前職キャバ嬢、異世界に来たら悪女になっていた。あんまり変わらないのかな?

ミミリン

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愛してるって伝えた?

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ルキアがイリスの家に行ってからはや数日。


ルキアが俺との離縁を考えていたことへのショックがまだ心を蝕んでいる。




酒に手が伸びそうになるが、また落ちぶれるわけにはいかない。

酒では何も解決しないからだ。


しかし、では何を持って解決をするべきなのか全く方法が浮かばない。



ルキアは俺のどこが嫌で離縁を考えたのだろうか…。


身に覚えが…ありすぎるのだ…。



振り返ってみれば、彼女と出会った時から俺は最低な男だった。

クズと言われても仕方がない奴だ。



今思い出すと顔から火が噴き出るほど恥ずかしい恰好をして威張り散らしていた俺。



そんな無様な俺からルキアは相当なひどい言葉を浴び、冷たくあしらわれていた。



父の名誉なんてものはどうでもよかったが、あの頃の俺は当時のエレノアはマックレーン家の誇りさえも地に陥れる女だと認識していたのだ。



マックレーン家を地に落としていたのは俺だと言うのに。



本当に恥知らずな男だった…。



エリザベスに虐げられていたクロエを救ったのも彼女だ。


ルキアが居なければクロエは毒を盛られてとどめを刺されるところだった。


あの時、ルキアは自分が真実を伝えたところで俺はエリザベスを信じるだろうからと身を挺して事実を教えてくれたのだ。


刃物で首を傷つけられていた彼女を助けたのは、亡き父の魔力だった。


その後はイリスに助けられたんだったよな…。


ああ、あの時ルキアに今までの事を誠実に謝罪していない事に気が付いた。



プライドばかり高くて、見栄っ張りな俺は彼女の人の良さに胡坐をかいていた。


出会って初めての時点から俺は離縁されても文句の言えない男だったと言う事か。


けれど…ルキアを愛する気持ちは誰にも負けない。


ルキアに謝罪するにも、一方的にこちらの気持ちを伝えるだけなら許す許さないの問題になる。



ただ、論点が変わるだけで問題は解決しない。


ダメだ。


このまま考えていても答えが出ない。




早めに職場に出向き、目の前の仕事に没頭する。


それでも、ふとした瞬間ルキアの事で頭が埋められてしまう。


「やっほー!ディル大隊長。
今日、食堂に居なかったけどご飯食べてる~?
って…何かすごいやつれてない?」



エルヴィスが俺の部屋に入って来るなり俺の形相を見て驚いている。


そんなひどい顔しているか?

