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終わりの足音
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物事には、始まりがあれば必ず終わりがやって来るものだ。
エレオノーラは、ストラウス公爵家の中庭、かつての自室前の庭園で子供たちが遊んでいる姿を横目にお茶を楽しんでいる。
「奥様、何時も使っていらっしゃるそのしおりは、随分と古びた物ですね」
以前、公女だったときの侍女がエレオノーラの持っているしおりを眺めて訊ねた。
「ええ、これはとても大切なものなの。このしおりがあったから私はあの3年間を耐える事が出来たのよ。でなければ……今頃私はここにいないわ…」
遠い目をしながら、エレオノーラは侍女の問いに答えた。
彼女にとって、ルドヴィックと婚約し、結婚した日々は地獄のような毎日だった。
瞼を閉じながら、指でゆっくりとしおりにした花を労わるようになぞる。そして、エレオノーラは、オースティンと最初の別れをした後の事を思い出していた。
エレオノーラは、オースティンと別れた後、一月後に再び、ルドヴィックと婚約した。
大掛かりな婚約式は、王妃カテリーナの望みでもあった為、盛大なものとなった。しかし、そこには本人らの意志は全く関係がなく、式は冷え冷えとしたものだった。
式の儀式の最中もルドヴィックの瞳はメディアを追っている。
まるで、隣のエレオノーラの事など存在しないかのように……。
空気の様な存在、それがエレオノーラの立ち位置だった。そして、メディアもまたオースティンにとって、どうでもいい存在だった。
彼の役目はメディアというよりローガン家の汚職を暴き出し、一族を衰退させることが目的。その為の贄となったまで……。
父であるルードリッヒは決して、感情に身を任せる愚か者ではなかった。オースティンの生母ガーベラを妻にと望んだ事にも公に出来ない訳があった。
オースティンを玉座に据える事にも意味がある。
オースティンには血の秘密がある。それはエレオノーラに対しても言える事なのだ。
二人は古い王家…前王家の血を母親から受け継いでいる。
神殿は今の王家を略奪者だと捉えており、王家との確執は深まるばかりだった。それを解決するために、ルードリッヒは、己の血筋に今は亡き王家の血筋を取り込むつもりで、ガーベラに近付いた。
彼女自身は知らない事だが、ルードリッヒは影に命じて何年も探し続けた結果、二人の令嬢に行きついた。
一人はガーベラ・ポエナ子爵令嬢で、もう一人はアマーリエ・ドメイク侯爵令嬢。
アマーリエを選ばなかったのは、ドメイク家は家名を変えているが本当の家名は、キャスティ家。
代々、王家の影の一族。
王家の為に忠誠を尽し、場合によってはその血を残すためには手段を択ばない一族。
なにより恐ろしいのは、皆、人をだます事に長けていることだった。
人畜無害なお人よしを装って、破滅させられた貴族はどれ程いるだろう。
皆、そのことにドメイク侯爵家が関わっている事を知らない。
そうして、現王家にも忠誠を誓う事で、前王家の血筋を守って来た一族なのだ。
その令嬢アマーリエは大切に育てられた。
王家に嫁がせるくらいなら隣国に亡命するとまで言われれば、引くしかない。
彼らは国の機密事項に深く関わり過ぎている。他国に行かれては国に大打撃を与えかねないからだ。
ルードリッヒは、自分が妻に出来ないのなら、友人の妻に収まる様に仕向けた。
選ばれたのは実直なストラウス家の嫡男エイドリアン・ストラウスに…。
オースティンとエレオノーラの子供が王位を継げば、神殿との確執も終焉を迎えるはずだった。
しかし、王妃カテリーナの遺言により道が閉ざされたのだ。
この国の未来のための正統な後継者となる者は、この時、まだ生まれていない。
その子供が産声をあげたのは、皮肉な事にメディアの出産と同時であった。
今、エレオノーラの眼の前で、自身の子供達と一緒に遊んでいる一人の男子。
彼の名は、パトリック・デンプシー。
今は亡き、大公家の遺児の末裔。
オースティンとストラウス公爵、ドメイク侯爵の手で育て上げた唯一無二の王位継承者。
