の口からヒューッと空を切るような音がした。心臓が止まりそうだった。
そんな…さっきまで元気だっただろう。一体何があったんだ。毒…等という事はないか……。
頭と心はチグハグに動いている。
心臓はバクバクと鼓動が早くなっているのに、頭の何処かは冷静に分析している。こんな時はかつての王太子教育が恨めしい。
どんなに愛しい人が危険に曝されても僕の中で長年培ってきた教育が邪魔をする。それが僕という人間を冷たいと表現する所以だ。
僕の中に残っている忌々しい過去の残骸だ。
「医師を呼んでこい!!」
僕は直ぐにアシュリーのいるサロンに向かった。
アシュリーは青白い顔をして、意識はなかったが呼吸は乱れていなかった。
毒ではない。
ホッとしながら、彼女を抱き上げて彼女の自室に向かった。焦っている僕を揶揄うようにデボラ・カートン伯爵夫人は、
「公爵、きっと大丈夫ですわ」
クスクスと嗤っている姿が憎らしい!
僕が睨んでいると、彼女のその表情はまるで良かったですね。と言わんばかりだった。
何がそんなに嬉しいのか分からなかった。
その理由は、医師から告げられて僕もようやく理解した。
「閣下、おめでとうございます。夫人はご懐妊されておいでです。そうですなあ、ざっと2ヶ月過ぎぐらいかと思われますので、今後の行動は慎重にしてください」
「えっ…子供……」
僕は思わぬ言葉に戸惑った。嬉しい反面、子供が生まれればアシュリーを独り占めできないかもと思いながら、これで彼女は僕の元をされない理由が出来たと自分勝手な事を考えていた。
家族とは無縁な生活をしていた僕には自分の子供に対する喜びよりも不安の方が大きかったのだ。
僕はアシュリーが目覚めるまで手を握っていた。
彼女が目覚めたらどんな顔をするのだろう。喜んでくれるのだろうか。それとも……。
僕の不安を他所に彼女は目覚めて開口一番に口にしたのは、
「…?ハルト様。そんな泣きそうな顔をしてどうしたのです。私は一体…あ…しまったお菓子を食べ損ねた」
自分が倒れたことよりもお菓子を食べ損ねてガクリと項垂れる彼女を見て、僕は安心してしまった。彼女なら子供が出来てもきっと今まで通りだろう。
後は僕がそう過ごせるように周りを整えるだけだ。
僕は決心した。速やかに害虫駆除をすることを……。
「アシュリー様。おめでとうございます。ご懐妊だそうですよ」
「ご解任?もしかして妻解任ですか?」
「はっ……?どうしてそうなる」
「だって、ご解任だって…えっ?懐妊…?赤ちゃんの事?」
「そうだよ。君のお腹には僕との子供がいるんだ。これからはあまり無理をしてはいけないよ」
「えええ…!じゃあ、洗濯もお料理もですか?」
「それだけじゃない!畑仕事もだ」
「そ…そんな──」
後ろからデボラたちが「公爵夫人が畑仕事って」と呟いていたことは無視することにした。
兎に角、アシュリーは子供を身籠ってもやっぱりアシュリーだった。僕の不安は杞憂に終わったのだが、それにしても「妻解任」なんて何処からそんな恐ろしい考えを持っているんだ。これは安定期になったらみっちりと彼女に分からせなければならないなと僕は考えていた。
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