前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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クロエの事、全然知らないじゃん

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突然、過去の辛かった記憶が流れ込んで気分が悪くなってしまった。


その様子に気が付いたクロエちゃんが私の背中をさすってくれた。


その時、スッと気持ち悪さが和らぐ。

不思議だ。不意打ちにフラッシュバックが起きるとその後長時間気持ち悪さが残るのに…。


彼女は心配そうな表情で私の顔を覗き込む。


「ごめん、大丈夫だよ。心配させちゃったね。さあ、今日は新しい服に着替えようね。
って言っても私の服だからだぼだぼだけど。ふふふ。素材は良いはずだからクロエちゃんにあげるね。」


クロエちゃんは言葉の意味を理解しているのかしていないのか嬉しそうに笑ってくれた。


さっぱりしたクロエちゃん。あの絵画にあった少女に戻った。可愛い令嬢だ。

痩せすぎだけど。


まずは、クロエちゃんの食生活を変えて、この枝のような身体を改善させなくちゃね。


あとは、コミュニケーションよね。
まずは、筆談できる程度まで文字を教えないといけないな。…。

まあこの屋敷に来てもすぐ視察は必要ないし、コツコツとクロエちゃんと頑張るか。


クロエちゃんを新しい服に着替えさせ、優しく髪をとく。

痛みと栄養が足らないせいで今は艶がないけど、いつかツヤッツヤの髪になるんだぞ。

そう願いながらといた。


うん、完成。痩せすぎているけど、誰が見てもべっぴんさんだよ。

さて、次は寝床だ。


クロエちゃんの部屋のベッドはただの板みたいな家具だ。あれじゃ寝れないよ。


…仕方がない。自分の部屋に他人を入れるのは抵抗があるけど…。

この子を野ざらしにして自分がベッドで寝れるほど私も腐っていないさ。



彼女を自分のベッドに寝かせ、私は床で寝ることにした。

これもルキア時代を想えばへっちゃらな話だ。

むしろあの頃はどこにカップラーメンの汁やら食べかけのヨーグルトが潜んでいるか分からないようなサバイバルな寝床だったから、こっちの方が数倍マシと言える。


「クロエちゃん、ゆっくり休みいや。」何か、せなちゃんと一緒に居るような感覚で関西弁が多めに出てしまうな。


クロエちゃんのおでこを撫でてから私は床に布を敷き、そこに転がる。


今度、どこかの部屋にソファ置こう。

この世界にソファベッドってあるんかな?

明日、クロちゃんの服や勉強道具とか買いに行くときちょっと覗いてみようっと。


そう考え、眠りについた。私より一足先にクロエちゃんの寝息が聞こえたので私も安心して眠りにつけた。



真夜中。また物音がする。お早い帰宅で…。

自分の妹がどんな仕打ちを受けてるかも知れずにどこほっつき歩いてんだか。馬鹿な男だ。



それより、今私は床に転がっている。それは良いんだけど、お腹あたりにクロエちゃんがいるではないか。

君にベッドを譲っているのに何で二人共々床に転がっているのか?


こんな痩せていたら、固い床は痛々しいよ。

クロエちゃんをゆすって起こしてみる。眠たそうに眼をこすって私の方を見る。


「クロエちゃん、何で床に寝てるの?ベッド行きや。」

私はベッドを指さすが彼女は私から離れようとしない。


う~ん、どうしたものか…。


そう考えているとクロエちゃんが私の手を引っ張り一緒にベッドに入ろうと誘導する。


ええ~、一つのベッドに誰かと寝るとか初めてなんやけど…。

潔癖とかではないけど一緒の布団で誰かと寝るのは違和感が大ありで苦手だ。


けど、クロエちゃんは休ませてあげたいしベッドで寝て欲しい。


仕方がない。一度一緒にベッドに入ってクロエちゃんが寝た隙にまた移動しよう。


そう決めて一緒にベッドに入ったが、気づけば朝だった。


めっちゃ熟睡してた…。しかも目覚めが良い。不思議だ…。


横にはまだ寝ているクロエちゃんが横になっていた。


まだ起こさないでおこう。

あんな環境で暮らしていたら疲労もたまりにたまっていたはず。

寝かしてあげる方が良いよね。



私はそおっと部屋をあとにして、着替え、洗顔、メイクまでばっちりキメた。



クロエちゃんが起きてくるまでに朝食の準備をしておこうとキッチンに向かう途中、朝から会いたくない現夫に出くわしてしまった。


向こうも同じ気持ちなのだろう。

ものすごい嫌な顔をしている。

心の声で『うげええ。』とお互いが言っているのが聞こえるくらいに。


いや、色々と話す事はある。ここは大人としてにこやかに。頑張れ私。


笑顔を張り付けて挨拶をする。「旦那様、おはようございます。」


「ふんっ。朝から貴様の顔を見なくちゃいけないなんて俺はツイてないな。」


それはこっちのセリフや。


「まあまあ、あの、旦那様にお願いがあります。
『セレネ』棟にあるピアノの調律を職人に頼もうと思うのですが、何せ職人となれば女性は少ないでしょう。
なので今回に限っては男性の調律師をこの屋敷に招くことになりそうですわ。」


