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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
事件です!
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ハルト様が夜会でお仕事中の間、私はアグネス様とのんびりお茶をしているはずだった。
しかし、やっぱり私は巻き込まれてしまったのだ。
夜会開始の音楽が宮にも聞こえてきた。
何かあってはいけないと護衛と後から来たリサに世話を焼かれながら、医師の診察を受けている。
「まだ、もう少し時間がかかりそうですね」
「明け方かしら」
「いやこの分だと明日に本格的な陣痛があるかもしれませんね」
「まあ、それなら夜会が済み次第、準備している部屋に移る用意をしなくては」
アグネス様は、宮にいる侍女に状況をハルト様に報告に行かせた。
元々愛妾アグネス様の宮は特別に護衛や侍女らも多めに配属されている。それは陛下の寵愛の深さだと思うがハルト様の気持ちを考えると複雑だ。
同じ王子だというのにこの人の産んだ王子だけを大切にしている。
王宮で早くに母を亡くして、孤独な少年期を過ごしたハルト様の事を考えると胸が痛む。
同時にこんな冷たい場所からハルト様が出られた事を、神に感謝したいぐらいだとも思った。
「お産の為の部屋に今のうちに移りましょう」
そう促され、私はアグネス様に付き添われる形で部屋に向かう廊下を歩いていた。
すると、何かを引き摺るようなズルズルという音が聞こえてきて、
「やっと見つけたわ。アグネス…お前の所為でわたくしはこんな姿に……」
その地を這うような声の持ち主は乱れた髪は半分ぐらい抜け、顔の半分を包帯で覆い、白い寝間着姿で現れた。
「ひっ!!」
侍女たちが小さな悲鳴を上げた。
「イランジェ妃様…」
アグネス様は驚いていた。
3年前に疫病で倒れた側妃イランジェは一命を取り留めたが、変わり果てた姿になったのだ。それ以来後宮の奥深くに閉じこもっているはずの人が今、私達の目の前にいた。
「ようやく念願が叶うわ。今日がお前の命日になるのよ。死んでもらうわ」
目が血走って手には短剣が握られていた。側妃イランジェはアグネス様に真っ直ぐに向かって突進した。
私はとっさにアグネス様を突き飛ばして、自分も転んでしまった。
側妃イランジェはその場で騎士に取り押さえられたが、お腹を打ってしまった私は破水してしまい、パリスに抱きかかえられながら急いで部屋に連れて行かれた。
後ろの方で、側妃の声が暗い回廊の中を木霊している。
「呪ってやる。お前のせいでわたくしは陛下に愛されなかった。お前はグレイシア王妃の身代わりの癖に…わたくしの方が相応しかったのに…呪われろ!お前の子供もお前も呪われて死んでしまえ──アハハハハ──……」
そんな声が私に纏わりつく様に聞こえてきた。
グレイシア王妃…?ハルト様のお母様の名前。一体どういう事…。
私は亡くなった王妃の肖像画を見たことがなかった。
でも今はそれどころではない。
「お…お腹が痛い…」
苦痛に顔が歪んで嫌な汗が滲み出ている。
ベッドに寝かされて侍女たちが世話しなく、部屋の中と外を動き回っている。苦しむ私の手を握ってくれたのはアグネス様だった。
ああ、お母さんが生きていたらこうして手を握ってくれただろうか?
そんな事を考えている余裕があったのは束の間で、私は何度も意識を失って大変な目に遭っていた。
騒ぎを聞きつけて、ハルト様が夜会の途中で私の様子を見に来た時には、
「ラインハルト様、もしもどちらかを選ばなくてはならない時はどちらを優先致しますか?」
「そんな事は決まっている。アシュリーを優先させよ!」
外でのやり取りを聞いていた私は思わず、
「ダメよ。それなら子供を…子供を優先して…」
涙ながらに訴えた。しかし、ハルト様は納得しなかった。
「奥様、いきんで下さい!もうすぐお子様が生まれますよ」
そう産婆に言われるが、いきもうとしてもうまく力が入らない。
段々意識が遠のいていくのがわかる。
外から、ハルト様が大声で、
「君は僕と誓っただろう。僕とこれからも一緒に生きると、がんばるんだ。僕から離れることは死んでも赦さない」
そう言っている声が聞こえた。
同時に誰かが私に「アシュリーこっちに来てはいけない。彼の元に帰りなさい」と私を押し返す声が聞こえる。
その声に背中を押されるように最後の一息を踏ん張った。
「ふぎゃあーーーほぎゃああ」
その小さな鳴き声に部屋の中と外は静まり帰った。同時にわあっと侍女たちや騎士から歓声が上がったのだ。
「おめでとうございます。姫君ですよ」
そうリサに告げられて私はホッと安堵した。
意識が混濁する中、ハルト様は、
「二度と子供は望まない」
そんな事を言っていた気がした。
だが、私は疲れていて、深く眠りについたのだった。
この日の夜会で何があったのかは数か月経ってから聞かされた。
生まれた私とハルト様の女の子は、
──アンジェリカ
と名付けられた。
