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sleeping beauty〈紬side〉

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 食事を終え、仮眠の必要があるので24時間使用できるトイレで歯磨きをするために車から降りる。真冬の寒さは身に染みるが今日の俺にはなんて事ない。山間部にある道の駅だが、今日は雪の心配はなさそうだ。

 トイレに入ると暖房が効いていてホッとする。車からここまでの移動でも相当冷えていたようだ。心の温かさと身体の暖かさは別らしい。車中泊を認めているだけあって男子用のトイレでも洗面ボウルの数が多く気兼ねなく歯を磨くことができる。
 清掃も日に何度も行うのだろう。歯磨きするのに躊躇う事はない。
 流石にシャワーは無いのでうがいついでに顔も洗うが、広いトイレ内には自分と同じように車中泊するのだろうと思われる人もいる。変なところで車中泊すると通報されることもあるのでこう言った道の駅の存在はありがたい。いつもならもっと頻繁に道の駅に寄り、その場所の特産品を見るのも楽しみの一つなのだが今日はすっかり忘れていた。道の駅にある地元の人の作った民芸品には地元で作った布を使っていることもあるためフィールドワークの参考にもなるのに、寄るのを忘れてしまっては下道で移動する意味半減だ。

 ここの道の駅もこの地域のハブステーションとして近隣の名産品などを紹介スペースが併設されており、そこを見るのも楽しみの一つなのだが今日はもう閉まっている。ガラス越しに見えるスペースには布を使った民芸品も置いてあり興味をそそられる。昨今、どこの道の駅に行っても置いてある〈吊るし雛〉のような飾りはここでも健在だ。興味があるのは吊るし雛ではなく使われている布だが可愛らしいモチーフを見るのは嫌いでは無い。

 と言いつつも流石に寒さが応えて来たので車に戻りエンジンをかける。この季節はエンジンを切ってしまうと一気に車内が冷えるため寝るまでの間はしっかりエアコンで温めておく。仮眠するときはポータプル電源を使って電気毛布で暖を取る。エンジンをかけっぱなしにするのは騒音問題もあるし、万が一マフラーが塞がれれば翌朝目が覚めない可能性もあるのだ…。しっかり車中泊の時は寝袋を使う時もあるが、今日は電気毛布を使って1~2時間仮眠する予定だ。スマホの充電も少なくなっていたためついでに充電器に刺す。これでメッセージが受け取れないと言うこともないだろう。

 車がいい具合に温まったところでエンジンを切り、電気毛布を被る。山の気温は低いので温度も少し高めに設定する。眠いような眠く無いような、そんな頭で〈sleeping beauty project〉を少し検索してみる。思った以上にちゃんとした研究機関らしく、そもそもの趣旨、発足の理由、そしてその理念。
 最初に名付の理由として通常のΩのヒートと違い、3大欲求の内の〈睡眠欲〉が強く出る事によりヒートの間中眠り続けるため〈sleeping beauty〉眠り姫と名付けたとある。同じように〈食欲〉が強く出る場合もあるようだが、ヒートの前に食欲が増すΩは居ても彼が眠り続けるように〈食べ続ける〉と言う症例はまだ見つかっていないとのことだ。
 ヒートの最中眠ったままになる…下世話な想像だが彼、光流に触れたことのあるαはまだいないのかもしれない。高校生の時に婚約解消をして、その後は縁談などの話があっても断り続けているとも言っていた。
 色々と想像したくなるが仮眠が取れなくなると困るので2時間後に鳴るようタイマーをセットしてスマホを閉じる。電気毛布も程よく温まって来たのでこのまま眠ってしまおう。
 まだ半分ほど道程があるのだ。

 残念ながら、俺が起きている間に彼からの返信は無かった。
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