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ルーナ編
前編
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その国は毎年のように学園卒業パーティーで『断罪』と呼ばれるイベントが開催されていた。おかしなことに毎年、決まって誰かが必ず裁かれる。
そして、それは祭りの様に貴族学園では当たり前の様に風潮化されているのだ。
それは2年前の学園卒業パーティーでの事。一人の女学生が学園にある会場の中二階のバルコニーから突如、助けを求めて落下した。
目撃した者の証言では、助けを求めていたので誰かに追われていたのではとの声が上がったが、誰も追っていた者の姿を見ていない事から、女学生は幻覚でも見ていたのだろうと判断され事故となった。
一年程は、学園でもその謎めいた噂でもちきりだったが、2年も経つと次第に皆の関心は薄れて行った。
そして、また例のイベントが開催されようとしていた。
今回のターゲットは第二王子の婚約者アヴィゲイル・バウワー公爵令嬢で、今まさに第二王子ジョージアから婚約破棄を突きつけられようとしていた。
そして、お決まりの台詞は「真実の愛」なのだ。婚約者ではない別の令嬢との愛を深めて言いがかりをつけて『断罪』という名のゲームを愉しんでいた。
ジョージアの隣にはピンクブロンドのかわいらしい女性が彼の腕に縋っていた。彼女は今年入った1年生でついこの間までは孤児だった。その美貌を見込まれて、ガイル男爵夫妻が引き取った。令嬢としてのマナーがなっておらず、何度もアヴィゲイルは注意をしたが、その度に婚約者のジョージアから女学生は庇われて、アヴィゲイルの方「心が狭い」と叱られていた。
舞台は最高潮に達し、いつもの様におかしな証言や有りえない罪で糾弾されていくアヴィゲイル。周りの者もこの派手なパフォーマンスに釘付けになっている。
絶妙なタイミングで効果音のような楽団の演奏が鳴り響いているのに、その場の全員がこれを異常と思っていなかった。
しかし、次の瞬間、立場が逆転し、今度はアヴィゲイルがこのピンクブロンドの女学生を追い込み始めた。そして、彼らは口を揃えて言うのだ。
「彼女が使った魅了魔法によって心を支配されていた。悪かった、やはりアヴィゲイル君が俺の真実の愛の相手だ」
ジョージアはそう言って、アヴィゲイルの手を取ると、先ほどまで傍にいた女学生を突き飛ばした。
そして、ジョージアを始め側近の者達が次々と今までの態度を翻して、女学生を追い込んでいく。さも獲物を狙うハンターのような目で──。
「王子を誑かした女狐を捕まえよ!」
ジョージアが芝居がかった状態で興奮気味に叫ぶと、警備していた騎士たちが一斉に会場になだれ込んできた。
「えっ!」
ジョージアの体が強張る。屈強の騎士たちは捕えるはずの女学生ではなく、自分たちを取り囲んでいるではないか。
「おい、お前たち、罪人はあの女だ!何をしている早く捕まえろ!!」
声を上げて叫ぶが誰一人として聞いていない。
「俺を誰だと思っているんだ!この国の王子だぞ!!お前ら全員解雇してやる!」
「ほう、お前にそんな権限があるとでも思っているのか?それは国王陛下の権限だ」
騎士の後ろから静かに表れた長身の美形の男は、怒気を孕んだ声で言った。その声の主を確認するように多くの参加者達は覗き込むように見ていた。
「あ…兄上……」
先ほどの威勢はどこに行ったのかと思えるほど、怯えて狼狽していた。その男はこの国の王太子マクシミリアンだった。
「今から本当の意味での断罪を行ない、二度とこんなふざけたお遊びをできないようにしてやる!全員覚悟しろ!!」
マクシミリアンは会場中に聞こえるように告げたのだ。
そして、先ほどのピンクブロンドの女学生に手を差し伸べると、
「愚弟が大変失礼をしました。どうかお許しください。王女」
「そうね。今から彼らにきっちりと処罰を与えて下さるのなら許しましょう」
