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涙の学園祭
しおりを挟む──君の花は貰えない……。
あの頃は、彼の口からそんな言葉が紡ぎだされるとは思ってもいなかった……。
この国の結婚は恋愛結婚が多い。しかし、未だに高位貴族と王族だけは政略結婚を強いられている。
それには理由がある。
一番多いのはマナー、教養の問題。
そして、離婚率が多い事。一時の熱に浮かされても最後までその愛を貫く貴族は少ない。
貴族にとって重要なのは血を繋げていくことと信頼関係。
恋愛等という浮かれた感情では補えきれない責務がある。
何代か前に王族にも身分の低い令嬢と結婚した王子がいたが結局上手くいかなかった。
そこで学園は恋愛疑似体験として、学園祭の終わりに告白するイベントを催している。
意中の男性に白い花のコサージュを女性が渡し、男性は受け取るというもの。婚約者同士や恋人同士の場合は男性が持っている赤い花のコサージュを相手の女性に渡すという決まりがある。
制限の多い貴族達のほんのちょっとの遊び心だ。
学園に通う学生の良い思い出となればという趣向で行なわれている行事。だから相手の決まっていない男性・女性共にお互いのコサージュは礼儀としてもらうが、渡さない暗黙のルール。
だが、アディーナは断られた。
嫌な噂が飛び交う中、アディーナはそれを否定して欲しい一心で、カインにコサージュを渡そうとしたのだ。
「君のコサージュは受け取れない」
「どうして?私達付き合っていたでしょう?卒業したら婚約しようと言ってたじゃない。何があったの?説明して!!」
「話すことなどない。君とは終わったんだ。もう僕と拘わらないで欲しい」
「嘘でしょう…私の何がいけなかったの?悪いところは直すわ。だから…」
「何を言っても無駄だ。僕の決心は変わらない。君とはお別れだ」
そう言われ、アディーナは愕然となった。
ふらふらと夢遊病者のように学園祭を楽しんでいる学生の中を彷徨いながら、いつのまにかカインと一緒に過ごしていた天文学の教室に来ていた。
教室には男女の姿があった。
男性はカインで女性はアンネローゼだった。
アンネローゼが嬉しそうに白いコサージュを渡し、カインがそれを受け取った。カインも自分の赤いコサージュを渡し、アンネローゼもそれを受け取ったのだ。二人は熱い抱擁をしていた。
その光景をアディーナは呆然と見ていた。
あの赤いコサージュは私がもらうはずだった。白いコサージュは私が渡すはずだった。なのにどうして…私の何がいけなかったの?デビュタントで出会って、再会した時は嬉しかった。きっとこれは運命の恋なんだとそう思った。カインに相応しい女性になる為に痩せて美しくなる努力もした。でも結局は無駄だったってこと。何もかもどうでもいい…疲れた……。
アディーナは、教室をそっと出て行くと一人で泣ける場所を探していた。
取り壊し予定の旧校舎の地形学の教室に入ると一人の男子生徒が机に腰かけて窓から外を眺めている。
男子生徒はアディーナに気が付くと、
「ここは俺専用の秘密基地だ。勝手に入って来るなよ」
「学園は貴方のものじゃあないわ。それに私がここに来たっていいじゃない」
「ふん、勝手にしろ!なら俺が出て行く」
そう言って、男子生徒は出て行った。
アディーナは窓辺の椅子に座って、お祭りを楽しんでいる景色を見ながら、本当なら自分もあの場所で皆と楽しんでいたはずだった。
どうしてこんな事になったのか分からない。
いつもと同じ様にカインと接していた。変わったのは私なのか彼なのか。
あの子さえ学園に来なければ…。
そんな醜い嫉妬の炎がここの底から湧きあがてくるのをアディーナは抑えられなかった。
今すぐに二人を探して怒鳴り込んでやりたい。
どす黒い感情の渦とほんの少しの理性がアディーナの中でせめぎ合っていた時、教室の扉が開く音がした。
その人物は、私の前に来ると、
「ほらやるよ。お腹空いてないか?食えよ」
ぶっきらぼうに言いながら、携帯ドリンクとサンドウィッチを机の上に置いて、前の席の椅子に座った。
「ありがとう。美味しい」
ほんの一口サンドウィッチを口にした途端、頬を滴が伝うのを感じた。
私…泣いてる…?
「お…おい泣くなよ。俺が泣かせたみたいじゃないか」
「ち…違う。勝手に涙が…ふ…うっく…」
声を押し殺して泣き始めたアディーナを男子生徒はおろおろしながら、なんとか宥めようとした。
「なあ、泣くなよ。何があったんだよ。聞いてやるからさ」
アディーナは、ぽつぽつと自分の事情を話し始めた。
話し終わると、アディーナは何だか心につかえていた物が無くなった様に感じたのだ。
男子生徒は、少し考えるような素振りを見せると、
「なあ、こういうのはどうだ。お前と俺のコサージュを交換して、明日の後夜祭に出るのは、確か後夜祭にはダンスパーティーがあっただろう。その際に『もうあんたのことなど興味が無い』と思わせるんだ。面白いと思わないか」
「でも、そんな事をしたら貴方と噂になるわよ」
「別にかまわない。それに学園を卒業したら、分かれた事にすればいいし、学園にいる間の女避けにもなるから、俺の方にもメリットはある」
アディーナは男子生徒の提案に渋々ながら頷いた。
その日、アディーナは伯母の家に帰ってから中々寝付けなかった。
男子生徒の提案に乗ってしまった事を少し後悔していたからだ。
軽率ではなかったかしら…。あんな提案に乗るなんて、私まで尻軽女に見られるかもしれない。彼にも迷惑がかかるのに…。
アディーナは気付いていなかった。今の彼女の頭の中を支配しているのは、元恋人のカインではなく、見知らぬ男子生徒だという事に……。
翌日、迎えの馬車が到着するとアディーナは更に驚くことになるのだった。
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