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11.苛々の元凶
しおりを挟む「お、落ち着き、なよ、ボビー……」
「だって、ノヴァ、夢になかったことなのよ?! なにが起きるかわからないじゃない! それに、3人でティータイムって……っ」
バーバラは、一睡もできず、朝になるやノヴァの私室を訪れている。
そして、室内をウロウロと歩き回っていた。
バーバラだって、朝からキーキー言いたくはない。
そもそもノヴァは、いつも睡眠不足なのだ。
本人は気にしていないようだが、バーバラは気にしている。
午睡を推奨しているし、間違っても朝から叩き起こしたりはしてこなかった。
ノヴァの目の下の隈を誰よりも心配している。
幼い時にだって、朝1番でノヴァを訪ねるのを控えていたほどだ。
なのに、今朝だけは自分を抑制し切れなかった。
ユリウス自ら、バーバラに接触してきたせいかもしれない。
3人での「ティータイム」に、言い知れない不安を感じている。
とにかく嫌なことが起きそうな気がするのだ。
(3人ってことは、お義父さまとお義兄さまの介入は許さないってことよね)
そこに意図がないわけがない。
ユリウスの真意がわからず、イライラする。
「王子殿下は、カニンガムを自分の支持派に引き入れたいんじゃないの? でも、ノヴァと私に、公爵家の主義を変える力はないわ。カニンガムは代々中立を守ってきた家門だし、お義父さまも私たちがなにか言ったところで変えるとは思えない」
「変える、必要がない、間は、ね」
ぐっと言葉に詰まった。
バーバラも否定的なことを言いつつ、内心では、そこを気にしている。
「落ち、着いて、ボビー」
ノヴァがソファから立ち上がり、バーバラに歩み寄ってきた。
その体に、バッと抱きつく。
伝わってくる鼓動に安心した。
「だ、大丈夫……大丈夫……」
ノヴァは、滅多に、ぎゅっとさせてくれないし、ぎゅっとしてくれない。
嫌なのではなく、照れてしまうようだ。
いつ頃からか、バーバラが抱きつこうとすると、手で制されるようになった。
女性として意識されているのは悪い気分ではなかったので、文句を言ったことはない。
けれど、取り乱しているバーバラの気持ちを思い、抱きしめてくれている。
恥ずかしいとか、照れるとか。
そういう感情は後回し。
ノヴァは優しいのだ。
「社交界デビューの日から2年間、私は変わってない。ノヴァが好きなまま……」
「うん……」
「婚約を解消したいとも言い出してない」
「そう、だね……」
バーバラはノヴァに言いながら、夢の中とは状況も違ってきているのだから、と自分に言い聞かせている。
夢を見始めた十歳の頃からだ。
日頃は意識していないのに、どこか足元がおぼつかない感覚。
「……心配、しなくて、いい、から……」
思い出したくはないが、思い出さずにもいられない。
ユリウスと恋に落ちることで、バーバラはノヴァとの婚約を解消している。
けれど、ノヴァは、繰り返し言っていた。
『あいつは、駄目だ。幸せに、なれ、ない』
そう言って、ノヴァは何度もバーバラを説得しようとし、失敗。
それでも諦めず、婚姻直前のバーバラを攫おうとして、失敗する。
結果、ノヴァはユリウスに捕まるのだ。
しかも、ノヴァを返す返さないで揉め、カニンガム公爵家は中立を破って、第1王子派となった。
だが、継承権争いでの勝者は第2王子ユリウス・ダナン。
カニンガム公爵家は政争で敗れることになる。
公爵家は領地の大半を失い衰退し、ノヴァも捕らえられたままだった。
その後、皇太子となったユリウスとバーバラは婚姻する。
夢は、そこで終わっていた。
現実のバーバラはユリウスに恋していない。
だとしても、ユリウスには関わりたくない。
(私の気持ちはノヴァにある。カニンガムが中立を崩す理由もない)
自分の心に自信はある。
ノヴァのことがなければ、カニンガムは中立でいられる。
そう思うのに、心配も不安もなくならない。
夢の状況とは異なっていても、重なっているところもあるのだ。
現に、ユリウスは来た。
王位継承権争いも起きている。
どこでどんなふうに重なるか、わからないのが怖い。
だから、これ以上、ユリウスと関わりたくはなかった。
最悪な状況を引き寄せてしまうとも限らないからだ。
夢の中のユリウスは、夢の中のバーバラにとって「いい人」だった。
けれど、昨日、会ったばかりの現実のユリウスが「いい人」なのかを、バーバラは判断できていない。
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