俺は毛沢東!?

王太白

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「申し訳ございません。主人は病状が思わしくないため、わたしが替わりに参上いたしました。それで、ご用件は何でございましょう?」
 リン元帥の妻であるヨウ夫人が、みゆ婆の前に平伏する。
「そう緊張せずとも良い。実は最近、ポン元帥には国防相を辞めてもらい、替わりにリン元帥を国防相にしようと考えておるところじゃ。だが、辞めさせる理由が見つからぬ。ポン元帥は何の落ち度も無いからのぅ。もちろん、後釜にはリン元帥をすえるつもりじゃ。十大元帥の中で、ポン元帥と仲の悪いのは、リン元帥だけじゃからな。しかし、ポン元帥にはチュウ元帥という強力な味方がいる以上、ウチの力では、うかつに手出しできぬ。リン元帥には期待しておるぞ」
 ヨウ夫人は「わかりました。主人の意見も聞いたうえで、明日、また伺います」と言って退出し、翌朝、再びみゆ婆を訪ねてきた。
「主人が言うには、リン家の子飼いの軍人たちを、密かに主席の護衛につければ良いそうです。主人は他の元帥たちと仲が悪いので、万が一に備えて腕利きの軍人たちを密かに雇っています。彼らを主席の護衛につけられるならば、主人と主席の仲も深まり、お互いに得をすることになりましょう」
「うむ。気に入った。その案を採用しよう」
 みゆ婆が快諾したので、ヨウ夫人は一礼して退室する。みゆ婆は早速、中南海を警護している軍人のうち、ポン元帥やチュウ元帥に忠誠を誓っている者たちを徐々に解任し、代わりにリン元帥の子飼いの軍人を配置した。
 だが、そういった事態をチュウ元帥が容認するはずがない。チュウ元帥はポン元帥と密かに連絡をとり、対策を協議し始めた。
「このままではポン元帥は、主席と裏で手を組んだリン元帥によって、粛清されてしまうぞ。それを未然に防ぐには、軍事クーデターしかない。幸い、わしを含めて、元帥や軍人の多くは、国防相であるポン元帥に忠誠を誓っている。主席がお変わりになってしまわれたのは、周知の事実だからな。だから、ポン元帥は、『主席の君側くんそくかんを除く』のを旗印にして、文化工作隊を取り仕切るみゆ婆とリン元帥を倒せば良い。『これは主席と中国をお救い申し上げるためのクーデターであって、決して私利私欲のためではない』と、放送局と共産党機関紙で宣伝しておけば、必ず文武百官は納得するだろう」
 電話は盗聴される怖れがあるので、チュウ元帥は軍務のためと称して、信頼できる部下をえりすぐり、ポン元帥のもとに密かに右のような手紙を届けさせた。もちろん、手紙は受け取りしだい、焼却するよう指示している。
 しかし、ポン元帥は悩んでいた。小作人の出身であったポン元帥は、毛沢東の実施した人民公社の熱心な支持者で、毛沢東に心酔していたのだ。そんなポン元帥にとって、国のためとはいえ、毛沢東の側近に刃を向けるという行為自体が、非常に抵抗があったのだ。
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