極左サークルと彼女

王太白

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 一方、番田のスマホにも、葦兵のメールは届いた。
「ついにメールがきたぞ。待った甲斐があったな。こうなりゃ、持てるだけの武器を持って、一刻も早く救出に向かわんと……」
 番田は踊りあがって喜んだが、譲司は「待て待て」と、あくまで冷静だった。
「このフリーメールに書かれているのは、アジトの所在地だけだろう。敵の正確な人数や、アジトの規模までは書かれていない。それに、アジトには直属の親衛隊がいることも考えられる。あくまで情報の四分の三は霧の中とみていい。まずは、アジトを偵察することから始めないと、こちらが返り討ちにあうだけだぞ」
「でも、譲司さん……。極左組織は、葦兵ぐらい、簡単に拷問して殺すような連中だぜ。わしらがグズグズしていたら、葦兵は殺されちまう。実際、葦兵からの連絡が途絶えてから、何人のサークル員が闇討ちにあって意識不明の重体になっていると思っているんだ? わしは、これ以上の犠牲を出すのには、耐えられん」
「番長くん、まあ、落ち着け。まずは、サークル員を全員集めて、アジトの場所がわかったことを知らせるのが先じゃないのか? こちらは、今まで親衛隊にやられっぱなしなんだ。サークル員は動揺しきっている。そこに、敵のアジトの情報がわかったと知らせれば、臆病になっているサークル員の闘志を、再び燃え上がらせるきっかけになるかもしれないぞ。今までは正体のわからなかった敵の実体が、少しでも見えてきたんだからな」
 こうして、その日も、サークル員全員が出席する総会が、緊急に開かれた。もっとも、サークル員は十数人が重体で入院しており、朝からバイトに出ている者も多く、出席者は半分ほどだったが。
「まずは、このメールを見ろ。先日、極左組織に潜入していた火野葦兵からもたらされた、やつらのアジトの所在地だ。わしは、既にインターネットの地図アプリで、おおまかな場所を割り出している。アジトは○○町△△山の中腹にある。もちろん、県警にも連絡して救助を要請しているが、県警はグズグズしていて当てにならない。このまま時間だけがたてば、火野葦兵は殺されてしまう。こうなれば、わしらが自ら救助に赴くしかない」
 とたんに、サークル員は、「おおおっ!」と雄たけびをあげる。
「こっちは、今までさんざん、極左組織にやられてきたんだ。今度はおれたちが一泡ふかせてやる番だぜ」
「そうだ、そうだ。やつらの今までの卑劣なやり口を、今度はこちらが倍にして返してやるんだ。そうと決まれば、早速、出発だ」
 サークル員の士気の高さを感じ取った番田は、この戦いは勝てると思った。
「もちろん、わしも皆と同じ気持ちだ。だが、丸腰で行くのは危ない。そこで、皆に防具を渡しておこうと思う。ここにあるのは、剣道部やなぎなた部から特別に貸してもらった防具だ。面や小手はさすがに使いにくいから付けなくて良いが、胴ぐらいは付けておいて損はないだろう」
 サークル員は防具に群がり、サイズが完全に合わなくても、サイズが近い防具を付けた。それを確認した番田は、急いで公共交通機関を乗り継ぎ、○○町△△山へと向かった。
△△山は、傾斜のゆるい山だが、所々に峻険な崖があり、兵を伏せておくには、うってつけの地形である。番田と譲司は、まずは周囲を地図アプリなどで観察してみる。
「こりゃ、上り下りがきついけど、尾根づたいに進むのが、最も確実かもしれんな。オレが見る限り、山道には伏兵がいるとみて間違いないぜ」
「わしも同意見だな。よし、まずは尾根に上り、尾根づたいに進め。とにかく、まずは人質になってる火野葦兵の救出が最優先だ。敵に見つからないためにも、できるだけ声をたてるなよ」
 山道を進むのに不慣れなサークル員を守るために、まず譲司が先頭を警戒しながら歩き、背後からの奇襲を警戒して番田が最後尾を歩き、途中でバテたサークル員に水分補給をするために寅雄、優希、秋夫が水筒を持って歩いていた。もっとも、山歩きに不慣れなサークル員は、次々にバテていったが。
「参ったな。本ばかり読んできたせいか、サークル員は想像以上に戦力にならない。こりゃ、オレらが少数精鋭の数人を選りすぐってきたほうが、いくらかマシだったかもしれないな」
 譲司が寅雄に向かって、小声で愚痴を言う。そうこうするうちに、周囲で「ダンッ……ダンッ……」という銃声が鳴り響いた。それを聞いた譲司は、うっすらと笑みを浮かべる。
