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母の願い、父の想い。
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時が過ぎ、彼と相対することができるようになっても自分がしてしまった事の大きさに押し潰されそうになる。
辻崎の家はボクと彼の既成事実を隠す事なく、そして不安定になってしまったボクを全面的にバックアップすると言い、ボクが落ち着くまでの間懇意にしているクリニックに部屋を用意してくれた。辻崎の家で過ごすこともできたけれど、Ω専用のクリニックの方が過ごしやすいだろうとの配慮からだった。
義母はΩであり、義父の執着は強過ぎて、Ω専用のクリニックであっても外出を許されず、その分ボクを気にかけてくれたのは茉希さんだった。
茉希さんは彼の許嫁で女性Ωで、当時は高校生だったものの制服を着ていなければ高校生とは思えないほどの艶やかさを持っていた。
隠し事は嫌いだからと自ら彼の婚約者だと名乗り、ボクを動揺させた。そして、告げた言葉。
「辻崎の家は〈婚約者〉と言ってもその身を守るための防具みたいなものなの。私の場合、気が強過ぎて敵を作りやすいから懲らしめてやろうって悪意から守るための〈婚約〉であって、それこそ愛だの恋だのなんて皆無なの。
だから、彼の話をちゃんと聞いて?
外からの余計な話、例えば婚約者のいるαに横恋慕したとか、邪魔をしたとか、そんな失礼な言葉は無視して。
そもそも、たまたま辻崎にαの彼がいたから婚約者の体をとってるだけで、彼がいなければ別のαを防具として用意しただけ。身内なら変に勘違いしないから手っ取り早いってだけのことで、辻崎の家のことを知っていれば当たり前のことなのよ」
長い長い話を終え、改めて茉希さんが苦笑いをする。「いっぺんに言われても困ってしまうかしら?」そう言いながらも満足そうだ。
理解できたような、理解できていないような…。ただ、わかった事は彼とは婚約しているけれど、彼のことが好きなわけではないらしい。
「本当はもっと具体的なこと、言えたら良いんだけど私から伝えると〈アイツ〉に恨まれるから。だから、調子のいい時でいいからアイツの話も聞いてあげて。
私は、貴方の味方だからね」
そう言って艶やかに笑った。
その言葉通り、ボクが調子が悪いと聞けば顔を出し、ボクの話を聞いて、ボクの不安を取り除いてくれる。
「あのヘタレ、まだちゃんと言ってないの?」
小さく呟いた言葉はきっと彼に対する言葉。その頃になればボクも茉希さんが何を言いたいのか理解してきたけれど、それを茉希さんに聞くと「それは、私の言うことじゃないからね」と綺麗な笑みを見せられる。
高位のΩである茉希さんは本当に綺麗で、小猿と言われていたボクはその容姿の違いに引け目を感じてしまう。
だけど、茉希さんがボクの様子を見に来てくれていたのにはもう一つ目的があったのだと知らされたのは随分後から。
「だって、肌だって綺麗だし、髪だって綺麗なのに何のお手入れもしてないなんて、勿体なくない?」
これは茉希さんの言葉。
肌に良い食事、髪に良い食事、肌に良いスキンケア、髪に良いシャンプー。
βの高校生男子として生きてきたボクにとっては触ったことのないような物ばかりで、使い方も使う意味もわからないまま〈気分転換〉と称して提供されたそれらは確かにその香りに癒され、その使用感に癒され。
そして気付けば外に出ることがなくなったせいもあり肌は白くなり、日に焼けた髪は黒く艶やかになっていた。
陸上の練習をしなくなってしまったせいで筋肉は落ち、身体を動かすことが減ったため食欲も減り、元々小猿のようだったボクは男にしては華奢な身体になってしまった。
これがΩという性になった事による変化だったのかもしれない。
そして、告げられる彼の気持ち。
そして、自覚する自分の気持ち。
静流を産んだ時に彼によく似ていたため、きっとαなのだろうと安心した。
光流を産んだ時に自分によく似ていたため、Ωなのだと不安を覚えた。
αだから、Ωだからどうこうではない。
ただ、αに比べでΩが生きにくいのは事実だ。これは自分がΩになって実感した事。
βとしての生活で当たり前だと思っていたことが当たり前ではない不便さ。いままで当たり前にできたことが出来なくなる苛立ち。
だから、光流には酷いかと思ったものの幼い頃からオメガとしての生活を強いたのは快適さを知った後で取り上げられる苦痛を知っていたから。
Ωとして育てず、強く逞しくなるよう育てていたら護君との関係も違ってきたのかもしれない。過保護にさせ過ぎず、もっと自由に過ごすことを教えていたらもっと強く強かになっていたかもしれない。
そんな事を思わず溢してしまったら「Ωは、名家のΩは少しの油断が命取りになるのだからこれで良かったのよ」と茉希さんに嗜められた。
「自由にさせていたら悪意を持つαに気付かないうちに番にされる可能性だってあるんだから、Ωは守って守って守られるべきなの。
特に光流みたいに弱く見えるΩなんて、格好の餌食よ?
