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僕の日常

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 時間は日々過ぎていく。
 のだけど、時間が過ぎるのが遅過ぎてもどかしい。

 紬さんは無事にフィールドワークを終えてこちらに帰ってきている。
 朝と夜のメッセージはもちろん続いているし、ゲリラ的に電話がかかってきたりもする。と言っても本当に一言二言。朝の挨拶だったり、眠る前の挨拶だったり。
 道の駅から〈疲れたから元気出るように声聞かせて〉と電話が来た時にはもう…僕の経験値では対応できず、電話の向こうで〈焦り過ぎ〉と爆笑された。何だか悔しい。

 行く先々の道の駅からは写真付きのメッセージが送られてきた。布を使った民芸品だったり、その道の駅の名物だったり。
 甘い物が好きなのか、ソフトクリームの写真もよく送られてきた。
〈美味しそう〉
 思わず送ったメッセージ。
 道の駅なんて行った事がないから未知の世界だ。
〈今度、一緒に行く?〉
〈行きたいです〉
 返した言葉に〈了解〉と送られてくるスタンプ。
 何気ないやり取りだけど、悩んだり我慢したりしなくなった。必要以上に遠慮もしないようにしている。
 気持ちも素直に伝える事ができていると思う。

 静流君に会うのは紬さんが帰って来た週の土曜日に決めてある。
 本当にあと数日だ。
 静流君抜きで会う事だって出来るのだろうけど、そこはやっぱりちゃんとしたい。
 そして、当日は夜に会食をと思っていたけれど、静流君の希望でランチを一緒にということになった。
「まだお泊まりとか許さないよ?」
 と言われてキョトンとしてしまうと〈まぁ、光流だもんな〉と呆れられた。
 夜に会う=お泊まりだなんて考えてもなかったのに…静流君は大人だ。
「まぁ、それは冗談だとして夜だと飲んだりしたら2人でゆっくり出来ないよ?
 ランチならその後で2人で過ごす時間、作れるでしょ?」
 と教えられた。
〈兄の気遣い〉らしい。

 静流君とは朝食の席で顔を合わせるものの、特に何かを言われるでもなく。日にちを決めてからは紬さんの話題も特には出ていない。
 
 昼間僕が何をしてるのかとか、共通の知り合いの話題とか。
 そう言えば賢志から連絡がきたから紬さんと会う事は一応伝えておいた。
〈静兄だけ狡い〉と静流君に連絡がきたみたいだけどスルーしたと言っていた。僕の方にも何やら連絡がきていたけれど…もちろんスルーだ。
 紬さんと会いたいなら日を改めてセッティングするのに何が狡いんだろう?

 そして、目下の僕の悩みである就職。
 早い人はもう始めていると前に永井さんが言っていた。彼女も4年になると何かと忙しいから3年生の内に何とか紬さんと、と頑張ってくれたのだ。
 周りのみんなはどうやって将来の進路を決めているのだろう?
〈友達〉のいないことに不自由さを感じる日が来るなんて思ってもみなかった。

 与えられた環境が全てではないのだとやっと気づいた自分に恥ずかしさを感じたけれど、悪くない気分だ。

 僕の世界を広げていくのはまだ遅くないはずだ。
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