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荒野に生きる青年ウォルター

第3話 暗雲

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 翌朝から僕達は戦いに備えて準備に取り掛かった。
 銃のメンテナンスを皮切りに弾の補充、火炎瓶の作成や籠城に備えて食料と医薬品も確保した。

 加えていつ襲撃してくるのか分からないので必ず2人以上で行動するようしたのだが、ウィリアムだけは自分1人で十分だと言い張っていた。
 しかし、父が互いの安全を確保する為だと説得してようやく納得させたのだったが、僕は兄の向こう見ずな性格が悪い方へ転ばないか心配していた。

 唯でさえ向こうの人数が分からない以上、こっちが隙を見せる訳にはいかないからだ。

 そんな状況であっても、寧ろそんな状況だからなのかビリーは益々牛の世話や買い出しにも積極的に参加した。

 父と兄は使い込んだ銃を分解し、細部にまで入念にガンオイルを塗っている。
 銃は夏の日射しを反射させて鈍い光を放っていたが、2人の顔はそれよりもギラついているように見えた。

 皆荒野で生きる事を選択した者達なのだ。あらゆる逆境は人生において困難だが、越えていかなければならない壁である。
 父に教わった言葉が胸を過っていく。
 本当にそうだ、そうなんだね。
 僕は家族の姿を眺めながら井戸の水を樽一杯になるまで運んだ。

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 あれから3日経ったが本格的な襲撃は受けていない。
 父と兄が牛の放牧中に茂みから様子を窺う連中を見たそうだが、ウィリアムがライフルを数発撃ち込むと向こうは撃ち返さずに逃げていったらしい。

 2回に渡って奴等の出鼻を挫いた事でウィリアムはすっかりご満悦になり、相手は取るに足らない者だと考え始めていた。
 本当にそうなのだろうか?

 僕は言い様のない悪い予感を感じていたが、夕暮れが過ぎた頃にはその不安が現実となってしまう事を、この時は知る由もなかった。

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 その日の午後も父と兄は放牧の為に荒野へ出ていた。
 僕と弟のビリーは家で家事をしながら2人の帰りを待っていたのだが、厩舎から聞こえてくる牛達の鳴き声がいつもと明らかに違う事に気付いた。

 妙な胸騒ぎを覚えた僕はビリーに家の中に居るように指示するとライフルを持って駆け出した。

 外へ飛び出すと嫌な予感は確信に変わった。
 周囲には木材が焼ける臭いが漂っており、厩舎の方では複数の黒煙が立ち昇っているのが見えた。

 僕は苛立ちを噛み締めながらライフルの弾丸を薬室に送り、厩舎への道を最短距離で走った。既に遠目からでも炎が大きくなっているのが分かる。

 焦る気持ちを抑えながら走っていると、火達磨になってパニックを起こした牛が悲痛な声を挙げながら厩舎から焼け出される様子、そして笑いながらそれを撃ち殺している男達が視界に入った。

 途端に腹部から真黒な沫が噴き出すような感覚に襲われた。
 今にも体から黒い炎が湧き上がるような衝動をぶつけるように、即座にその中の1人に ライフルを撃ち込んだ。

 弾は男の右肩に命中して持っていた銃を落としたが、これを合図に残りの2人がこちらに気付いて銃撃戦が始まった。

 僕は咄嗟に脇にある納屋へ飛び込むと、扉の陰にぴたりと体を寄せて応戦する構えを取った。

 飛び交う銃弾によって周囲の木枠には穴が開き、土塀に撃ち込まれた所からは砂煙が上がっている。暫く距離を取って撃ち合っていると向こうから声が聞こえてきた。

『おい!思ったよりやるじゃねぇか!
 でもいいのか?お前の可愛い弟とお家が大変だぜ!?』

 家の方を振り替えると2階の窓から火の手が上がっている事にようやく気付いた。
 それどころか、後ろ手に縛られたビリーが男達によって馬に乗せられようとしている!
 僕はビリーに向かって走り出そうとしたが、即座に銃撃を受けて頭を上げる事すらできない。

『おやおや、何処へ行こうってんだ?
 お前は亀みてぇに頭を引っ込めるしかできねぇなぁ!』

 銃弾が頭を掠めていく中で僕は有らん限りの声で弟の名を叫んでいた。
 ビリーも僕を名を呼びながら必死に抵抗していたが、男の1人に銃床で顔を殴られて気を失ってしまったようだ。

 男達はぐったりとしたビリーを乱雑に馬へ乗せると砂埃を上げて走り去っていった。いつの間にか厩舎に居た奴等も行ってしまったらしい。

 炎は手のつけられない勢いで全てを飲み込み、僕はその中で呆然と立ち尽くすしかなかった。
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