「そう悲観するもんでもなかったかな。こんなところで威嚇射撃をしてしまうってことは、やつら、戦いのプロである親衛隊がまだアジトに戻ってないということだ。親衛隊なら、無駄な弾を使わずに、オレらを攻撃するだろうからな。おそらく、親衛隊はスマホを持ってないから、急に連絡がつかないんだ。案外、この面子でも、何とかなるかもしれないぞ」
 やがて、前方に拳銃をかまえた数人の覆面の男が見えてくる。どうやら、サークル員が尾根づたいに来るとは思っていないらしく、崖の下の山道に向かって拳銃をかまえていた。
「よし、皆でかかれ! こいつらを捕まえて、縛り上げ、サルグツワをかませろ!」
 こうなると、数で優るサークル員は、覆面の男たちを圧倒した。全員から拳銃を取り上げ、縄で縛ってサルグツワをかませる。
「こいつらの見張りに二人を残して、後はアジトへ向かうぞ」
 譲司の指揮のもと、サークル員は数回の戦闘で、ことごとく極左組織を撃破し、覆面の男たちを縛り上げながら前進した。そのうち、開けた場所に出て、木造の小屋が見えてくる。入口を二人の覆面の男が、拳銃を持って警備していた。譲司は付近の茂みにサークル員を潜ませ、敵から奪った拳銃をかまえると、覆面の男から離れた窓に向かって撃つ。派手な音をたててガラスが割れる。
「何者だ?」
 覆面の男が窓のほうへ走り寄るが、反対側からタックルをしかけてきたサークル員によって縛られ、サルグツワをされる。入口からも数人の覆面の男たちが出てくるが、同様に譲司の指揮するサークル員が、茂みから飛び出し、全員を縛り上げる。
「よし、このまま屋内に突っ込め。火野葦兵を助け出せ」
 そのまま、全員で小屋の中に突っ込み、通信機器の部屋から物置までくまなく探して、ようやく葦兵は助けられた。葦兵は命に別状はなかったが、両手両足をきつく縛られ、顔や胴をひどく殴られており、アザだらけで気を失っていた。
「よくぞ、命懸けでアジトの場所を知らせてくれたな。礼を言うぞ」
 番田は葦兵の縄をとき、抱きしめて涙ながらにつぶやいた。
「さて、後の始末は県警に任せて、わしらは退散する……」
 番田が言い終わらぬうちに、小屋の入口から黒い影が侵入してきたかと思うと、入口付近のサークル員が三人ほど「ぐわっ!」だの「ぎゃっ!」だのと悲鳴をあげながら倒された。
「どうした? 何事だ?」
 譲司が入口に急行すると、そこには八人の覆面と黒いパーカーを着た男たちがいた。入口には、三人のサークル員が、背中から刃物で斬られて倒れている。
「この手際の良さ……。まさか、親衛隊か?」
 譲司が歯噛みする。
「いかにも。我らが『日本の斧の会』直属の親衛隊だ。貴様らか、我々のアジトを襲ったのは?」
「そうだ。よくも、わしの可愛いサークル員たちを傷つけてくれたな。その礼として、貴様らにも同じ傷をつけてやるぞ」
 番田と譲司が二人で襲いかかるが、さすがに八人が相手では、多勢に無勢である。徐々に旗色が悪くなり、番田も譲司も傷が増えていく。さすがに寅雄も、優希の前とはいえ、足がガクガク震えて動けなかった。
「フハハハ……。こんな山奥のアジトに、戦闘の素人だけで乗り込んできた度胸は褒めてやるが、我ら親衛隊の力を見誤ったのが、貴様らの最大の敗因だな。しょせん、素人や末端の構成員如きでは、我々には勝てん」
 それでも、譲司は必死で戦って、親衛隊の一人の脇腹に回し蹴りを叩き込んだので、激昂した親衛隊は、仕返しとばかりに譲司の腕の関節をきめにくる。そのとき、今まで足がガクガク震えて動けなかった寅雄が、机の上にあったパソコンのディスプレイを投げつけたのだ。もっとも、親衛隊はディスプレイを左手を振り回して難なく防いだが、その一瞬の隙を突いて譲司は、関節をきめられつつあった腕を脱出させ、代わりに覆面の上からパンチする。
「皆、何も持ってない寅雄でさえ、攻撃したのよ! 中には、敵から奪った拳銃を持っている人もいるのに、なぜ、かかしみたいに突っ立っているの? 兄さんと番田会長がやられたら、皆だって皆殺しにされるのよ!」
 優希の言葉に、サークル員は励まされ、「くそっ。こうなりゃ、いちかばちかだ」と叫びながら、拳銃を親衛隊相手に何発も撃ち込む。もっとも、素人の射撃だけに命中精度は低かったが、それでも親衛隊に傷を負わせたり、驚かせたりするのには充分だった。譲司や番田も、流れ弾がかすって傷を負っていたが、サークル員の射撃に助けられて反撃に出た甲斐もあり、何とか八人全員を縛り上げることができた。
「見よ! 勝ったぞ! 勝どきだぁ!」
 サークル員は、全員で「おおおっ!」と勝どきをあげると、県警に電話して、後のことは任せ、山を降りて病院に直行した。
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