お兄ちゃんのことが好きすぎて困ってしまう件

王太白

文字の大きさ
7 / 10

6

しおりを挟む
 次のテーマを考えてみたが、さすがに簡単には決まらない。優菜は前回の話を書くのに燃え尽きていたからだ。意欲は徐々にわいてきたが、肝心のテーマが決まらないのだ。そうこうするうちに、優菜のクラスでもめごとが起こった。最初は男子どうしがギャーギャー騒いでいる程度だったが、それがだんだん悪口の言い合いに発展していき、今ではクラス内を二分する対立になってしまったのだ。仲の良い女子に原因を尋ねると、
「今までは、医者の息子で、男女に公平で、美味しいお菓子を作っては配るのが趣味の中原くんがクラスの人気者だったんだけどさ。最近は川上くんが、急速に男子の間で人気を博するようになってきて、中原くんに取って代わろうとしているのよ。川上くんって、家は貧乏だし、女子と仲悪いし、お菓子なんか作れないけど、他人の弱みを握るのが上手くてさ。あるいは、他人にあることないこと吹き込んで、扇動するのも上手いしね。それで、クラス内の男子は中原派と川上派で二分されてるってわけ。まあ、ウチらのグループは覇権争いに興味ないから、一歩引いて眺めてるんだけどね」
とのことである。担任はまだ新米で、上手く仲裁に入れないため、優菜は学校へ行くのが憂鬱だった。休み時間になるたびに、悪口を言い合う声がするからだ。
 そんなある日、優菜はふと川上くんの顔を眺めると、妙に余裕が無いように見えた。背は中くらいで体も筋肉質なのに、である。そう、まるで、以前に優菜が書いた短編小説に出てきた、いじめっ子のようだ。
(ひょっとして、川上くんも心が渇いているんじゃなかろうか?)
 優菜は川上派の男子の一人、内海くんに接触してみた。チビで気弱そうな子だ。
「ねえ、川上くんって、どうしてクラス内で中原くんに取って代わりたいの? クラス内の覇権なんて、はっきり言って、どうでも良いじゃん」
「……どうでも良くないんだよ。川上くんにとってはな。ここだけの話だが、川上くんは中原くんをねたんでいるんだ。金持ちでお菓子作りという趣味のある中原くんをな。ほら、川上くんって、無趣味だろ。それなのに、他人を扇動するのは上手いからさ。中原くんをやっつけるのが、唯一の楽しみになってるんだよ。オレに言えるのは、ここまでだ。くれぐれも、オレがこんな話をしたなんて、他のやつに言うなよ。しかえしとか怖いし……」
 そこまで言うと、内海くんはそそくさと去っていった。
(なるほど。川上くんは、修羅道に堕ちたってわけね。ねたみなどが原因で、死ぬまで他人と戦わなければならず、常に心が渇いている。こんなやつの心を平和にするには、どうしたら良いんだろう?)
 優菜は帰宅すると、優斗に相談してみた。優斗は少し考えてから言った。
「なるほど。優菜は、ある平和主義者が『平和とは自分の心を平和にすることから始まる』と言っていたのを知っているか?」
「いや、初めて聞いたわ。でも、深い言葉……。たぶん、誰にでも当てはまる言葉じゃない? 私も含めてさ。当てはまる口先だけの平和主義者なんて、山ほどいるんじゃない? イラク戦争の際にも、どこかのホームページに『ブッシュは武力に頼るから弱い。自分たちは戦わないから強い』なんて書き込みしてた偽善者が何人もいたけど、私に言わせれば、警察や自衛隊の武力で、生命財産の安全を守られているくせに、何を言ってんのって感じだわ。本当に戦いたくないなら、地位も財産も捨てて山奥で修行僧にでもなれば良いのよ」
「そうだな。自分の心を平和にするなんて、簡単にできることじゃないよ。もちろん、俺だって無理だ。ブッダの高弟だって、ある高僧から『おまえの悟りなんか偽物だ』と指摘され、『あいつにだけは会いたくない』と言い出したものだしな。そういうところからでも、ねたみは発生するもんだ」
 優菜は「う~ん……」と考えこんでしまった。
「ブッダの指導を受けた高弟でも完全に悟ってないなら、私ごときなんて、一生かかっても悟れないし、ねたみも消せないんだろうな」
