邪魔者は静かに消えることにした…

春野オカリナ

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デビュタント

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 今宵は華々しい新しい社交界の花々が誕生した頃、一人の令嬢が逃げる様に会場を後にした。

 彼女は誰にも知られずに泣く所を探していた。

 中庭の小高い丘になっている所に大きなハシバミの木があった。彼女は走っていた為、何かに足を引っ掛けて躓いてしまった。

 「い…痛いなあ」
 「ごめんなさい。こんな所に人が寝転がっているなんて思わなかったの」
 「まあ、こんなところで寝転がっていたんだから僕も悪いんだけどね」

 何度も謝る少女に、

 「ところで、そんなに慌ててどうしたの?」

 そんな事を聞かれてもなんと答えればいいのか分からなかった。見ず知らずの少年に自分は人目を気にせずに泣ける場所を探していたなんて言えない。

 少女の戸惑いが分かったのか、少年は、

 「僕がここで寝転がっていたのはね。ほらあれを見ていたんだよ」

 少年は夜空を指して微笑んだ。

 少女は空を見上げて、

 「わあっ!きれい…」

 感嘆の声を上げていた。

 「僕は悲しいことや落ち込んだり、悔しいことがあると夜空に輝く星を見るんだ。そうしたら、心が和んで嫌な事も忘れられる。あれを見たら僕の悩みなんてちっぽけなものだと思える様になる」

 少女には少年の言葉が自分を慰めているように感じたのだ。

 少女は今日がデビュタントで王都や王宮に来たのも初めてだった。

 アディーナ・クリステル。

 辺境地ガーナックの領主エイドリアン・クリステル侯爵の一人娘だった。

 彼女は、田舎育ちで王都に知り合いもいない一人ぼっちのデビュタントとなっていた。

 父親は辺境から出てこれない為、母方の伯母一家とこの会場に来ていたが、王族への挨拶が終わり、従兄弟とファーストダンスを踊ったまでは良かったが、その後、王都に住む令嬢らから洗礼を受けてしまう。

 アディーナの髪の色と姿を見た令嬢らは、

 「まあ見て、ピンクの子豚が歩いているわ」
 「本当ね。わたくしだったらあんな姿、恥ずかしくて外に出られませんわ」

 クスクスと嘲笑が飛び交う中、今まで信じていた父の「アディーナは世界一かわいいお姫様だ」という言葉が美辞麗句だと知ってしまった。

 アディーナは色白で少しぽっちゃりとした体形。何よりもピンクブロンドの髪はクリステル侯爵家の象徴ともいえるものだった。

 面白おかしく揶揄られて、田舎育ちのアディーナは上手く対処できずに会場を飛び出してしまった。

 そして、このハシバミの木まで来てしまったのだ。

 その少年は、泣いているアディーナにハンカチを渡すと「また会えるといいね」と言って去っていた。

 アディーナは親切にしてくれた少年を『星の王子』とそう呼んでいた。お互いに名乗らなかった為、名前を知らなかったのだ。

 でも目立つ髪色を持つアディーナの事は直ぐに分かるだろう。

 アディーナにとって唯一王都のデビュタントでの良い思い出となった。

 彼に今度会ったら素敵な女性になって、想いを告白したい。

 その一心でアディーナは努力した。運動をしたり、嫌いな野菜も食べる様にした。

 勿論、母からは「見た目だけでは駄目よ。きちんと教養も身に付けないと立派なレディになれませんよ」と言われて、勉強やマナーも覚えた。

 その結果、アディーナは母によく似たすらりとした体形と美しいエメラルドの瞳。父から譲り受けたピンクブロンドの髪を持つ美少女に変身し、侯爵令嬢として恥ずかしくない教養やマナーも取得できたのだ。

 15才になったアディーナは、王都にある学園に通う事になった。そこでアディーナはあのデビュタントで出会った少年と再会を果たしたのだ。

 アディーナの星の王子は、カイン・アンドレア侯爵令息。

 アディーナとカインは同じ天文学の講義を取っており、偶然の再会にお互い意気投合した。

 そして、自然と一緒に居ることが多くなり、カインと交際することになったのだが…。

 17才の時にある女性徒が編入してきてからカインの様子がおかしくなった。

 女性徒の名はアンネローゼ・イシュバル子爵令嬢で、最近貴族になったばかりの令嬢。

 元は平民で子爵の庶子だった。跡継ぎの子供が亡くなったので子爵に引き取られたのだ。

 だからマナーも教養もなっておらず、誰構わずに同じように接していた。

 そんな彼女はカインとも親しくしていた。しかし、クラスメイトとしてだとアディーナは思っていたがそれは学園祭で真実を突きつけられることになったのだ。
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