貴方も、はじめからΩだったらきっと苦労してたはずよ」
さらに呆れられた。
「だからこそ、守られる事にも慣らしておかないといけなかったの。
貴方みたいに戸惑って、不安を感じさせないように。
光流は弱く見えるし、実際弱いけどこれから強くなるわよ?だって、最強のαを手に入れたんだから」
そう言って艶やかな笑みを溢す。
まだ会ったことのない紬君の何を知っているのかと不思議に思うけれど、ボクのように家に籠っていない茉希さんはすでに色々な情報を集めているのだろう。ただ、あの時のように「自分で会って、自分で見極めるのが大切よ?だけど、光流にとって最強のαよ?」とだけ教えてくれた。
茉希さんがそう言うのならきっと大丈夫なのだろう。
βとして子供時代を過ごしたボクから見て、光流の子供時代は我慢をさせてばかりだった事に罪悪感を持っていた。ボクがΩとして産んでしまったせいで、ボクがΩになってしまったせいで、そんな風に自分を責めることも多かった。
護君との婚約解消の時には頼られない事を淋しく感じ、傷付いた光流に会いに行けない事で独占欲の強すぎるボクのαを恨んだ。
そんな想いをボクの番である彼にぶつけた時に言われた言葉。
「君は、βとして育ってきた事で光流に負目を持っているけれど、それは光流には理解できない世界だからその言葉で光流が戸惑ってしまうかもしれない。頼りにならないんじゃないし、会わせないのはあのクリニックには訳ありのΩも沢山いるから君が引きずられる事を心配してのことだよ。君のことを囲ってしまったせいで、αだけでなく茉希以外のΩにも耐性がないだろう?
そして、茉希を呼んだのは優しい君は護の気持ちにも寄り添いたくなってしまうと思ったからだ。護のことだって、小学生の頃から知っているんだからな。
前提としてβとして育った君と、Ωとして育ててきた光流とは根本的な考え方が違うから今はそっとしておくほうがいいと思ったから。それは理解して欲しい。
だけど、家に帰ってきたら光流に寄り添うことができるのは母である君だけだと思ってる」
ゆっくりと言葉を選びながら伝えられた言葉は、取り方を間違えれば危うい言葉だったけれど、それでも子ども達を、そしてボクを気遣っての精一杯の言葉だということはちゃんと伝わった。
「光流は、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。
あれはああ見えて頑固だから自分の言うことを曲げないし。君に似てね」
そんな事はないと反論したいけど、βだった頃のボクは確かにそうだった。今はぬるま湯に浸かる毎日だから我を通すこともないけれど、Ωとして囲われていなければどんな人生を送っていたのだろうか。
そんな事を考えたのは彼には秘密。そんな風に考えたとバレただけで、実家への訪問すら制限されかねない。
ボクのαは大層嫉妬深い。
〈光流にとって最強のα〉そんな風に茉希さんに評価された紬君には2人がお付き合いをするとなった時に挨拶をしてもらう事になるのだけど、静流とも護君とも似ていなかったのが不思議だった。
ボクと似た容姿で、守られることが当たり前だと育てられた光流だけど、光流が選んだαは身近に居るどのαとも似ていなかったし…言ってしまえば異質だった。
αだけどαらしくない彼は、この先、どんな景色を光流に見せるのだろう?