一応事前に報告と相談っと。義理は果たしたぞ。


「何?貴様、あの棟に入ったのか!?まさかクロエに危害を加えていないだろうな!?
そういえば調理場前の棚が派手に倒れていたな。あれも貴様の仕業か!?」


誰がクロエちゃんに危害を加えるって?

あんたのファンのエリザベスだよ。

今ここで言っても信じてもらえないだろうから機会を待つけどさ…。

どんだけポンコツなのよこの兄貴はさ。自然とため息が出てしまった。



「クロエ様は無事です。食器棚は確かにわたくしの仕業ですわ。
近日中に食器も購入して揃えておきます。
あの中で高級な食器はございましたか?
同じものかそれと同等の食器を揃えますので。」


「そんなものはない。高級な食器など、この屋敷にはもう一枚たりとも残っていない。
嫌味な奴だな。」


「…。」

うそやん。売りに出したって事?それだけこの屋敷お金がないの?

それって相当やばくない?破綻寸前って事ですか?


私は絶句してしまった。


「白々しい顔をするな。不愉快だ。」


もとからこんな不愉快な顔ですよ。


「それと、昨日エリザベスさんにお会いしました。
あの方は決まった曜日に来られるのですか?」


「何?エリザベスとも会ったのか?
なら話は早い。彼女はクロエ専用の世話役だ。
もう知っているだろうがクロエは耳が聞こえない。
それゆえ貴族登録が難しいのだ。
エリザベスはそんなクロエを立派な令嬢として教育してくれると役を買って出てくれた恩人なんだ。
無礼な事は絶対するなよ。」


やっぱりこの人知らないんだ。


「あのう、旦那様は最近のクロエちゃんを見たことありますか?」


「何だ気持ち悪い呼び方で妹を呼ぶな。」


「え?じゃあ何て呼べばいいんですか?」


「…クロエで良い。」


「では、クロエの今の状況どこまで知っておいでですか?」


「試すような事をするな。
俺はエリザベスからいつも報告を受けている。
今クロエは体調が思わしくないし、思春期に入るので兄である私と会いたがらないと聞いている。
体調が戻ればまた令嬢の教育が始まるのだ。
いちいち首を突っ込まないでもらおうか。」



だめだ…。この人めちゃくちゃ騙される人だ。

見事に騙されてるよ。てか、思春期はあんただよ。

あんたの妹衰弱して死にかけてるんだけど。馬鹿じゃないの。



「そうでございますか。」


「この家の事をいたずらに言いふらすなよ。クロエの耳については貴族社会でも隠しているんだ。
貴様が妙な事をすれば今は妻の立ち位置であっても容赦はしない。」


「だからってクロエの尊厳を奪うのは違うでしょう。あ、つい口が動いちゃった。」


「何か言ったか?貴様にクロエのことをとやかく言われる筋合いはない。
エリザベスも熱心に協力してくれているんだ。お前の助けはいらない。
必要ない。」



あ~あ。完全にエリザベスの事信用しきっているじゃん。

今何言っても伝わらないか。
今クロエの姿見せたら私が犯人に仕立てられる気もするし。
この人馬鹿だから痩せこけたのは私がクロエに呪いをかけたから、とか言っても信じそうじゃん。


「承知しました。
けれど、クロエは私にとっては義理の妹となる子です。
交流は許していただきたいです。」


「何が妹だ。虫唾が走る。」


「私ならクロエが好きなピアノを弾いてあげられます。ピアノの音は聞こえるんでしょう?
クロエが喜ぶことを制限するのですか?」


「何だと!貴様がピアノを?…分かった今度事実かどうか見せて見ろ。」


「承知しました。でもその前に調律師の件が先です。」


「ちっ。仕方がない。勝手にしろ!」

そう吐き捨てて思春期男は屋敷を出て行った。


「ありがとうございます。」



ふう、調律師呼ぶのだけでこんな大変なんか…。


ストレスやわあ。

まあいいわ。善は急げだ。

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