先ほどジョージアの傍で怯えるように縋っていた弱弱しい女性と同一人物とは思えない程、ガラリと表情も仕草も変わったのだ。まるで本物の悪女の様に──。
そして、それは祭りの様に貴族学園では当たり前の様に風潮化されているのだ。
それは2年前の学園卒業パーティーでの事。一人の女学生が学園にある会場の中二階のバルコニーから突如、助けを求めて落下した。
目撃した者の証言では、助けを求めていたので誰かに追われていたのではとの声が上がったが、誰も追っていた者の姿を見ていない事から、女学生は幻覚でも見ていたのだろうと判断され事故となった。
一年程は、学園でもその謎めいた噂でもちきりだったが、2年も経つと次第に皆の関心は薄れて行った。
そして、また例のイベントが開催されようとしていた。
今回のターゲットは第二王子の婚約者アヴィゲイル・バウワー公爵令嬢で、今まさに第二王子ジョージアから婚約破棄を突きつけられようとしていた。
そして、お決まりの台詞は「真実の愛」なのだ。婚約者ではない別の令嬢との愛を深めて言いがかりをつけて『断罪』という名のゲームを愉しんでいた。
ジョージアの隣にはピンクブロンドのかわいらしい女性が彼の腕に縋っていた。彼女は今年入った1年生でついこの間までは孤児だった。その美貌を見込まれて、ガイル男爵夫妻が引き取った。令嬢としてのマナーがなっておらず、何度もアヴィゲイルは注意をしたが、その度に婚約者のジョージアから女学生は庇われて、アヴィゲイルの方「心が狭い」と叱られていた。
舞台は最高潮に達し、いつもの様におかしな証言や有りえない罪で糾弾されていくアヴィゲイル。周りの者もこの派手なパフォーマンスに釘付けになっている。
絶妙なタイミングで効果音のような楽団の演奏が鳴り響いているのに、その場の全員がこれを異常と思っていなかった。
しかし、次の瞬間、立場が逆転し、今度はアヴィゲイルがこのピンクブロンドの女学生を追い込み始めた。そして、彼らは口を揃えて言うのだ。
「彼女が使った魅了魔法によって心を支配されていた。悪かった、やはりアヴィゲイル君が俺の真実の愛の相手だ」
ジョージアはそう言って、アヴィゲイルの手を取ると、先ほどまで傍にいた女学生を突き飛ばした。
そして、ジョージアを始め側近の者達が次々と今までの態度を翻して、女学生を追い込んでいく。さも獲物を狙うハンターのような目で──。
「王子を誑かした女狐を捕まえよ!」
ジョージアが芝居がかった状態で興奮気味に叫ぶと、警備していた騎士たちが一斉に会場になだれ込んできた。
「えっ!」
ジョージアの体が強張る。屈強の騎士たちは捕えるはずの女学生ではなく、自分たちを取り囲んでいるではないか。
「おい、お前たち、罪人はあの女だ!何をしている早く捕まえろ!!」
声を上げて叫ぶが誰一人として聞いていない。
「俺を誰だと思っているんだ!この国の王子だぞ!!お前ら全員解雇してやる!」
「ほう、お前にそんな権限があるとでも思っているのか?それは国王陛下の権限だ」
騎士の後ろから静かに表れた長身の美形の男は、怒気を孕んだ声で言った。その声の主を確認するように多くの参加者達は覗き込むように見ていた。
「あ…兄上……」
先ほどの威勢はどこに行ったのかと思えるほど、怯えて狼狽していた。その男はこの国の王太子マクシミリアンだった。
「今から本当の意味での断罪を行ない、二度とこんなふざけたお遊びをできないようにしてやる!全員覚悟しろ!!」
マクシミリアンは会場中に聞こえるように告げたのだ。
そして、先ほどのピンクブロンドの女学生に手を差し伸べると、
「愚弟が大変失礼をしました。どうかお許しください。王女」
「そうね。今から彼らにきっちりと処罰を与えて下さるのなら許しましょう」
先ほどジョージアの傍で怯えるように縋っていた弱弱しい女性と同一人物とは思えない程、ガラリと表情も仕草も変わったのだ。まるで本物の悪女の様に──。
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