守るためと早くから婚約者を決め、早くから〈守られる〉ことが当たり前だと思うよう育ててきたけれど、光流もまた茉希さんのように奔放な一面を持っていたのかもしれない。
ボクに似ている容姿のせいで守らなければと、危険なものから遠ざけなければと思い、囲うように育ててきたけれど、それは親のエゴだったのかもしれない。
「光流は…ボクによく似ているけれど、ボクとは違うんだね」
思わず呟いた言葉に彼が笑う。
「そう?
君だって、俺に囲われなければ自由に羽ばたいていたと思うけどね?
光流と君は順番が逆だっただけだよ。
でもごめん、俺は君のことを手放す事はできないから」
その言葉が嬉しいと思ってしまったのは…ボクのΩとしての性なのだろうか。
自由の味を知っているのに囲われたボクと、これから紬君と共に〈自由の味〉を満喫する事になるだろう光流。
どちらが幸せなのかはわからないけれど、少なくともボクは今、幸せだ。
そして、光流のこの先の人生も当然幸せなものとなるのだろう。
2人でとびきり幸せになってほしい、親としてそう願っている。
「光流が自由を知ったら…紬君は大変かもな」
そう言った彼は「俺には無理だ」とボクをギュッと抱きしめる。
子どもが成人してもなおボクのことを大切にしてくれる彼と、この先も歳を重ねていくボクはとても幸せなΩだ。
「でもね、ボクの幸せも自由も貴方と共にいることだから、光流も同じだと思うよ?
紬君がいることが前提の幸せと自由。
αとして、Ωがそんな風に思ってるなんて…、α冥利に尽きない?」
ボクのそれ以上の言葉は彼の唇に吸い込まれてしまう。
光流にはαを煽り過ぎないよう教えておこう、早急に。
翌朝、ボクはそんな風に反省するのだった…。
※〈恋心〉の主人公が光流なので光流の幸せを願う話になりましたが、もちろん静流の幸せも両親共に願っています。
ただ、静流は光流に比べて親に心配される事は少ないのでは無いかと思いますが…。
そのあたりは〈愛心〉の静流の話の時に触れることができればとも思ってます。
辻崎の家はボクと彼の既成事実を隠す事なく、そして不安定になってしまったボクを全面的にバックアップすると言い、ボクが落ち着くまでの間懇意にしているクリニックに部屋を用意してくれた。辻崎の家で過ごすこともできたけれど、Ω専用のクリニックの方が過ごしやすいだろうとの配慮からだった。
義母はΩであり、義父の執着は強過ぎて、Ω専用のクリニックであっても外出を許されず、その分ボクを気にかけてくれたのは茉希さんだった。
茉希さんは彼の許嫁で女性Ωで、当時は高校生だったものの制服を着ていなければ高校生とは思えないほどの艶やかさを持っていた。
隠し事は嫌いだからと自ら彼の婚約者だと名乗り、ボクを動揺させた。そして、告げた言葉。
「辻崎の家は〈婚約者〉と言ってもその身を守るための防具みたいなものなの。私の場合、気が強過ぎて敵を作りやすいから懲らしめてやろうって悪意から守るための〈婚約〉であって、それこそ愛だの恋だのなんて皆無なの。
だから、彼の話をちゃんと聞いて?