まあ…しているだろうな…。




「ディル…何があったの?
ルキちゃんと喧嘩?」


「そんなもんじゃない…。
もっと根深い話だ…。」



「ええええ~こんなんじゃ、ディル現場仕事出来ないでしょ。
ちょっと待って。
僕今日仕事終わったら迎えに来るからご飯一緒に食べよう!
絶対だよ!」



そういうことで、俺は勤務後エルヴィスと夕食を一緒にとることになった。



ルキアが居ない屋敷に居ても辛くなるだけなので、エルヴィスの親切心はありがたかった。


ちなみに、キャシーにはイリスからしばらくメイドの仕事は来なくて良いと連絡を入れておいたらしい。


どうせ帰っても俺一人だ。

やはり、今日はとことん飲んでやる。






と思っていたが…エルヴィスに止められてしまった。



「あのね、僕は一緒にご飯を食べたかったの。
ディルは酔うとちゃんと話出来なくなるから駄目。
さあ、シラフのままでルキちゃんの話を聞かせてもらうからね。」


くそう…。

今日のエルヴィスは甘やかしてはくれないようだ。



俺は酔いもせず、これまでの経緯をエルヴィスに話した。



エルヴィスには今まで散々ひどい姿を見せている分、妙なプライドを出さずに伝えることが出来る。



「なるほどね~。
そんなことがあったんだ。
まあ、ルキちゃんが異世界から来たことは本人からサラッとだけは聞いたんだけど。
確かに根深い話だよね。」



「知っていたのか?」



「まあね。
だってソロバンしたりピアノ弾いたり手話教えたりってかなり特殊でしょ?
どうしてかな?
って思って本人に聞いてみたんだ。」


「なるほどな…。」

流石エルヴィス。

抜かりないな。



「けどさあ。
異世界うんぬんより、今の問題ってディルの態度にある気がするんだけど。」



「俺の…態度?ああ、確かにそうだ。
俺はルキアに誠心誠意謝罪も出来ていない。
こんな男とは添い遂げられないと思われてもおかしくないだろう。」



自分で言っていて悲しくなる。



「いやいや、そっちの態度じゃなくて。
ディルはルキちゃんにちゃんと気持ち伝えていたの?」


「気持ち…とは?」


「だからあ、愛してるとかって話。」


「あいしてる?
あい…愛?」



「もしかして、体の関係を拒まれてないからお互い愛し合ってるとか都合よく解釈しちゃってないよね…。」



「そ…それは…。」


「えっと…ほら、ディルたちって結婚式とか挙げてないじゃん。
それこそデイビット様の遺言からそのまま紙面上夫婦になった訳じゃん。」



「そ、そうだな…。」


「あの指輪も、ルキちゃんは受け取ってくれたけどディルの気持ち伝えて渡したの?
デイビット様が贈った指輪とは訳が違うんでしょう?」




「…。」

どうだったか…。

ルキアと体の関係を持ちたいとは言ったが永遠に愛を誓うなどとは伝えていなかったかもしれない…。



「まさかだけど、愛を伝えていない状態で身体を求めてたりしてないよね?」


エルヴィスが笑顔で俺に問う。


「…。」

ルキアの前で愛を伝えたか…?
伝えたような…。
ルキアは寝ていたような…伝えていないような…。




何も答えられない…。



「もしかして…そのまさかだったりする訳?」



「…。だと思う…。」



「さ、サイテーだよディル。
それは最悪だ。
あのさ、ルキちゃんは前の世界ではどうしても勉強したくてお金を稼いでいたんでしょ?
こっちに来てデイビット様が色々教えてくれただろうけどそれは商売の事なわけで俺たちみたいにアカデミーを卒業したわけではないんだよ。
それに、彼女の身分は貴族と平民の卑し子と言われる身だ。
卑し子に十分な人権何てないんだよ?
王族であってもね。
純粋な貴族でないルキちゃんがディルのために身を引こうとする気持ち理解してなかったの?」




「…。」


もう、何も言えない。


自分の愚かさに気が付き手で顔を隠してしまう。



「ディランは今後出世してマックレーン家を盛り立てる人物だから、下手な女遊びは出来ないはず。
だから私との関係で欲を発散するしかないわよねって思ってるかも。
ルキちゃんポイ考え方じゃない?」



「そ、そんな事ある訳ないだろう!」



「でも、そう思わせる態度だったんじゃないの。」



確かに、ルキアは『こんな私じゃダメ』と口にしていた。



『こんな私』


の言葉の中に全てが集約されているのか…。

そんな…。



「まあ、ここまで責めた僕が言うのも何だけど、ルキちゃんはディルの事嫌いではないと思うよ。
むしろ好きなんじゃないかな。
だからこそ、体の関係を持つのはディルが良いって思ってくれたんだと思うよ。」



エルヴィスが俺の肩を優しく叩く。



「色々こじれているけど、ちゃんと自分の気持ちを口に出さないとルキちゃんみたいな賢い子は身を引こうとして遠ざかってしまうんじゃない?
逆にディルの気持ちを分かってくれたらちゃんと向き合ってくれるはずだ。
頑張れ、ディル。」



頭が整理しきれない。



俺とルキアは濃厚な時間を過ごしていて、けれどお互い別の景色を見ていたと言う事か…。





シラフのままエルヴィスとの夕食が終わり、屋敷にとぼとぼと戻る帰り道。



ふと空を見上げると月が綺麗に光っている。



今、ルキアは何をして過ごしているのだろうか…。


また父上からもらった指輪を月夜にかざして父上を想っているのだろうか。



『こんな私』か…。



父上ほど優秀であれば、ルキアが抱えていた暗闇を見抜き優しく包み込んでいたのかもしれない。



そんな父上だからこそ、夫婦としての愛情は与えられなくてもルキアは父を愛したのかもしれない。



俺は、そんな彼女の一面も汲み取れず自分の気持ちばかりを押し付けて体を重ね続けていた。


いや、彼女が俺に完全に入れ込んでくれない事に焦って身体だけでも繋ぎとめようとしていたんだ。


子供さえ宿れば何とかなるなんておぞまし考えさえ抱いていた。



『愛している』なんて言ってない。



自分がルキアに狂いそうなほど、いやもう狂っているほど愛していることを伝えられていない。


彼女が俺以外の景色を見るだけで嫉妬で狂いそうになる事も伝えていない。



ただただ自分の不安を彼女の身体を奪う事で解消していた最低な行為だった。



結局、自分の醜くくて恥ずかしい一面をルキアに見せたくなかっただけだ。


強がりで見栄っ張りでプライドだけ高い俺はまだ心の中に存在しているのだ。



亡き父上と自分を比較して一人戦っていた馬鹿な俺。

そもそもこんな見栄っ張りな俺は父上との比較にもならないほどちっぽけだというのに。



本当に馬鹿だ。





次にルキアと会えたら、まずは謝ろう。



そして、見栄を張らずに愛を伝えよう。


彼女がそれでも去るなら俺は努力する意味がなくなるな…。

その時は世捨て人にでもなって神の道にでも目指そうか。


それも悪くない。




頭の整理が出来たからか、心が少し軽くなった気がした。

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