前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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俺の良いところ

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翌朝、イリスの助け舟のおかげで俺は今日エレノアと街を一緒に歩くことになった。


理由は俺の身なりが良くない、つまり不格好なので改善のためだ。


王宮のパーティに出るのだからこればかりは仕方がない。

マックレーン家のため、そう今日のエレノアとの外出は義務なのだ。

そう言い聞かせて浮足立ちそうな、自分でも分からないソワソワした気持ちを落ち着かせている。


エレノアが玄関にやってきた。この足音はエレノアだ。見なくても分かる。



いつものように派手な化粧をして露出の多めな、女らしさを強調するドレスを着こんでいるのだろうと振り返る。



しかし、そこには髪をシンプルにまとめ、薄化粧の可憐なメイドが立っていた。



肌はきめが整っていてよく目を凝らしてみると可愛らしいそばかすが控えめに目に映る。


いつも濃い色の化粧で囲まれている瞳は本来の目の形を表しており、綺麗なアーモンド形で瞳の色は深みのある茶色だった。

バサバサと扇のようなまつ毛も今日は一本一本しなやかに伸びておりあどけなさが残る。

主張のない綺麗な鼻筋にギトギトしていない健康的な色の唇。


「あんまり見ないでください。
か~なり薄いメイクなので恥ずかしいんですから。」



ジロジロと凝視していたことに自分でも気づいた。



「おっと、すまない。
な、何故メイドなんだ?」


「普段の私が横で歩いていたら旦那様が色々からかわれたり同情されるでしょう。
今日は旦那様の私用がメインなので私はメイドで良いんです。」


「そ、そうか…。
色々気を遣わせてすまない。」


「構いません。
さあ、まずは髪を整えに行きましょう。」



「あ、ああ。」





理髪店ではエレノアがあらかじめ希望の髪型を店主にカタログを見せて説明してくれた。

カットが終わるまでエレノアは店内の離れたところで待機してくれいる。



その間、理髪店で使われている薬品や整髪料、はさみなどの道具はどこから仕入れているのかなど店員に聞いていた。


「あなた様はマックレーン家のディラン様ですよね。」

髪を切っている間話しかけられる。


普段なら気安く声をかけるなと言いたいが、エレノアが居る手前抑えた。



「そうだが…。」


「今日お連れの方は奥方のメイドですか?」


「まあ、そのようなものだ。」

本当は妻だがな。



「とても可愛らしい子ですね。
何と言うか一見地味なのに華があるというか。
とても綺麗な顔をしていて場が華やぐ子ですね。」


「まあ、そうだな。」



「うちの若い連中がソワソワしていますよ。
さっきから話しかけられた若い奴が真っ赤になって。
あんな可愛らしい子が屋敷で働いていたら奥様にいたぶられたりしませんかね。」


「我が妻はそのような事はしない。」
エレノアの批判を今の俺は受け流すことは出来なかった。



「は、はあ。そうですよね。
マックレーン家に嫁がれるお方ですから。
すみません不快な話をしてしまいました。」


「ああ、気を付けてくれ。」



店員はその後一切無駄口を叩かず髪を切っていた。


俺は店員の手さばきより鏡越しに映るエレノアの事が気になっている。



何だかんだお茶を出され、必要ない会話をされ、しまいには連絡先を渡されていた。


「ごめんなさい。
奥様のお使いで来ているので今お受けすることは出来ないの。
気持ちだけ受け取っておくわね。」

そう言って可愛く笑っている。



あしらい方がスマートすぎる。
このような状況にかなり慣れているんだな。
悪女と言われる由縁もこの振る舞いにあるのかもしれない。



俺のセットが全て終了し、エレノアを呼んだ。


俺の新しい髪型を見てエレノアがキラキラした目を見せた。


「ど、どうだ?似合っているか?」


「すごく良いです。
とても似合ってる。
昨日ずっとどんなスタイルが良いか考えていたんですけど、これにして正解でした。
デイビット様とは髪質も色も違うから同じじゃダメだろうって思ってて…。」



エレノアの口から元夫の父上の名前が出てドキリとした。


そうだ、あの二人は夫婦だった。

エレノアは父上を慕っているような言動があったし、俺に父上を重ねているのか?

そうであれば、と思うと腹立たしい思いが沸き上がってくる。



「元夫に似せるためにこの髪型を決めたのか?」

嫌悪が隠せず低い声になってしまう。



「え?デイビット様のこと?

全然似てないですよ。これっぽっちも。

背丈は似てるかもしれないけどそれ以外は全くです。
顔の系統は…同じかもしれないけど、デイビット様とはぜんっぜん違います!」



物凄い勢いで否定された。
何故だろう。
否定されて安心すべきなのに敗北感を感じる。



「そ、そうか…。」



「あ、あの、旦那様にも良いところありますよ。大丈夫です。」


何が大丈夫なのか分からない。

取ってつけたような褒め方をされて何も嬉しくない。



「お、俺の…。」


「はい、何でしょう。」



「俺の良いところって何だ…?」



「え…?。えっと…。」


エレノアが固まっている。

それはそうだ。

数日前には俺からひどい扱いをされていたんだ。

答えられずに固まって当然だ。


俺は彼女に何を言わせたいんだ。



「私、旦那様の瞳の色好きです。

デイビット様の深い緑も素敵だったけど、
旦那様の瞳は上品なミントブルーで、ターコイズみたいな、でももっと透明感があって、とても澄んでいてうっとりしてしまう色ですよね。
私、自分の瞳が地味だから羨ましいです。」



エレノアが俺の瞳を覗き込んで熱心に教えてくれる。




か、顔が近い…。愛らしい顔が間近に…。



「おっと、すみません。
失礼しました。
こんな近くに寄ったら不快ですよね。
さあ、次は礼服を買いに行きましょう。
私、お会計済ませてきます。」



そう言ってエレノアはそそくさと離れて行った。



俺の…瞳が好きだと言ってくれた。



父上のように深みがないこの瞳を。

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