前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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ひよこ饅頭

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朝食の準備であれば彼女と確実に会うことが出来る。


朝からそわそわと調理場の前で待ち構えている。


しかし、今日に限ってエレノアだけでなくクロエとイリスも一緒にやって来た。

3人で手話というもので仲良く会話をしているようだ。


和やかな雰囲気がこちらにも伝わる。


エレノアが俺が待ち構えていることに気が付き、和やかな雰囲気が一瞬でぴりついた。



「おはようございます。旦那様。」

昨晩の朗らかな表情とは違い、普段俺に見せる澄ました表情で業務的な挨拶をされる。


今までならそんな仏頂面で挨拶されても気分が悪いだの、他の男にもそんな態度なのかだの、朝から中傷しただろう。


思い返せば、業務的であってもエレノアから必ず挨拶はしてくれていた。


嫌味や皮肉を返されると分かっていても礼儀だけは通していたんだ。

俺はそんな彼女の譲歩や温情さえも踏みにじっていたということだ。

本当に最低だな。



「良い朝だな。マスター。」

重々しい空気をイリスが壊してくれた。

隣でクロエも手振りで挨拶してくれる。


「あ、ああ。今日は二人とも早いんだな。」


「クロエがお腹を空かせて起きたから、エレノアの部屋に二人で邪魔しに行ったんだ。」


「そ、そうか。それで3人揃って来たんだな。」

俺はエレノアの部屋に入ったことがない。



「エレノアの部屋は居心地が良いからクロエが何かと行きたがる。
なあクロエ。」


イリスは手話でクロエに問いかけていると、クロエは恥ずかしがりながら頷いていた。



居心地のいい部屋?

どんな部屋なのか気になってしまう。


いや、今日は、今日こそはエレノアに礼と詫びを入れなくてはならない。



「旦那様、本日もお出掛けでしょうか?
私はこのあとすぐに役所に行く用事があるので調理場を空けていただける嬉しいのですが。」


遠回しに調理場から出て行って欲しいと言われている。


「役所に何か用事でもあるのか?
時間がかかるのか?」


「…。これでも事業主です。
制度が変わる度、申請をかける書類が多いので早めに動いておきたいのです。」


「ああ、経営者と言っていたな。
どんな業種なんだ?
そんなに業務が多いのか?」


「…。経営以外にも、後見人の仕事も膨大にあります。
あちらに迷惑が掛からないよう仕事を進める必要があるのです。」


「?後見人?経営以外の話か?
それは事業の業種に関わる話か?」


「…。」

エレノアが何とも言えない顔をしている。



「まるで罪人への尋問だな。
尋問続きはご婦人は困るものだぞ。」



イリスに指摘されて俺は冷静になって振り返った。




そうだ、昨晩と言い、今と言い尋問と言われてもおかしくない対話だ。



「いや、すまない。
尋問している気はなかったんだが…。
気分が悪い対話だった。
失礼した。」



エレノアがすこし驚いた顔をしている。


目が大きく開かれて紅で綺麗に彩られた唇が少し開き、何と言うか…可愛らしく見える。



「マスター、エレノアに用があったんじゃないか?
ないなら腹が減った。
エレノアを解放してくれないか?」


イリス…。奴隷の身分にしては自己中心的だな。


「旦那様、何か私に用があるなら手短にお願いできますか?」



「あ、ああ。あのだな…。」


「クロエ、まだ時間がかかりそうだ。
あっちに果物があっただろう。
それでもかじって待っておこう。」



イリスがクロエと一緒に別室に向かった。
色々気を使ってくれたみたいだ。

それを見てエレノアは心細そうな顔をしている。

俺と二人きりにしてほしくなかったんだろう。


調理場で二人きりになった。



礼と詫びだ。


「昨日はエリザベスの罪を明かすために君が身を挺して証明してくれた。
心から感謝する。
そして、今まで俺は君に数々のひどい言葉を投げつけ傷つける振る舞いをし続けた。
本当にすまなかった。」


「…。当り前のことをしたまでです。
礼をしていただく話ではありません。
謝罪も、私の立場上、色々と思案するのは仕方がない事です。
謝っていただかなくても結構です。」


「それでは、俺の気が済まない。
何か、君が望むものはないか?
情けないがあまりにも高額なものは難しかもしれないが、何とか手に入れる。
遠慮なく言ってほしい。」


「…。では…。」

エレノアが口を開いた。



「何だ?」

やはり宝石か何かか?