仲良く遊んでいる子供達を見ながら、エレオノーラは亡くした子供に想いを馳せるのだった。
エレオノーラは、ストラウス公爵家の中庭、かつての自室前の庭園で子供たちが遊んでいる姿を横目にお茶を楽しんでいる。
「奥様、何時も使っていらっしゃるそのしおりは、随分と古びた物ですね」
以前、公女だったときの侍女がエレオノーラの持っているしおりを眺めて訊ねた。
「ええ、これはとても大切なものなの。このしおりがあったから私はあの3年間を耐える事が出来たのよ。でなければ……今頃私はここにいないわ…」
遠い目をしながら、エレオノーラは侍女の問いに答えた。
彼女にとって、ルドヴィックと婚約し、結婚した日々は地獄のような毎日だった。
瞼を閉じながら、指でゆっくりとしおりにした花を労わるようになぞる。そして、エレオノーラは、オースティンと最初の別れをした後の事を思い出していた。
エレオノーラは、オースティンと別れた後、一月後に再び、ルドヴィックと婚約した。
大掛かりな婚約式は、王妃カテリーナの望みでもあった為、盛大なものとなった。しかし、そこには本人らの意志は全く関係がなく、式は冷え冷えとしたものだった。
式の儀式の最中もルドヴィックの瞳はメディアを追っている。
まるで、隣のエレオノーラの事など存在しないかのように……。
空気の様な存在、それがエレオノーラの立ち位置だった。そして、メディアもまたオースティンにとって、どうでもいい存在だった。
彼の役目はメディアというよりローガン家の汚職を暴き出し、一族を衰退させることが目的。その為の贄となったまで……。
父であるルードリッヒは決して、感情に身を任せる愚か者ではなかった。オースティンの生母ガーベラを妻にと望んだ事にも公に出来ない訳があった。
オースティンを玉座に据える事にも意味がある。
オースティンには血の秘密がある。それはエレオノーラに対しても言える事なのだ。
二人は古い王家…前王家の血を母親から受け継いでいる。
神殿は今の王家を略奪者だと捉えており、王家との確執は深まるばかりだった。それを解決するために、ルードリッヒは、己の血筋に今は亡き王家の血筋を取り込むつもりで、ガーベラに近付いた。
彼女自身は知らない事だが、ルードリッヒは影に命じて何年も探し続けた結果、二人の令嬢に行きついた。
一人はガーベラ・ポエナ子爵令嬢で、もう一人はアマーリエ・ドメイク侯爵令嬢。
アマーリエを選ばなかったのは、ドメイク家は家名を変えているが本当の家名は、キャスティ家。
代々、王家の影の一族。
王家の為に忠誠を尽し、場合によってはその血を残すためには手段を択ばない一族。
なにより恐ろしいのは、皆、人をだます事に長けていることだった。
人畜無害なお人よしを装って、破滅させられた貴族はどれ程いるだろう。
皆、そのことにドメイク侯爵家が関わっている事を知らない。
そうして、現王家にも忠誠を誓う事で、前王家の血筋を守って来た一族なのだ。
その令嬢アマーリエは大切に育てられた。
王家に嫁がせるくらいなら隣国に亡命するとまで言われれば、引くしかない。
彼らは国の機密事項に深く関わり過ぎている。他国に行かれては国に大打撃を与えかねないからだ。
ルードリッヒは、自分が妻に出来ないのなら、友人の妻に収まる様に仕向けた。
選ばれたのは実直なストラウス家の嫡男エイドリアン・ストラウスに…。
オースティンとエレオノーラの子供が王位を継げば、神殿との確執も終焉を迎えるはずだった。
しかし、王妃カテリーナの遺言により道が閉ざされたのだ。
この国の未来のための正統な後継者となる者は、この時、まだ生まれていない。
その子供が産声をあげたのは、皮肉な事にメディアの出産と同時であった。
今、エレオノーラの眼の前で、自身の子供達と一緒に遊んでいる一人の男子。
彼の名は、パトリック・デンプシー。
今は亡き、大公家の遺児の末裔。
オースティンとストラウス公爵、ドメイク侯爵の手で育て上げた唯一無二の王位継承者。
仲良く遊んでいる子供達を見ながら、エレオノーラは亡くした子供に想いを馳せるのだった。
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