外からの余計な話、例えば婚約者のいるαに横恋慕したとか、邪魔をしたとか、そんな失礼な言葉は無視して。
そもそも、たまたま辻崎にαの彼がいたから婚約者の体をとってるだけで、彼がいなければ別のαを防具として用意しただけ。身内なら変に勘違いしないから手っ取り早いってだけのことで、辻崎の家のことを知っていれば当たり前のことなのよ」
長い長い話を終え、改めて茉希さんが苦笑いをする。「いっぺんに言われても困ってしまうかしら?」そう言いながらも満足そうだ。
理解できたような、理解できていないような…。ただ、わかった事は彼とは婚約しているけれど、彼のことが好きなわけではないらしい。
「本当はもっと具体的なこと、言えたら良いんだけど私から伝えると〈アイツ〉に恨まれるから。だから、調子のいい時でいいからアイツの話も聞いてあげて。
私は、貴方の味方だからね」
そう言って艶やかに笑った。
その言葉通り、ボクが調子が悪いと聞けば顔を出し、ボクの話を聞いて、ボクの不安を取り除いてくれる。
「あのヘタレ、まだちゃんと言ってないの?」
小さく呟いた言葉はきっと彼に対する言葉。その頃になればボクも茉希さんが何を言いたいのか理解してきたけれど、それを茉希さんに聞くと「それは、私の言うことじゃないからね」と綺麗な笑みを見せられる。
高位のΩである茉希さんは本当に綺麗で、小猿と言われていたボクはその容姿の違いに引け目を感じてしまう。
だけど、茉希さんがボクの様子を見に来てくれていたのにはもう一つ目的があったのだと知らされたのは随分後から。
「だって、肌だって綺麗だし、髪だって綺麗なのに何のお手入れもしてないなんて、勿体なくない?」
これは茉希さんの言葉。
肌に良い食事、髪に良い食事、肌に良いスキンケア、髪に良いシャンプー。
βの高校生男子として生きてきたボクにとっては触ったことのないような物ばかりで、使い方も使う意味もわからないまま〈気分転換〉と称して提供されたそれらは確かにその香りに癒され、その使用感に癒され。
そして気付けば外に出ることがなくなったせいもあり肌は白くなり、日に焼けた髪は黒く艶やかになっていた。
陸上の練習をしなくなってしまったせいで筋肉は落ち、身体を動かすことが減ったため食欲も減り、元々小猿のようだったボクは男にしては華奢な身体になってしまった。
これがΩという性になった事による変化だったのかもしれない。
そして、告げられる彼の気持ち。
そして、自覚する自分の気持ち。
静流を産んだ時に彼によく似ていたため、きっとαなのだろうと安心した。
光流を産んだ時に自分によく似ていたため、Ωなのだと不安を覚えた。
αだから、Ωだからどうこうではない。
ただ、αに比べでΩが生きにくいのは事実だ。これは自分がΩになって実感した事。
βとしての生活で当たり前だと思っていたことが当たり前ではない不便さ。いままで当たり前にできたことが出来なくなる苛立ち。
だから、光流には酷いかと思ったものの幼い頃からオメガとしての生活を強いたのは快適さを知った後で取り上げられる苦痛を知っていたから。
Ωとして育てず、強く逞しくなるよう育てていたら護君との関係も違ってきたのかもしれない。過保護にさせ過ぎず、もっと自由に過ごすことを教えていたらもっと強く強かになっていたかもしれない。
そんな事を思わず溢してしまったら「Ωは、名家のΩは少しの油断が命取りになるのだからこれで良かったのよ」と茉希さんに嗜められた。
「自由にさせていたら悪意を持つαに気付かないうちに番にされる可能性だってあるんだから、Ωは守って守って守られるべきなの。
特に光流みたいに弱く見えるΩなんて、格好の餌食よ?
貴方も、はじめからΩだったらきっと苦労してたはずよ」
さらに呆れられた。
「だからこそ、守られる事にも慣らしておかないといけなかったの。
貴方みたいに戸惑って、不安を感じさせないように。
光流は弱く見えるし、実際弱いけどこれから強くなるわよ?だって、最強のαを手に入れたんだから」
そう言って艶やかな笑みを溢す。
まだ会ったことのない紬君の何を知っているのかと不思議に思うけれど、ボクのように家に籠っていない茉希さんはすでに色々な情報を集めているのだろう。ただ、あの時のように「自分で会って、自分で見極めるのが大切よ?だけど、光流にとって最強のαよ?」とだけ教えてくれた。
茉希さんがそう言うのならきっと大丈夫なのだろう。
βとして子供時代を過ごしたボクから見て、光流の子供時代は我慢をさせてばかりだった事に罪悪感を持っていた。ボクがΩとして産んでしまったせいで、ボクがΩになってしまったせいで、そんな風に自分を責めることも多かった。
護君との婚約解消の時には頼られない事を淋しく感じ、傷付いた光流に会いに行けない事で独占欲の強すぎるボクのαを恨んだ。
そんな想いをボクの番である彼にぶつけた時に言われた言葉。
「君は、βとして育ってきた事で光流に負目を持っているけれど、それは光流には理解できない世界だからその言葉で光流が戸惑ってしまうかもしれない。頼りにならないんじゃないし、会わせないのはあのクリニックには訳ありのΩも沢山いるから君が引きずられる事を心配してのことだよ。君のことを囲ってしまったせいで、αだけでなく茉希以外のΩにも耐性がないだろう?
