2度目も、きみと恋をする

たつみ

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1.彼女の家族

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 コンコン。
 
 ドアの前でノックをし、軽く息を吐く。
 中から「入りなさい」との言葉があり、彼女はドアを開いた。
 瞬間、室内にいた2人が、ぎょっとした顔をする。
 
 親子だと、はっきりわかる銀色の髪と金色の瞳。
 
 ソファに向き合った状態で、顔だけをこちらに向けていた。
 4つの瞳が大きく見開かれている。
 驚いているのは一目瞭然。
 
 それも当然だ。
 この部屋に入るのに、ノックなんてしたことがない。
 
「お2人にお話があってまいりました。お時間よろしいでしょうか?」
 
 がたがたっ。
 
 2人が同時に、中途半端に腰を上げている。
 両手を宙に浮かせているところや口を半開きにしているところまで同じだ。
 2人は体つきも似ている。
 
「ど、どうしたんだ、ボビー……」
「い、いったい……」
 
 あからさまに驚いている様子に、どうしたものかと思った。
 ここまで驚かれるとは思っていなかったからだ。
 
「ま、まぁ、とにかく……座って話そうじゃないか」
 
 2人のうち、年配の男性がヨレヨレとしながら彼女に近づいてくる。
 その間に、もう1人のほうは、反対側のソファに移動していた。
 今まで座っていた場所を彼女に明け渡すためだ。
 
「さあ、落ち着いて」
 
 落ち着かなければならないのは、2人だろう。
 そう思ったが、言わないでおく。
 年長者は敬うべきで、狼狽うろたえているのを指摘するのは失礼だ。
 
 彼女の手を取り、ソファに座らせたあと、年配の男性は向かいに腰掛けた。
 横並びになると、顔の輪郭や鼻筋、唇の形まで似ていることが、よくわかる。
 
「それで……話というのは、なにかな?」
 
 精一杯、落ち着こうと努力しているのが見てとれる年配の男性が言った。
 この屋敷の当主エディンド・カニンガム公爵だ。
 隣に座っているのが次期当主であり長男のハーヴィド・カニンガム。
 
 2人は22歳差。
 だが、若かりし頃のエディンドと今のハーヴィドの写真を見比べれば、同一人物に見えるのではなかろうか。
 というほどには、似ている。
 
「カニンガム公爵様、実は……」
「ぁあっ!」
「父上、なにをやらかしたんですかっ?」
 
 公爵が左手の甲で額を押さえ、ソファの背にもたれかかっていた。
 その公爵の右腕をハーヴィドが掴んでいる。
 
(なんというか……公爵というより公爵夫人みたい……)
 
 貴族の夫人や令嬢には、奇声を発して倒れる者もいると聞く。
 とはいえ、いつもなら公爵は威厳があるし、ハーヴィドも凛々しいのだ。
 こんなふうになるほど驚かせてしまったのが、なにやら申し訳なくなる。
 
 彼女、バーバラ・レドナーは、まだ14歳の少女。
 
 大人2人、しかも男性の慌てふためく姿を笑えるような大人の女性ではない。
 ハーヴィドは、父である公爵に問題があると考えているらしいし。
 
 肩にかかっている薄茶色のまっすぐな髪を、指でくるんと巻き取る。
 緑色の瞳に2人を映しつつ、あえて軽い口調で言った。
 これ以上、驚かせないようにとのバーバラなりの気配りだ。 
 
「驚かせて、ごめんね。お義父さま、お義兄さま。ちょっとご相談があって、それなら、ちゃんとしたほうがいいかなって思っただけなの」
 
 2人が、またもや同時に、ほうっと息をつく。
 およそ義理の父と兄は心配性に過ぎるところがあった。
 そんな2人に相談して大丈夫だろうか、と不安になる。
 だが、話さずにいるのも気がかりな内容なのだ。
 
「相談? かまわないよ、なんでも話してごらん」
 
 すっかり気を取り直したようで、義父が穏やかな口調になっていた。
 隣で義兄もうなずいている。
 
「前に、私の誕生日祝いの夜会を開いてもらって……私の……家族、も出席してたけど……来月の社交界デビューにも、来る、よね?」
 
 バーバラはレドナー伯爵家の三女だ、一応。
 けれど、数年に1度しか顔を合わせないレドナーの人たちが「家族」と言えるのかどうかで、いつも迷ってしまう。
 なんとも居心地が悪く、「家族」という言葉を使うことに抵抗を感じていた。
 
(伯爵邸に入ったこともないし、顔だって曖昧にしか覚えてないのに)
 
 16歳になるまでは、レドナーを名乗り続けなければならない。
 バーバラが家族だと思えずにいても。
 
「公爵邸で開かれる夜会に来ないわけないけど……」
 
 バーバラは、カニンガム公爵家次男ノヴァド・カニンガムの婚約者だ。
 生後半年で婚約関係が結ばれ、以来、カニンガム公爵家で暮らしている。
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