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番外編 この想いは永遠に…
ここにいるのは
しおりを挟む「お父様、お母様。お呼びになられたと伺いましたが」
「ああ、その前に」
父は私の顔を見て、殿下の顔をちらりと見た。
「第三王子殿下に私グレイシア・サフラがご挨拶申し上げます」
私はコンラッド殿下に挨拶した。
彼は、私に一瞥しただけでまた父の方に向き直った。
一体何しに来たのだろう。
訝しむ私を横目に、父は私に座る様に薦めた。
「第三王子殿下から事情は聴いた。それでお前はどうしたいのだ」
父の問いは『婚約破棄』ということなのだろう。
「婚約を解消してください」
「はあーっ」
それで本当にいいのかと言われればいいのか悪いのか分からない。
学園の卒業間近で婚約を解消なんて、次の婚約者も出来ないだろう。
そんな事はわかっていた。
でも、彼と結婚しても上手くいかない。今までも嘘をついていたのだから、又同じことを繰り返すかもしれない。
そう思うと怖くてたまらない。
王族と言っても、王太子殿下に子供が生まれれば王族籍から抜けなければならない。
しかも、我が家に婿入りではなく、新しい公爵としてだ。
勿論、子供が生まれれば普通の貴族となって、侯爵に位が降格になる。一代限りの公爵家。政治的に見ても旨味も何もない。
第三王子も同じ扱いなのに、何故あの権力欲の塊のバルボッサ侯爵家がイランジェ様をこの王子の婚約者にしたのか、理解しがたい。
「私がいった通りでしょう。ご令嬢は婚約を解消したがると…しかし、そんな事をしても醜聞が広がるだけです。婚約は続行して、結婚を先延ばしにしてはいかがです。その間に別の相手をお探しになればいいのでは」
「だが、それでは第二王子殿下の顔を潰すことになるのでは」
「元々、婚約者がいながら浮気をしたのは兄上です。父が床に臥せているのをいいことに好き勝手している方が悪い。それにあの侍女と別れるとは思えませんから、兄があの女の所に婿入りすればいいだけのこと。その方が面白くなりますよ」
無表情で淡々と語るコンラッド殿下の意図するものが何なのか計り知れない。見えない相手をしているようでちょっと不気味だった。
「私にはこれ以上オーウェン殿下との婚約を続ける自身がありません。平静でいられるかどうか分からないのです」
それにきっと、顔を会せれば私はオーウェン殿下と侍女の浮気現場を思い出してしまう。今も吐き気がしそうだ。
「なら、こういうのはどうだい?君はもう妃教育は終わっているんだろう。イランジェからそう聞いている。後はお互いの親睦の為のお茶会に義務的に王宮を訪れるだけになっていると…、ならば会わなければいいんじゃないか。陛下の体調が悪いから公式な夜会も開かれないからね。それを理由に断ればいい。浮気を理由に婚約解消は難しいからね。狭量な人間だと他の貴族令息に周知する結果に終わる程度で、なんの落ち度のない君が悪者扱いにされるだけだ。それなら、放っておけばまた同じことをして、尻尾を出すだろう」
「なるほど、確かに今騒ぎ立てれば、逆にこちらが悪者扱いとなる可能性があるな。殿下の意見にも一理ありますね」
確かに第二王子オーウェン殿下の評判は良い。兄である王太子殿下の補佐をしている彼は自分の評価を下げる様な事は許さないだろう。
この事を理由に婚約解消を申し立てても兄である王太子殿下に都合の良いことを吹き込む事は間違いない。そうなれば、きっとお咎めは騒ぎ立てた我が家に向けられる。
私達親子はコンラッド殿下の提案に従う事にした。
だが、それは自身の破滅への第一歩だとは知らなかったのである。
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