そして、茉希を呼んだのは優しい君は護の気持ちにも寄り添いたくなってしまうと思ったからだ。護のことだって、小学生の頃から知っているんだからな。
前提としてβとして育った君と、Ωとして育ててきた光流とは根本的な考え方が違うから今はそっとしておくほうがいいと思ったから。それは理解して欲しい。
だけど、家に帰ってきたら光流に寄り添うことができるのは母である君だけだと思ってる」
ゆっくりと言葉を選びながら伝えられた言葉は、取り方を間違えれば危うい言葉だったけれど、それでも子ども達を、そしてボクを気遣っての精一杯の言葉だということはちゃんと伝わった。
「光流は、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。
あれはああ見えて頑固だから自分の言うことを曲げないし。君に似てね」
そんな事はないと反論したいけど、βだった頃のボクは確かにそうだった。今はぬるま湯に浸かる毎日だから我を通すこともないけれど、Ωとして囲われていなければどんな人生を送っていたのだろうか。
そんな事を考えたのは彼には秘密。そんな風に考えたとバレただけで、実家への訪問すら制限されかねない。
ボクのαは大層嫉妬深い。
〈光流にとって最強のα〉そんな風に茉希さんに評価された紬君には2人がお付き合いをするとなった時に挨拶をしてもらう事になるのだけど、静流とも護君とも似ていなかったのが不思議だった。
ボクと似た容姿で、守られることが当たり前だと育てられた光流だけど、光流が選んだαは身近に居るどのαとも似ていなかったし…言ってしまえば異質だった。
αだけどαらしくない彼は、この先、どんな景色を光流に見せるのだろう?
守るためと早くから婚約者を決め、早くから〈守られる〉ことが当たり前だと思うよう育ててきたけれど、光流もまた茉希さんのように奔放な一面を持っていたのかもしれない。
ボクに似ている容姿のせいで守らなければと、危険なものから遠ざけなければと思い、囲うように育ててきたけれど、それは親のエゴだったのかもしれない。
「光流は…ボクによく似ているけれど、ボクとは違うんだね」
思わず呟いた言葉に彼が笑う。
「そう?
君だって、俺に囲われなければ自由に羽ばたいていたと思うけどね?
光流と君は順番が逆だっただけだよ。
でもごめん、俺は君のことを手放す事はできないから」
その言葉が嬉しいと思ってしまったのは…ボクのΩとしての性なのだろうか。
自由の味を知っているのに囲われたボクと、これから紬君と共に〈自由の味〉を満喫する事になるだろう光流。
どちらが幸せなのかはわからないけれど、少なくともボクは今、幸せだ。
そして、光流のこの先の人生も当然幸せなものとなるのだろう。
2人でとびきり幸せになってほしい、親としてそう願っている。
「光流が自由を知ったら…紬君は大変かもな」
そう言った彼は「俺には無理だ」とボクをギュッと抱きしめる。
子どもが成人してもなおボクのことを大切にしてくれる彼と、この先も歳を重ねていくボクはとても幸せなΩだ。
「でもね、ボクの幸せも自由も貴方と共にいることだから、光流も同じだと思うよ?
紬君がいることが前提の幸せと自由。
αとして、Ωがそんな風に思ってるなんて…、α冥利に尽きない?」
ボクのそれ以上の言葉は彼の唇に吸い込まれてしまう。
光流にはαを煽り過ぎないよう教えておこう、早急に。
翌朝、ボクはそんな風に反省するのだった…。
※〈恋心〉の主人公が光流なので光流の幸せを願う話になりましたが、もちろん静流の幸せも両親共に願っています。
ただ、静流は光流に比べて親に心配される事は少ないのでは無いかと思いますが…。
そのあたりは〈愛心〉の静流の話の時に触れることができればとも思ってます。
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