極左サークルと彼女

王太白

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 翌日から、サークル員はバイトを探し始めた。同時に、極左組織の逆襲に備えて、警戒もし始めた。といっても、困ったことに、極左組織とはどんな人たちなのか、知っている者がほとんどいないのだ。
「ぼくは、極左組織から派遣されてきた中年の男を見たことがある。とにかく、マスクとパーカーで顔を隠していて、中年という以外に何もわからなかった」
「おれも見たことはあるが、妙齢の女だったぞ。決して美人とはいえなかったが。それでも、眼光が妙に鋭くて、油断ならない雰囲気だった」
 こんな種々雑多な目撃証言があり、人物像を一人や二人にしぼることができないのだ。中には、「極左組織なんてのは、我々の脳内にあるだけで、実体の無い存在じゃないのか?」と言う者もいる始末だ。実際、会長の番田さえも直接会ったことは数回しかないし、それも先ほどの総会でかみついてきた、出っ歯の四回生や分厚い唇の四回生を仲介してである。譲司のほうも、指揮官である細胞長と、その直属の数人の細胞員しか面識がないぐらいだ。
「ここまで誰も面識がないとは思わなかったぜ。まるで、正体の見えない妖怪を相手にするようなもんだ。何にせよ、向こうはこちらを虎視眈々と狙っているのに、こちらは備えのしようがないんだからな」
 譲司は嘆息する。そして、数日後、譲司の予期していた通りの事件が起きた。バイトから帰宅する途中の三人のサークル員が、何者かに襲われ、意識不明の重体になって発見されたのだ。発見された場所は、サークル棟の近くなので、おそらく見せしめに襲われたとみて、間違いないだろう。
「襲われたのは、二回生が一人と、一回生が二人か。いずれも背後から鈍器で殴られており、意識不明。襲われたのは、いずれもコンビニのバイトを終えて帰宅する途中か。襲われた時間と場所は、バラバラとみて良いだろう。三人とも別々のアパートに下宿しているし、バイト先のコンビニも、ローソンとファミマとセブンイレブンと、別系列だからな」
 譲司が状況を整理する。寅雄は、明日は我が身かもという恐怖のあまり、全身に鳥肌が立った。これは寅雄に限らず、他のサークル員も同様である。番田は、「まだ襲われたのは三人だけだ。集団で帰宅するなど、気をつけていれば対応できる範囲内だ」と、あくまで強気だったが、暴力的なケンカなど、ろくにしたこともない下級生たちは、すっかりおじけづいてしまった。
「今からでも、極左組織にわびたほうが良いんじゃないか? ぼくたちみたいなペーペーが上に逆らうなんて、どだい無謀だったんだ。早めに謝ったほうが良いって」
「おれもそう思う。向こうは暴力のプロなのに対して、こちらは素人だ。勝てっこないよ」
 日がたつごとに、弱気になる者は増える。実際、サークル員は番田の言う通りに、集団で帰宅するようになっていたが、それでもまた二人の犠牲者が出たからだ。
「今度は三回生と二回生が一人ずつか。また背後から鈍器で殴られている。もともと、もう一人の二回生が一緒に三人で帰宅していたが、彼のアパートの前で別れて二人になったところを狙われたな。いずれにせよ、今回の事件で、下級生はますます動揺するぞ」
 譲司は舌打ちする。その日のうちに、譲司は寅雄、秋夫、優希、番田を集めて、作戦会議を開いた。五人とも、今までの見通しが甘かったと痛感し、悄然と肩を落としている。
「下手人は、以前、秋夫のアパートを襲った、極左組織直属の親衛隊とみて良いだろう。オレはやつらとは面識がないが、前回戦ったことで、だいたいの力量は把握している。やつらは相当、ケンカ慣れしているとみて良いだろうな。オレが極左組織のアジトの場所を知っていれば、先制攻撃もできるんだが、細胞長や細胞員と会うのはいつもアジト以外の公園などで、アジトなんか行ったこともないしな」