ハルト様の銀色の髪とアイスブルーの瞳をもらい顔立ちの全体部分は私に似ていた。
とても美しい赤ん坊だった。
この日、王家に久々の王女の誕生となったのだ。
しかし、やっぱり私は巻き込まれてしまったのだ。
夜会開始の音楽が宮にも聞こえてきた。
何かあってはいけないと護衛と後から来たリサに世話を焼かれながら、医師の診察を受けている。
「まだ、もう少し時間がかかりそうですね」
「明け方かしら」
「いやこの分だと明日に本格的な陣痛があるかもしれませんね」
「まあ、それなら夜会が済み次第、準備している部屋に移る用意をしなくては」
アグネス様は、宮にいる侍女に状況をハルト様に報告に行かせた。
元々愛妾アグネス様の宮は特別に護衛や侍女らも多めに配属されている。それは陛下の寵愛の深さだと思うがハルト様の気持ちを考えると複雑だ。
同じ王子だというのにこの人の産んだ王子だけを大切にしている。
王宮で早くに母を亡くして、孤独な少年期を過ごしたハルト様の事を考えると胸が痛む。
同時にこんな冷たい場所からハルト様が出られた事を、神に感謝したいぐらいだとも思った。
「お産の為の部屋に今のうちに移りましょう」
そう促され、私はアグネス様に付き添われる形で部屋に向かう廊下を歩いていた。
すると、何かを引き摺るようなズルズルという音が聞こえてきて、
「やっと見つけたわ。アグネス…お前の所為でわたくしはこんな姿に……」
その地を這うような声の持ち主は乱れた髪は半分ぐらい抜け、顔の半分を包帯で覆い、白い寝間着姿で現れた。
「ひっ!!」
侍女たちが小さな悲鳴を上げた。
「イランジェ妃様…」
アグネス様は驚いていた。
3年前に疫病で倒れた側妃イランジェは一命を取り留めたが、変わり果てた姿になったのだ。それ以来後宮の奥深くに閉じこもっているはずの人が今、私達の目の前にいた。
「ようやく念願が叶うわ。今日がお前の命日になるのよ。死んでもらうわ」
目が血走って手には短剣が握られていた。側妃イランジェはアグネス様に真っ直ぐに向かって突進した。
私はとっさにアグネス様を突き飛ばして、自分も転んでしまった。
側妃イランジェはその場で騎士に取り押さえられたが、お腹を打ってしまった私は破水してしまい、パリスに抱きかかえられながら急いで部屋に連れて行かれた。
後ろの方で、側妃の声が暗い回廊の中を木霊している。
「呪ってやる。お前のせいでわたくしは陛下に愛されなかった。お前はグレイシア王妃の身代わりの癖に…わたくしの方が相応しかったのに…呪われろ!お前の子供もお前も呪われて死んでしまえ──アハハハハ──……」
そんな声が私に纏わりつく様に聞こえてきた。
グレイシア王妃…?ハルト様のお母様の名前。一体どういう事…。
私は亡くなった王妃の肖像画を見たことがなかった。
でも今はそれどころではない。
「お…お腹が痛い…」
苦痛に顔が歪んで嫌な汗が滲み出ている。
ベッドに寝かされて侍女たちが世話しなく、部屋の中と外を動き回っている。苦しむ私の手を握ってくれたのはアグネス様だった。
ああ、お母さんが生きていたらこうして手を握ってくれただろうか?
そんな事を考えている余裕があったのは束の間で、私は何度も意識を失って大変な目に遭っていた。
騒ぎを聞きつけて、ハルト様が夜会の途中で私の様子を見に来た時には、
「ラインハルト様、もしもどちらかを選ばなくてはならない時はどちらを優先致しますか?」
「そんな事は決まっている。アシュリーを優先させよ!」
外でのやり取りを聞いていた私は思わず、
「ダメよ。それなら子供を…子供を優先して…」
涙ながらに訴えた。しかし、ハルト様は納得しなかった。
「奥様、いきんで下さい!もうすぐお子様が生まれますよ」
そう産婆に言われるが、いきもうとしてもうまく力が入らない。
段々意識が遠のいていくのがわかる。
外から、ハルト様が大声で、
「君は僕と誓っただろう。僕とこれからも一緒に生きると、がんばるんだ。僕から離れることは死んでも赦さない」
そう言っている声が聞こえた。
同時に誰かが私に「アシュリーこっちに来てはいけない。彼の元に帰りなさい」と私を押し返す声が聞こえる。
その声に背中を押されるように最後の一息を踏ん張った。
「ふぎゃあーーーほぎゃああ」
その小さな鳴き声に部屋の中と外は静まり帰った。同時にわあっと侍女たちや騎士から歓声が上がったのだ。
「おめでとうございます。姫君ですよ」
そうリサに告げられて私はホッと安堵した。
意識が混濁する中、ハルト様は、
「二度と子供は望まない」
そんな事を言っていた気がした。
だが、私は疲れていて、深く眠りについたのだった。
この日の夜会で何があったのかは数か月経ってから聞かされた。
生まれた私とハルト様の女の子は、
──アンジェリカ
と名付けられた。
ハルト様の銀色の髪とアイスブルーの瞳をもらい顔立ちの全体部分は私に似ていた。
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この日、王家に久々の王女の誕生となったのだ。
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