「こちらのマックレーン家の帳簿を見せてください。
あと、今まで手放したと言われる土地や事業の売買契約書、取引された商人や貴族のリストなど全ての書類を確認したいのです。」


「ちょ、帳簿?契約書?」


「はい。悪用はしません。
出来もしませんが。」


「そんなもので良いのか?」



「ええ。見たところで何が出来るか分かりませんが、今後クロエが困らない程度に金銭面も含め環境は整えてやりたいと思います。
マックレーン家の人間としている間、気になる事があれば、この家の人間として動いても良い許可も頂きたいです。」


「もう、ほぼ何も残っていないぞ。」



「まずは、現実を精査してから考えます。」


「…分かった。全てを許可する。」


「ありがとうございます。
契約書などは一次法律所に保管されていると思うので、閲覧許可の委任状をあとで署名してもらいます。」


「あ、ああ。」

今まで男を落とす事しか能がないと思っていたが、デタラメな噂だったようだ。

顔つきが経営者の、人の上に立つ者の顔つきになっている。


「君は何故、ひどい噂をされたままなのだ?
男狂いのだらしない悪女と言われたままだぞ?
い、いやまた質問攻めですまない。」


どうしても気になりまた質問をしてしまった。



「…。秘密です。」

エレノアは意地悪そうに笑った。

その表情が自分だけに向けられたと思うとどうしてだか顔が熱くなっていた。




上手く胡麻化されてしまった。



しかし、一応話し合いができた。

その達成感からか急激に腹が減ってしまった。


「あ、あと…!」


「何ですか?」


「今日の朝食、私の分も包んでくれないか?」

そういうと同時にお腹が鳴ってしまった。

子供みたいで恥ずかしい。


「ふふっ。承知しました。
クロエと同じお腹の音。」

そう言って彼女はふわりと笑う。

張り付けた笑顔ではなく優しく朗らかに俺に笑いかけてくれた。



何か、妙な感情がこみ上げて…。



「おっはよ~!あ~?めずらしく仲良くエレちゃんとディルが喋ってる~!
あ、エレちゃん今日のご飯何~?
俺にも包んでほしい~!」


毎度のようにエルヴィスが割り込んできた。



「…エルヴィス。何がエレちゃんだ…。
図々しいにも程があるぞ…。」



「え~なになに?あ!そうだよね。
いつももらうばっかりじゃ図々しいよね。
だからさ、エレちゃんにお土産。はい、これ。」


「え?何でしょう?」



エルヴィスがエレノアに何か箱を渡した。


「これ、開けて見て。
これさ、今流行ってるんだって。
ひよこのお菓子!
いろんな味があるんだって。
良かったら可愛い女神さまたちと食べて。」


ひよこのお菓子を見てエレノアが

「ひよこ饅頭とそっくりや…。」

とつぶやいていた。


ひよこ、まんじゅう?
何だ、まんじゅうって?


「エルヴィス様、ありがとうございます。
すごく嬉しいです!」


あ、エルヴィスにさっきよりも、もっと元気な笑顔見せた…。


「いえいえ、こちらこそ~。
喜んでもらえて嬉しいな。
エレちゃんの料理美味しいからまた作ってね。」


「おい、エルヴィス。もういいだろ。
お前はここから出て行ってくれ。」


「えええ?僕もっとエレちゃんと喋りたかったんだけど。
じゃあ、ディルが俺の相手してよ。」


「旦那様、私も料理がありますのであちらでエルヴィス様とお待ちください。」



「あ、僕手伝おうか?」


「おい、馬鹿。やめろ。
ずるいぞ。」


「大丈夫です。
作り終えたらお呼びしますね。
では。」


エレノアはまた張り付けた笑顔に戻っていた。

俺たちが邪魔だったんだろう。


別室に行くとエルヴィスから


「ねえ、ずるいって何?」

「何の話だ?」

「エレちゃんを手伝うのが何でずるいの?」

「そんな事言ってない。」

「いやいや、言ってたよ。」

「覚えていない。」

「ふ~ん。へ~。ほ~う。」


面倒な奴だ。
それ以降エルヴィスからエレノア関係の話をされても無視した。


エレノアが作ってくれたサンドイッチを馬車の中でゆっくりと味わう。


この前のベーグルもそうだったが、やっぱり美味い。


そういえば、エルヴィスが自分も料理を手伝うと言っていた。


そうだ、手伝えばエレノアと話す時間を取ってもらえる。


次は質問攻めにしない。

いや、でも質問しなければ何を話すんだ?



エレノアから話題提供があるのは大体報告か事前相談で全て事務的な会話だ。

それは楽しさからはかけ離れている。

隣にいるエルヴィスは難なくエレノアと会話しているのに。


その日は仲がよさそうな夫婦や恋人たちの観察ばかりしていた。


「ねえねえ、ディル大丈夫?
ちょっと朝から変だよ?熱あるんじゃないの?
今日は早めに帰ろうか。」


「いや、大丈夫だ。」

俺も自分がどうかしかしていると分かっている。



気が緩むとエレノアの笑った顔が浮かぶなんて…。


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