32 / 48
本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
予兆
しおりを挟む
夜会当日が来た。
だが、その日、私の体調はすこぶる悪く、何だか朝からお腹が時々痛むのを感じていた。
「大丈夫ですか?」
侍女が心配そうに声を掛けられるが「大丈夫、なんでもないわ」そう言ってやり過ごした。
ここは王宮で伏魔殿のようなところ、油断すると何が起こるか分からない。そんな風に先生に注意されていた。
それにルファスさんにも本音を言っていけませんと言われているので、侍女には言わない事にしている。
青白い顔をしているとパリスさんが声をかけてきた。
「奥様、顔色が……」
「うん、ちょっと朝からお腹が痛いの…」
「分かりました。公爵に伝えておきますので」
そう言ってパリスさんは、部下の護衛にハルト様への伝言を頼んだ。
たぶん、何となくだけれど、これってもしかして……陣痛ってことなのかな。
懐妊が分かった時にリサとリタが私に分かりやすくお産について説明をしてくれた。
でも、どんな感じかよく分からない。今経験している事がそうなのかどうかも。
慌ててハルト様がやってきて、
「無理して夜会に出なくてもいいんだよ」
「でもお披露目なんでしょう。行かないと…」
「そんな事より君の事が心配だ」
「でも…」
私達がどうしようかと悩んでいたら、
「あら、第一王子殿下。よかったら私が奥様をお預かりいたしますわ」
そう言って声をかけてきた女性。
「アグネス様…」
ハルト様の表情が複雑そうなので何となく、この人が陛下の愛妾様なのかなって思った。
淡い桃色の髪に美しい珊瑚のような瞳の綺麗な人だった。愛されているという自信からか穏やかに満ち足りている微笑みを浮かべていた。
本当なら自身も陛下の隣に立って、我が子のお祝いも一緒にしたのだろうが、彼女の身分の所為で余計な波風が立たない様に表には出ない様にしているらしい。
「ふふふっ、私の宮はこの王宮で一番厳重な所よ。それにこういった事は殿方より女の私の方が経験もありますので安心してくださいませ」
「で…ですが…」
「大丈夫です。アグネス様にお願いしましょう」
何だかハルト様にしては歯切れが悪いので、私は思い切ってお願いしてみた。
これでハルト様の親子関係もいい方向に変わってくれたらなという願望もあったからだ。
ハルト様は渋々、私をアグネス様に預けて会場に向かって行った。何度も何度も後ろを振り返りながら、その姿はなんだか捨てられた子犬のよう。
私はアグネス様の宮に案内されると、そこにはいたるところに陛下の肖像画が飾ってあった。
「こ…これは」
「凄いでしょう。彼ね、とても心配性なのよ。自分がいない時にでも想ってほしいとか言って無理やりこうやって飾るのよ。鬱陶しいくらいにね」
「はああ…愛されているんですね」
私は何と言っていいのか分からずにそんな言葉を口にした。
だって、こんな陛下の遺伝を持っているのだ。ハルト様もその内、私の部屋に自分の肖像画を並べまくるかもしれない。それは想像するだけで息苦しい。
後でルファスさんにこんな事をしたら嫌いますよリストに載せてもらおう。
そんな事を考えていたら、お腹の方もどうにか落ち着いた。
これなら夜会に出ても良かったかも、ちょっと残念な気がした。
でも、出なくても私は巻き込まれる運命にあったようで、この後大変な目に遭って、
──ああ、死ななくて良かった。
と思う事になるのだった。
だが、その日、私の体調はすこぶる悪く、何だか朝からお腹が時々痛むのを感じていた。
「大丈夫ですか?」
侍女が心配そうに声を掛けられるが「大丈夫、なんでもないわ」そう言ってやり過ごした。
ここは王宮で伏魔殿のようなところ、油断すると何が起こるか分からない。そんな風に先生に注意されていた。
それにルファスさんにも本音を言っていけませんと言われているので、侍女には言わない事にしている。
青白い顔をしているとパリスさんが声をかけてきた。
「奥様、顔色が……」
「うん、ちょっと朝からお腹が痛いの…」
「分かりました。公爵に伝えておきますので」