 結局、その日の話は、それでお開きになった。さすがの博識な優斗も、これ以上語る知識を持ち合わせていなかったし、優菜も考えをまとめる時間が必要だったからだ。優菜は自室で、心を平和にするにはどうするべきか、考えてみた。
(とにかく、皆が趣味を持って、心を豊かにするしかないんじゃないかな。中原くんは、お菓子作りという趣味があるから、皆が周囲に集まる。でも、川上くんは奸智に長けているだけだから、一時的に人が周囲に集まっても、そう長続きするとも思えないや)
 かといって、今のまま中原派と川上派で対立が深まれば、いずれケンカやイジメで泣くクラスメイトが出てしまう。優菜が平和勢力として第三極を立ち上げねばならないのだ。
(でも、川上くんに対抗できるだけの魅力が、私にあるんだろうか? 趣味といえば、小説を書くぐらいのものだし……)
 そう考えると、優菜は何をしたら良いのか、わからなくなってきた。
「ふむ……。優菜もようやく、自分の存在の小ささがわかってきたみたいだな。それで良いんだよ。人間ってのは、うぬぼれているやつに限って、自分は何でもできる器の大きい存在だと勘違いしているものさ。誰でも、自分の小ささを自覚するには、勇気がいる。そうやって自分を知っていくことが大事なんだ。孫子に『己を知り、敵を知れば、百戦危うからず』という言葉があるぐらいだからな」
 優斗は満足そうに言うが、優菜のほうは、だからといって何をして良いのか、さっぱりわからない。優菜の困惑した顔を見て、優斗はヒントを出してみることにした。
「最も簡単なのは、趣味を増やすことだ。優菜は小説を書く以外にも趣味を持とう。それは巡り巡って小説を書く技術をも上達させてくれるから。哲学や宗教以外の歴史を勉強してみるのも良いぞ。例えば、少数民族の独立戦争とかさ。クルドとか、チベットとか、ウイグルとか、あるいはインドの不可触民の解放闘争なども良い。川上くんの強権支配に対抗できる智恵が、その中に隠されているかもしれない」
「はぁ? そんな類のゲリラ組織って、殺人とかの悪いことばっかりしてるんじゃないの? あるいは麻薬取引とか、金持ちを人質にしたりとか……」
「やれやれ、本当に優菜は戦争を知らないな。ゲリラの中には、確かにそんな犯罪者どももいる。南米の『コロンビア革命軍』なんて、麻薬取引などの悪いことばっかりしてるからな。でも、イラクの『クルド民主党』、『クルド愛国同盟』や、トルコの『クルド労働者党』は、少数民族の独立のために戦っている戦士も多い。チベットのゲリラは、『ブッダの戦士たち』とさえ呼ばれていたんだ。彼らは多数民族の圧政に抗して戦っているんだよ。まずは、本を読んで勉強してみろ。入門書として、三国志を漫画で読むのも良い」
 優斗は優菜に数冊の本を渡した。優菜は夜にパラパラとめくってみたが、文章以外は教科書みたいな図表や写真ばかりで、興味をひく挿絵など一枚も無いので、最初は読む意欲をそがれてしまった。
「ふわあ~あ……。最初の導入部分だけを読んでいると、眠くなってくるわ。だいたい、安彦良和『クルドの星』なんて、クルド労働者党をモデルにした漫画だけど、時代背景もトルコの政治も何もわからない私には、イメージがわかなすぎる……。お兄ちゃんは『三国志でも読め』と言うけど、漫画で読んでも私には難しいや」
 難解なゲリラ関係の本に悩む優菜に、優斗は実に甲斐甲斐しく教えて面倒をみた。
「例えば、クルド人は、イラン、イラク、トルコという地域的大国どうしの争いを利用して、独立しようとした。同じことは、三国志にも言えるんだ。魏と呉の対立を利用して天下をとろうとした蜀みたいなもんだな。こんな話をしていると、優菜のクラスの中原派と川上派の間に第三極を立ち上げる参考になりはしないか?」
「でも、女子で三国志を読んだ子なんて、少ないよ」
「そこは優菜の腕の見せどころだな。三国志は現代社会に応用できることを示すしかない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...