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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
私の人生は~アグネス~
しおりを挟む「申し訳ございません。陛下から宮より出ないようにと仰せつかっております」
「何故…?私は寵妃なのよ」
「いいえ、貴女様はコンラッド陛下にとってただの癒しでございます」
「な…癒しですって」
「そうです。ひと時のその場限りか飽きるまで男の性欲を満たすだけの存在です。ですので、側妃にすらなれなかったでしょう」
「そ…それは…」
「そういうお約束だったはずです」
能面のような男デニスが私にそう言った。
確かに私とコンラッド陛下とは、ある約束事をした。
それは、お互いの利益の為、そうしたのだ。
陛下は傍に女を置きたかっただけ、私は贅沢な暮らしがしたかっただけだ。
それは何時でも変えられると思っていた。不変の約束なんてないとそう信じていたのに…。
何を間違えた?どうすれば正解だったの。陛下の心を掴められなかったのはどうしてなの?
分からない。私には分からないわ。だって、何時だって陛下は欲しいものをくれたじゃない。私が欲しいと言えば…。でもたった一つ陛下の心だけは手に入らない。地位も名誉もない。
滑稽だわ。愛妾様としか呼ばれなかったのに、私は自分が陛下に愛されていると信じていた。
私の耳に今も残る側妃イランジェの言葉。
──グレイシア王妃の代わり?
本当にそうなの?
出会った時に彼はなんて言った?
「ああ、本当によく似ている。姿形は…だが…」
あの後なんて言ったのだろう。誰に似ていると言ったのか考えもしなかった。
生家の貧しい暮らしから抜ける為に陛下に媚を売ったのは私だ。
子供が欲しいといったのは、自分の地位が欲しかったから、他の王子を押しのけてわが子をあの座に据えたいと野望を抱いたのも確かだ。
その為に私は側妃に居所を知らせて、邪魔なアシュリーを排除したかった。
ラインハルトも始末したかったのに、彼には隙がなさ過ぎた。
だから妻と娘を侍女を唆して狙わせたのに、殺さないのは知らないからではないの。
いや、違う。陛下の玩具としてまだ生かされているだけだ。
陛下がいなくなれば私は殺される。
幸いレオパルドは陛下の愛情が深い。だから、まだ何とかなる。
今度陛下が来たら、甘く強請って、外に出られるように頼もう。きっと許してくれる。
そんな愚かな甘い考えは、陛下の言葉で吹き飛んだ。
「そなたをこの宮から出すことは永久にない」
「な…どうしてなんです。私を愛でてくれたのではないんですか。愛しく思っていたのでは…」
「ああ、それはその姿形だけだ。本当に残念だ。ラインハルトが王妃に似ていたら、手放さなかったのに…だが代わりにアンジェがいる。グレイシアによく似た。余と同じ髪と瞳を持った娘が、その娘にそなたがしたことを知らないとでも思ったのか」
その冷たい言葉で体が冷えて嫌な汗をかいている事が分かる。
「約束したであろう。余の心だけは望むなと、その代わり贅沢な暮らしをさせてやる。そういう約束だったはずだ。分を弁えていればこんなことにはならなかったのに、愚かな事だ。そなたもイランジェも」
「陛下の心に居るのは…」
「そなたが知る必要のないことだ。余が死ぬ時まで静かに身をひそめて生きるがいい。それが余からの温情だ。今まで大儀であった」
陛下は私を見ることなく部屋から出て行った。
「お待ちください。陛下、私を赦して…陛下、陛下、陛下──っ!!」
私の泣け叫ぶ声を聞いても彼は振り向くこともしなかった。
その後、陛下の死去を聞いて、ラインハルトが王都に帰ってきた。
あの陛下に良く似た面持ちで、出会った頃のコンラッドを思い出す私に死を言い渡したのだ。
「陛下の為に殉死せよ」
冷たい声も表情も何もかも似ている。
「ああ、陛下、私は…貴方を」
「僕が愛しているのはアシュリーだけだよ」
そう言ったのに、私には『余の心にはグレイシアしか棲まぬ』そう聞こえたのだ。
残酷で美しい陛下の冷笑が私の心に突き刺した。
愚かな私は首を吊って死んだのだ。
そして、形だけ陛下の傍の小さな墓に納められた。
本当は名もなき無縁墓地に葬られた。罪人の証として名前を刻まれなかった私は小さな墓に入れられた。
未来永劫、レオパルドは知らない。陛下の傍にもいけない。
これは私が償うべき罪なのだから……。
地位も名誉も望まずにただ陛下の傍に居ることが約束だったのだ。私はその約束を破ってしまった。
これが私の終わりだった。
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