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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
予兆
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夜会当日が来た。
だが、その日、私の体調はすこぶる悪く、何だか朝からお腹が時々痛むのを感じていた。
「大丈夫ですか?」
侍女が心配そうに声を掛けられるが「大丈夫、なんでもないわ」そう言ってやり過ごした。
ここは王宮で伏魔殿のようなところ、油断すると何が起こるか分からない。そんな風に先生に注意されていた。
それにルファスさんにも本音を言っていけませんと言われているので、侍女には言わない事にしている。
青白い顔をしているとパリスさんが声をかけてきた。
「奥様、顔色が……」
「うん、ちょっと朝からお腹が痛いの…」
「分かりました。公爵に伝えておきますので」
そう言ってパリスさんは、部下の護衛にハルト様への伝言を頼んだ。
たぶん、何となくだけれど、これってもしかして……陣痛ってことなのかな。
懐妊が分かった時にリサとリタが私に分かりやすくお産について説明をしてくれた。
でも、どんな感じかよく分からない。今経験している事がそうなのかどうかも。
慌ててハルト様がやってきて、
「無理して夜会に出なくてもいいんだよ」
「でもお披露目なんでしょう。行かないと…」
「そんな事より君の事が心配だ」
「でも…」
私達がどうしようかと悩んでいたら、
「あら、第一王子殿下。よかったら私が奥様をお預かりいたしますわ」
そう言って声をかけてきた女性。
「アグネス様…」
ハルト様の表情が複雑そうなので何となく、この人が陛下の愛妾様なのかなって思った。
淡い桃色の髪に美しい珊瑚のような瞳の綺麗な人だった。愛されているという自信からか穏やかに満ち足りている微笑みを浮かべていた。
本当なら自身も陛下の隣に立って、我が子のお祝いも一緒にしたのだろうが、彼女の身分の所為で余計な波風が立たない様に表には出ない様にしているらしい。
「ふふふっ、私の宮はこの王宮で一番厳重な所よ。それにこういった事は殿方より女の私の方が経験もありますので安心してくださいませ」
「で…ですが…」
「大丈夫です。アグネス様にお願いしましょう」
何だかハルト様にしては歯切れが悪いので、私は思い切ってお願いしてみた。
これでハルト様の親子関係もいい方向に変わってくれたらなという願望もあったからだ。
ハルト様は渋々、私をアグネス様に預けて会場に向かって行った。何度も何度も後ろを振り返りながら、その姿はなんだか捨てられた子犬のよう。
私はアグネス様の宮に案内されると、そこにはいたるところに陛下の肖像画が飾ってあった。
「こ…これは」
「凄いでしょう。彼ね、とても心配性なのよ。自分がいない時にでも想ってほしいとか言って無理やりこうやって飾るのよ。鬱陶しいくらいにね」
「はああ…愛されているんですね」
私は何と言っていいのか分からずにそんな言葉を口にした。
だって、こんな陛下の遺伝を持っているのだ。ハルト様もその内、私の部屋に自分の肖像画を並べまくるかもしれない。それは想像するだけで息苦しい。
後でルファスさんにこんな事をしたら嫌いますよリストに載せてもらおう。
そんな事を考えていたら、お腹の方もどうにか落ち着いた。
これなら夜会に出ても良かったかも、ちょっと残念な気がした。
でも、出なくても私は巻き込まれる運命にあったようで、この後大変な目に遭って、
──ああ、死ななくて良かった。
と思う事になるのだった。
だが、その日、私の体調はすこぶる悪く、何だか朝からお腹が時々痛むのを感じていた。
「大丈夫ですか?」
侍女が心配そうに声を掛けられるが「大丈夫、なんでもないわ」そう言ってやり過ごした。
ここは王宮で伏魔殿のようなところ、油断すると何が起こるか分からない。そんな風に先生に注意されていた。
それにルファスさんにも本音を言っていけませんと言われているので、侍女には言わない事にしている。
青白い顔をしているとパリスさんが声をかけてきた。
「奥様、顔色が……」
「うん、ちょっと朝からお腹が痛いの…」
「分かりました。公爵に伝えておきますので」
そう言ってパリスさんは、部下の護衛にハルト様への伝言を頼んだ。
たぶん、何となくだけれど、これってもしかして……陣痛ってことなのかな。
懐妊が分かった時にリサとリタが私に分かりやすくお産について説明をしてくれた。
でも、どんな感じかよく分からない。今経験している事がそうなのかどうかも。
慌ててハルト様がやってきて、
「無理して夜会に出なくてもいいんだよ」
「でもお披露目なんでしょう。行かないと…」
「そんな事より君の事が心配だ」
「でも…」
私達がどうしようかと悩んでいたら、
「あら、第一王子殿下。よかったら私が奥様をお預かりいたしますわ」
そう言って声をかけてきた女性。
「アグネス様…」
ハルト様の表情が複雑そうなので何となく、この人が陛下の愛妾様なのかなって思った。
淡い桃色の髪に美しい珊瑚のような瞳の綺麗な人だった。愛されているという自信からか穏やかに満ち足りている微笑みを浮かべていた。
本当なら自身も陛下の隣に立って、我が子のお祝いも一緒にしたのだろうが、彼女の身分の所為で余計な波風が立たない様に表には出ない様にしているらしい。
「ふふふっ、私の宮はこの王宮で一番厳重な所よ。それにこういった事は殿方より女の私の方が経験もありますので安心してくださいませ」
「で…ですが…」
「大丈夫です。アグネス様にお願いしましょう」
何だかハルト様にしては歯切れが悪いので、私は思い切ってお願いしてみた。
これでハルト様の親子関係もいい方向に変わってくれたらなという願望もあったからだ。
ハルト様は渋々、私をアグネス様に預けて会場に向かって行った。何度も何度も後ろを振り返りながら、その姿はなんだか捨てられた子犬のよう。
私はアグネス様の宮に案内されると、そこにはいたるところに陛下の肖像画が飾ってあった。
「こ…これは」
「凄いでしょう。彼ね、とても心配性なのよ。自分がいない時にでも想ってほしいとか言って無理やりこうやって飾るのよ。鬱陶しいくらいにね」
「はああ…愛されているんですね」
私は何と言っていいのか分からずにそんな言葉を口にした。
だって、こんな陛下の遺伝を持っているのだ。ハルト様もその内、私の部屋に自分の肖像画を並べまくるかもしれない。それは想像するだけで息苦しい。
後でルファスさんにこんな事をしたら嫌いますよリストに載せてもらおう。
そんな事を考えていたら、お腹の方もどうにか落ち着いた。
これなら夜会に出ても良かったかも、ちょっと残念な気がした。
でも、出なくても私は巻き込まれる運命にあったようで、この後大変な目に遭って、
──ああ、死ななくて良かった。
と思う事になるのだった。
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