極左サークルと彼女

王太白

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 その日から、葦兵は極左組織と連絡をとろうと試みたが、簡単にはいかない。表には出てこないので、まずはスマホの電波などの通信を傍受しようとする。もっとも、スマホの電波なんてのは無数に飛び交っているので、しぼりこむのは至難だ。
「スマホなんてハイテクな通信機器を、極左組織が持っているかどうかが問題じゃないの? 携帯電話会社との契約はどうするの? 身分証明書も銀行口座も必要なのよ」
「それもそうですね。ボクなら、漫画喫茶のパソコンのフリーメールでも使いますよ」
 もっとも、パソコンのフリーメールアドレスも、数が多いので、しぼりこむのは大変だった。そこで、譲司は一つの案を出した。
「極左組織だから、反帝、反資本主義、革命、造反有理などの用語に反応するんじゃないのかな? それを使っているやつをしぼりこめば良い」
 譲司の言う通り、反資本主義で検索してみると、百件まではしぼりこむことができた。それでもまだ多すぎるので、これ以上は身元のはっきりしているのをだんだんと排除していくと、最後に『日本の斧の会』という謎の団体が残った。
「よし、しぼりこめたな。後は、どうやって連絡をとるかだが、オレに考えがある。まずは、番長くんがオレを殴れ」
 これには番田のほうが驚いた。
「いや、いきなり殴れなんて言われても……。なぜ、わしが譲司さんを……?」
「心配するな。あくまで作戦だよ。まずは、オレとケンカしてボコボコにしたという実績が、葦兵くんには必要なんだ。とりあえず、極左組織と関係のあるオレと殴り合ってボコボコにして、縛って自室に監禁しておき、その間に極左組織との連絡先を突き止めたが、オレには逃げられたとでも、言い訳を作っておくためにな。そうでもしなきゃ、あの疑り深い極左組織が、葦兵くんを信用するわけがないだろう」
 こうして、番田が譲司を殴り、ボコボコにした顔を葦兵がスマホで撮って証拠とする。
 その後は、極左組織のフリーメールアドレスに、撮った画像を送り、『オイラは火野葦兵という大学生です。脱会しようとした来栖譲司をボコボコにしたので、どうか組織に入れてください』という内容のメールを送り、連絡待ちだ。もっとも、極左組織からの返信は、何日待ってもなかなか来なかった。
「たぶん、向こうも警戒してるんだろうな。本当はオレの首でも持っていくのが一番確実なんだが、オレまで死んだら、誰が優希やサークル員を守るかという問題になるしな」
 譲司が嘆息する。
「譲司さんは死んだらいかん。極左組織の内情を詳しく知っているのは、譲司さんだけなんだからな。そこは、わしでも代わりにはなれん」
 そんなことを六人で話し合っていると、ふいに葦兵のスマホが鳴った。フリーメールアドレスは、極左組織のものだ。
『おまえが我が組織に入りたいというのはわかった。だが、我々とて、簡単に信用するわけにはいかん。警察のスパイということも考えられるからな。何より、どうやって我が組織のことを知ったのかも、気になる。来栖譲司に聞いたそうだが、そもそも末端の構成員に過ぎない来栖譲司のことを、どうやって詳しく知った? 他にもいろいろ聞きたいことはあるが、我々とて忙しい身の上だから、ここで聞くわけにはいかん。後ほど、直に会って聞くとしよう。日時は三日後の午後九時。場所は郊外の××公園だ。必ず一人で来い』
 読んだ葦兵は躍り上がって喜んだ。
「ついに、オイラたちで極左組織の正体に肉薄することができたんだ。さあ、三日後に備えて、準備しないとな」
「喜ぶのは早いぞ。オレは極左組織について知っているから言えるが、やつらは新入りの入会希望者には、忠誠の証を立てさせるものだ。まあ、葦兵はケンカが強そうにも見えないから、警察官を殺せなどとは言わないだろうが、それでも警察の無線を傍受しろというぐらいは言うだろう。その点は、どうする?」
「大丈夫だ。オイラは趣味で無線の傍受ぐらいはやっていたから、警察の無線も傍受できないことはない。伊達に大学の電機科には在籍していないよ」
 こうして、三日後に葦兵は、郊外の××公園に出向く。さすがに九時ともなると、山の中腹にある公園は真っ暗で、誰も遊んでいない。葦兵が装備をそろえて来てみると、三人の覆面にパーカーの中年男が待ちかまえていた。
「火野葦兵くんだね。我々は『日本の斧の会』の構成員だ。よろしく」
「オイラのほうこそ、よろしくお願いします」
 葦兵は軽く頭を下げる。
「『日本の斧の会』に入会したいとのことだが、早速だが、入会のための試験を受けてもらおう。君は警察の無線を傍受したことがあるかい?」
「はい。趣味でやっていました。今日もやってみろと言われると思い、機材を持ってきたので、今から実演させていただきます」
 葦兵は機材を取り出すと、組み立てていじり始める。最初は雑音ばかりだったが、そのうち、雑音に混じって、人の声が聞こえ始める。
「素晴らしい。一介の大学生にしておくには惜しいよ。あと、これが大事な質問だが、来栖譲司のことは、どうやって知った? 一応、あやつとて、『日本の斧の会』の極秘の会員だ。簡単に君に正体をつかませるとは思えないのだが」
「敵対する組織のタレコミですよ。一口に極左組織といっても、様々な組織があるでしょう? オイラの無線傍受の手を借りたいと言っていた敵対組織が、来栖譲司の居場所を教えてくれたんです。後は、隠れ家に乗り込んでボコしましたよ」
「なるほど。よくわかった。君には、無線傍受を専門にした細胞に入ってもらうとしよう。三日後の九時に、またこの××公園に来ると良い」
 そして、三日後、葦兵は、五人の細胞員を従えた細胞長に引き合わされた。
「今日から、君の指揮官を勤める細胞長だ。組織の指令は、全てこちらから出される」
 その日を境に、葦兵からの連絡は、いったん途絶えた。
「入会の試験から二週間になるが、葦兵は連絡の一つもよこさないで、何をやっているんだ? まさか、殺されたんじゃないだろうな? もし殺されたんなら、わしが黙ってはおらんぞ」
「まあ、落ち着けよ、番長くん。オレもそうだったが、極左組織に入りたての頃は、一時的に外部との連絡を絶たれるんだ。その間に、極左組織に忠誠を誓うことをたたきこまれる。今、葦兵がオレらと連絡をとろうと、下手な動きをしてみろ。葦兵は極左組織に殺されるぞ。やつらは、死体を一つ処分するぐらい、朝飯前なんだからな」
 番田がヤキモキしながら待つ間、譲司はあくまで冷静だった。優希も寅雄も秋夫も、「会長が冷静じゃいられないから、会長の仕事を手伝ってやれ」という譲司の指令のもと、日本反帝同盟の仕事を手伝い始める。といっても、大半は他のサークル員と同様に、バイトして金を稼ぐことだったが。今や、ビラを刷ったり、立て看板を作ったり、演説したりなどの仕事は、めっきり減ってしまっていた。
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