そう言ってパリスさんは、部下の護衛にハルト様への伝言を頼んだ。
たぶん、何となくだけれど、これってもしかして……陣痛ってことなのかな。
懐妊が分かった時にリサとリタが私に分かりやすくお産について説明をしてくれた。
でも、どんな感じかよく分からない。今経験している事がそうなのかどうかも。
慌ててハルト様がやってきて、
「無理して夜会に出なくてもいいんだよ」
「でもお披露目なんでしょう。行かないと…」
「そんな事より君の事が心配だ」
「でも…」
私達がどうしようかと悩んでいたら、
「あら、第一王子殿下。よかったら私が奥様をお預かりいたしますわ」
そう言って声をかけてきた女性。
「アグネス様…」
ハルト様の表情が複雑そうなので何となく、この人が陛下の愛妾様なのかなって思った。
淡い桃色の髪に美しい珊瑚のような瞳の綺麗な人だった。愛されているという自信からか穏やかに満ち足りている微笑みを浮かべていた。
本当なら自身も陛下の隣に立って、我が子のお祝いも一緒にしたのだろうが、彼女の身分の所為で余計な波風が立たない様に表には出ない様にしているらしい。
「ふふふっ、私の宮はこの王宮で一番厳重な所よ。それにこういった事は殿方より女の私の方が経験もありますので安心してくださいませ」
「で…ですが…」
「大丈夫です。アグネス様にお願いしましょう」
何だかハルト様にしては歯切れが悪いので、私は思い切ってお願いしてみた。
これでハルト様の親子関係もいい方向に変わってくれたらなという願望もあったからだ。
ハルト様は渋々、私をアグネス様に預けて会場に向かって行った。何度も何度も後ろを振り返りながら、その姿はなんだか捨てられた子犬のよう。
私はアグネス様の宮に案内されると、そこにはいたるところに陛下の肖像画が飾ってあった。
「こ…これは」
「凄いでしょう。彼ね、とても心配性なのよ。自分がいない時にでも想ってほしいとか言って無理やりこうやって飾るのよ。鬱陶しいくらいにね」
「はああ…愛されているんですね」
私は何と言っていいのか分からずにそんな言葉を口にした。
だって、こんな陛下の遺伝を持っているのだ。ハルト様もその内、私の部屋に自分の肖像画を並べまくるかもしれない。それは想像するだけで息苦しい。
後でルファスさんにこんな事をしたら嫌いますよリストに載せてもらおう。
そんな事を考えていたら、お腹の方もどうにか落ち着いた。
これなら夜会に出ても良かったかも、ちょっと残念な気がした。
でも、出なくても私は巻き込まれる運命にあったようで、この後大変な目に遭って、
──ああ、死ななくて良かった。
と思う事になるのだった。
44
あなたにおすすめの小説
【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
なんでも押し付けてくる妹について
里見知美
恋愛
「ねえ、お姉さま。このリボン欲しい?」
私の一つ下の妹シェリルは、ことある毎に「欲しい?」と言っては、自分がいらなくなったものを押し付けてくる。
しかもお願いっていうんなら譲ってあげる、と上から目線で。
私よりもなんでも先に手に入れておかないと気が済まないのか、私が新品を手に入れるのが気に食わないのか。手に入れてしまえば興味がなくなり、すぐさま私に下げ渡してくるのである。まあ、私は嫡女で、無駄に出費の多い妹に家を食い潰されるわけにはいきませんから、再利用させていただきますが。
でも、見た目の良い妹は、婚約者まで私から掠め取っていった。
こればっかりは、許す気にはなりません。
覚悟しなさいな、姉の渾身の一撃を。
全6話完結済み。
断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。
あの時削ぎ落とした欲
恋愛
学園の卒業パーティで婚約者のお気に入りを苛めたと身に覚えの無いことで断罪されかける侯爵令嬢エリス。
その断罪劇に乱入してきたのはエリスの友人である男爵令嬢ニナだった。彼女の片手には骨付き肉が握られていた。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる