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メッセージ〈紬side〉

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 色々と気になる事はあるが、明日からの予定に備えて出発をしないといけない事実は変えようがない。
 仕方なく車を出す。
 いつもなら楽しいはずの運転も今日は面倒だと思ってしまう。それでも先ほどの彼、〈姫〉のことを思い出すと心がが浮かれる。

 それにしても薄々は思っていたけれど、彼がΩだった事を確認できたのは嬉しい誤算だ。
〈sleeping beauty project〉のことも調べてみよう。
 彼は連絡をくれるだろうか?

 フィールドワークに行く前から早く帰りたいと思ってしまう自分に呆れる。ほんの1時間一緒に、しかも数人いた中の1人として接した相手にここまで心を乱されるなんておかしいと思うものの、悪くない気分だ。

 それにしてもΩだと確認できたが、あの時に全くフェロモンを感じなかったのには違和感を感じた。話を聞く限り番がいるわけでもない。もしかして抑制剤を飲んでいたのだろうか?

 自分自身もフィールドワークで色々な場所に行く必要があるため抑制剤は必須だ。特に今日のようにフィールドワークに出る時には予め抑制剤を服用している。面倒ごとに巻き込まれる前に予防する事は大切な事だ。
 αもΩも望まない番い関係を結ぶ事ほど悲惨な事はない。

 運転をしながらもついつい彼のことを考えている自分に呆れるが、それでも悪い気分ではない。いつもなら道中はフィールドワークに向かう期待感や興奮でアドレナリンが出まくるのだが、今回は気持ちの高揚感の種類が違う。

 考え事をしつつ運転していたせいか、気付けば道程の半分ほどまで来ていたので休憩を取ることにする。食事をして少し仮眠も取りたい。あらかじめ調べておいた車中泊の出来る道の駅に向かう前に食事のできそうなところを探すが開いている店が見当たらない。
 時間を見ると21時、ファミレスくらいしか開いていないがあいにくファミレスも見当たらない。仕方なくコンビニで適当に食べたいものを買って道の駅に向かう。
 いつもなら食事を忘れることなどないのに…重症かもしれない。

 道の駅に着いた頃には22時を過ぎていた。
 コンビニで買った温かいお茶を飲みつつおにぎりを食べる。弁当を買って箸を使って食べるのが面倒なためおにぎりとサンドイッチ、レジ横にある揚げ物がこんな時の定番だ。一応、身体のことを考えてサンドイッチは野菜の入ったものにしている。

 行儀は悪いが食事をしながらスマホを開き諸々のチェックをする。運転中はドライブモードにしてあるため着信やメッセージの確認をし、必要なものには返信をしていく。
 そんな中、ひとつのメッセージを見つけて手が止まる。

 果物と生クリームがたっぷりのパンケーキのアイコン。アイコンの隣には〈みつる〉と平仮名で書かれている。
 見たことのないアイコンに〈まさかな?〉と思い開いてみる。

〈こんばんは。
 昼間お世話になった光流です。
 今日はありがとうございました〉

 メッセージを何度も読み返す。
 昼間お世話をしていてメッセージを送ってくる相手と言ったら彼しかいない。
 その事実に気付いたら顔のニヤニヤが止まらなくなってしまった。
〈光流〉と書いて〈みつる〉と読むのか。
 って言うか、名前呼ぶと威嚇されるとか言ってたけど…名前教えて大丈夫なのか?
 余計な心配をしてしまう。
 初対面の相手にメッセージを送り、なおかつ名前まで教えてしまうなんて危機感が無さすぎる!と少しイラッとするものの、よく考えれば〈みつる〉と登録していれば相手には何をしても名前はバレているのである。

 そして、別の可能性に気づいた。
 俺の名前を〈紬〉だと思っているのだろうか…?
 俺のアイコンの横を見れば〈ゆいと〉と書いてあるのだが…。紬結斗が俺の名前だ。紬と名乗っただけなので間違えている可能性が大きい。訂正した方がいいのか?とも思ったが、それを告げた時の彼の表情を見てみたいと思ってしまった。悪趣味かとも思わないでもないが、好きな子には意地悪したくなるものだ。

 そう、好きなのだ…多分。
 いや、絶対…。

〈こんばんは。
 こちらこそ、今日はありがとう。
 ボクは今、明日からお世話になる工房に向かっていることろです。
 おやすみなさい〉

 がっついてはいけないと思い、それだけ返した。彼の前で咄嗟に〈ボク〉と言ってしまったため一人称は当然〈ボク〉だ。柄でもないが、少しでも心象を良くしたいと言う気持ちは変わらない。
 メッセージも返信を必要としないようになるべくシンプルに。それでも〈俺〉が印象に残るように。

 本当は彼からの〈おやすみなさい〉が欲しかったが、まだそれは早いと自分に言い聞かせる。だけど、返信を期待しつつ食事を続ける。彼、光流からのメッセージに浮かれている自分に気づき我ながら苦笑いする。

 俺、高校生みたいだ…。
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