「譲司さんがそう言うんなら、よほどの手練れだろうな。わしなら、暴力的なケンカもしたことがあるが、井森などは見るからに、ひ弱そうなガキだしな。こちらの戦力に限りがある以上、サークル員を全員守ってやることはできん」
 五人は頭をかかえて考えこんでしまう。時計のコチコチという音がうるさく響くほど、ただ時間だけが無情に過ぎていった。
 そんな状況を打破するかのように、秋夫が発言する。
「ボクはゲームオタクですから、これから言うことはオタクの独り言と思って聞いてください。以前プレイしたオンラインゲームでは、五人でパーティーを組んで戦いましたが、当初は全く敵の魔竜の集団に勝てませんでした。そこで、クリア条件をインターネットで探してみたところ、パーティーのうち一人を魔竜にわざと捕まらせ、魔竜の城まで連れ帰らせて、魔竜の城の内部の情報を集めさせ、チャットで仲間のもとに報告させるんです。危険な役目ですが、誰か極左組織に見つからずに通信できる者を、捕まったと見せかけて潜入させてみてはいかがでしょうか?」
 これには、聞いていた寅雄が、渋い顔をした。
「確かに秋夫の言いたいことはわかるけどさ、普通、極左組織に捕まった時点で、手足を縛られて、スマホなどの通信機器は没収されるんじゃないのか? 漫画だと、体のどこかに通信機器を隠して、わざと敵に捕まるなんて話があるけどな。そんなことができるのは、ゴルゴ13みたいなプロの仕事人ぐらいだぜ」
 寅雄はあきれたように言うが、番田の反応は違った。
「荒唐無稽な作戦と一笑に付しても良いが、試してみる価値はあるかもしれん。どうせ、このままではジリ貧だしな。こちらが不利とみれば、仲間内から裏切り者がどんどん出てくるぞ。それよりは、サークル員のうちで、そういう術に長けている者を見つけ出して、極左組織の内部に潜入させるという案も、捨てたものではあるまい」
「でも、番田会長は、具体的に誰を潜入させるつもりですか? 少なくとも、俺には無理ですよ。俺は古典文学しか読んだことのないオタク学生ですし」
「待て待て。別に井森を潜入させるとは言っておらん。実は一人、うってつけの学生がいるのだ。明日にでも、わしが紹介するから、また明日にでも話し合おう。今夜はこれでお開きにしようではないか」
 番田があまりにも自信たっぷりに言うので、四人は不審に思いながらも、一応、お開きにして帰宅して眠った。
 そして、翌朝、番田が呼び出した男子学生を見て、四人は口から心臓が飛び出そうなほど驚いた。年の頃は譲司と同じぐらいだが、まるっきりの新顔なのだ。
「彼は工学部四回生、ひの火野あしへい葦兵くんだ。一浪して入ったから、顔つきこそ、五回生の譲司さんのようだがな。でも、高校時代は補欠とはいえ、サッカー部で鍛えていたから、筋肉はそこそこついているぞ。背格好も譲司さんと似ていて、違うのは顔ぐらいだから、変装でもしておけば、譲司さんと見分けがつかないだろう。火野くんには、譲司さんのふりをして、極左組織に投降してもらう。言い訳は、わしの方針についていけなくなったとでも、言っておけば良い。彼は工学部電機科だから、機械の操作はお手の物だ」
「でも、あたしは火野くんなんて、面識がないです。今までどうしてたんですか?」
「そこなんだ。実は、彼は一回生で日本反帝同盟に入ったものの、当時から会長だったわしの方針についていけず、ずっと幽霊部員だったのだ。普通なら無理矢理にでもサークルに出席させるところだが、のらりくらりと逃げ回るのだけは上手くて、捕まらなかった。今回、わしが方針を変えたと聞いて、自分から戻ってきたというしだいだ。自分の意思で戻ってきた以上、彼は頼りになるぞ」
「こんなオイラですが、サークルのために尽くすので、よろしくお願いします」
 葦兵は深々と頭を下げた。
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