夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第45話 時間がない

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村の外に出た俺は、キャナタさんと一緒に門から少し離れ、ストレージリングの画面を操作する。
ナビさんに補助して貰いながらだが、アルミ製の物干し竿に今まで溜め込んでいた毒蔦を巻きつけたものを作っていった。

ストレージ内だと、どのくらいの大きさになったのか、ナビさんに聞いてもよく分からないため、取り出した時には、自分の身長より遥かに大きくなってしまい、少しだけやり過ぎたかと後悔しかける。

「おいボン…それ…」

「…説明はしている時間はありません…そちらの棒を持って下さい。」

俺の出した蔦の塊に、キャナタさんも驚いているが、今は気にせずに作業を続けるしかない。

「これ…触っても大丈夫なのか…?」

「大丈夫ですよ。ほら、危険はありません。銀色の所以外は棘が刺さるので、この棒の部分を持って下さい。」

「おう…しかし…本当にこんな事に意味があるのか?」

「今は出来ることをやるだけです。急ぎましょう。」

今は言い合っている時間はない。
助けると決めたなら、やれる事は全てやる。
前みたいな、後悔する結果にはなりたくないからな…

適当な場所に蔦の端を突き刺し、成長するように力を込める。
ワサワサと蔦が動き出し、地面に広がっていく。
直径が1mほどに広がった所で、力を込めるのをやめて立ち上がると、キャナタさんは完全に引いていた。

「おいおい…今度はなんだよ…」

「これで端を固定できました。村を1周します。行きましょう。」

「…本当になんなんだ…」

キャナタさんは、青い顔をしながらも、物干し竿の片側を掴んでくれる。

(ナビさん、それじゃサポートよろしく。)

『要請受諾。移動開始後、毒麻痺霧ポイズンミストを一定感覚で発動させて下さい。
各実施タイミングは、お知らせしますか?』

(宜しく頼む。同時発動になるから、転換路の確認も頼む。)

『要請受諾。実施タイミングの提示と、生体魔素転換路エーテルリアクターの稼働状況監視を開始します。』

ナビさんの準備も出来た。
後は、魔物モンスターが来る前に終わらせるだけだ。


村の壁の外側に蔦の導線を張り、一定感覚で毒麻痺霧ポイズンミストの見えない壁を作り出した。
…約10分程度かけて、入り口の門のところに戻ってくると、レクレットさん以外にも何人かの男の人が出て来ていた。

「キャナタさん、ここからは俺だけでも大丈夫です。少し離れて居て貰えますか?」

「お?おう…また何かするのか?」

「いいから離れて下さい。」

キャナタさんには、蔦の導線から離れて貰い、ナビさんのサポートを受けながら、毒蔦に力を注いでいく。

ワサワサと蔦の導線は成長して行き、あっという間に村の壁に到達、そのまま壁を這い上がって覆い隠してしまった。
いきなり大量の魔素を使った反動からか、全身に痺れのようなものが走った。
…が、動けないほどじゃないし、ナビさんの警告もないから気にしないでいいだろう。

「キャナタさんには、お願いしたいことがあるんですけど、手伝ってくれたついでに、聞いてもらえませんか?」

「…いや、まずそれの説明を…」

「無理です。時間がありません。」

ナビさんによれば、後20分もしたら、ここは戦場になってしまう…
少しでも時間を有効に…

「…そんなに急ぐことかよ…まったく…後で説明してもらうからな?…で?今度はなんなんだ?俺の知ってるものだろうな?」

キャナタさんは警戒しているが、別にもう物は出さない。
ここからは、村に入られない仕掛けをしていくだけだ。

「村の人達を、全員村の中に入れて貰えませんか?」

「…は?ボン、お前何を言って…」

「冗談でもなんでもありません。これから起きることは、他の人を巻き込む可能性があります。怪我したくなかったら、大人しく村の中に入って居て欲しいんです。」

下手に外に居られると、これからやることに巻き込みかねないから、出来れば門を閉めて、村の中から出て来て欲しくない。
被害を減らすなら、これが一番マシな策なんだ。

「そんなんで納得できるわけないだろ?ちゃんと説明…」

「…毒液の檻ベノムケージ!」

俺はキャナタさんを中心に、下手に動かない限り、触れることのない大きさに魔法を展開する。

「少しだけじっとして居て下さい。」

「は?おい、これは何のま…」

「触るな!…すみません…触れると怪我じゃすみませんから…お願いします。」

不用意に檻に近寄るキャナタさんに、大声を出してしまった…
しかしそのおかげで、キャナタさんは触るのを止めてくれたようなので、結果的には良かったのかもしれない…

「今から起きること、納得出来たら他の人を説得して下さい。俺が言うより、同じ村の人が言った方が説得しやすいでしょうから…」

「…何をする気…」

キャナタさんの言葉を待たずに、ストレージリングから快速蜘蛛スピーダーの死骸を取り出し、檻の端に向かって投げた。
檻に触れた快速蜘蛛スピーダーは、ほとんど抵抗なくバラバラになってしまう。

「ひっ!なにして…」

その光景を見て、後ずさってしまったキャナタさんは、あと少し檻を消すのが遅かったら、同じ様になっていた…動くなって言ったのに…

「こういうことです。さっきの魔法を、村の入り口に複数展開して、防壁にします。
外に人がいると危ないのが分かって貰えましたか?」

キャナタさんは、腰を抜かしてしまった様で、俺を見上げる様にへたり込んでいる。
手を貸そうと近づくと…

「ひっ!…いや、すまん…だが…こんな…」

うん、怖がられているみたい…
まぁ、今はむしろ好都合でもある…

『情報提示。到達まで、残り15分。まもなく先頭が視認可能な距離に到達します。』

「怖がってもらって構いません。ですが待つことはできないので、立って仕事をして下さい!」

「…分かった…他の奴らには俺が…」

「いいから早く!」

「ひっ!」

キャナタさんは、小さく悲鳴をあげながら、這う様にして村の入り口に向かって行く。

その様子に、他の村人が気がつき、話を聞いた村人が、少しづつ村の中へと戻って行く。

これが終わったら、村を出た方が良さそうだな…



ーーーー
作者です。
準備が思った様に進みません…
…が、これでほぼ終わったので、次回はうまく決まる様に祈るだけになります。
感想その他、お時間あれば是非。
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