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三月。収友が通う中学校の桜の木には、緑がかった大きなつぼみたちがその花びらを開かせる準備に追われていた。
校舎の周りでは卒業式を終えた卒業生と在校生たちが賑やかにはしゃいでいる姿があった。
「二賀斗! お前には最後の最後まで度肝を抜かされたよ。まさかG県くんだりまで行くとはなぁ。こう言っちゃなんだけど、他の奴らは忘れても多分お前だけは記憶に残るんだろうな。向こうに行っても元気でやれよ!」
担任の教師が励ますように収友の肩を叩いた。
「はい。……先生、お世話になりました」
「二賀斗くーん!」
女子生徒数人が収友の周りに集まってくると、取り囲んで尋問し始めた。
「ねーねー、やっぱりむこうに行っちゃうの?」
「ねェ、合格したの? ダメだったら行かないんでしょ? あっちに」
「あ―……。ええっと……合格発表はまだなんだけど、別に合格しなくっても向こうには行くつもりなんだ。うん」
うつむき加減で収友は答える。
「エーッ! もう会えなくなっちゃうのオッ!」
女子たちが色めき出したすき間を縫って八城が顔を出す。
「アールッ! おっ前ってほんっとーにすげェなあ。G県なんかに何しに行くんだよ。そんなにすごい高校なん?」
「んん? いや、別にそういうわけじゃ……」
「ちょっとオッ、八城ジャマッ!」
「なな、なんだよ、俺だってアールに話がァ……」
八城は女子の輪から放り出されると、他の女子も加わって収友がもみくちゃにされている姿を目の当たりにする。
「み、みんなァ! ち、ちょっとまって、ちょっとオ―――ッ」
収友の悲鳴をよそに、八城は立ち上がると、尻もちをついたズボンのホコリを手で払って遠巻きに女子の輪を見つめる。
「……すごいね。ちょっと待ってよっか」
八城がその声に後ろを振り返ると、おとなしめの女子たちが同じく遠巻きにその様子を見守っていた。
溜め息をついて八城は一言、漏らす。
「ライオンが食い終わるのをハイエナが待ってるってか。なんつうか……野生の世界の厳しさを思い知ったよ。骨も残らねえんだろうけど、成仏しろよ。アール」
「ちょっ……助けろよ―――っ! ヤッシ―――ッ」
卒業式から一週間後、収友はG県に向かう新幹線乗り場の改札口にいた。
「明日夏おばさんには連絡しておいた。向こうに行ったらお前の保護者は明日夏おばさんになるんだから、おばさんの話をよく聞くんだぞ」
陽生が口うるさく収友に話しかける。
「うん。わかってるよ」
「お兄ちゃん、元気でね。たまに帰ってきてよッ」
結愛は淋しそうな顔をしながらも、必死に口元を上げていた。
「うん。……じゃあ、行くね」
背を向ける収友の姿を目に映し、陽生は堪らず声を投げかけた。
「しゅうと!」
収友はゆっくりと振り返る。
「……明日夏おばさんのこと、よろしく頼むな」
収友は優しく微笑むと、改札口に進んでいく。そして、その姿も見えなくなった。
「はぁ―――あ。あんなお兄ちゃんでもいなくなると……寂しいね」
結愛は後ろ手にしながら溜め息をついた。
「そうだな。……淋しく、なるな。おばさんも収友もいなくなって、ママも夜勤があるし。……二人きりになっちゃったな」
陽生も同じように溜め息をつく。
「パパはいるんだから私は別に平気よ! それよりパパぁ。なんかおいしーもの食べに行こーよォ。せっかくここまで来たんだからさぁ」
結愛は陽生の手を引っ張ると、何事も無かったかのように歩き出した。
「あ、ああ。わかった、わかったからそんなに引っ張るなよぉ」
陽生は結愛に引っ張られながらも、改札口の方を名残惜しそうに見つめた。
校舎の周りでは卒業式を終えた卒業生と在校生たちが賑やかにはしゃいでいる姿があった。
「二賀斗! お前には最後の最後まで度肝を抜かされたよ。まさかG県くんだりまで行くとはなぁ。こう言っちゃなんだけど、他の奴らは忘れても多分お前だけは記憶に残るんだろうな。向こうに行っても元気でやれよ!」
担任の教師が励ますように収友の肩を叩いた。
「はい。……先生、お世話になりました」
「二賀斗くーん!」
女子生徒数人が収友の周りに集まってくると、取り囲んで尋問し始めた。
「ねーねー、やっぱりむこうに行っちゃうの?」
「ねェ、合格したの? ダメだったら行かないんでしょ? あっちに」
「あ―……。ええっと……合格発表はまだなんだけど、別に合格しなくっても向こうには行くつもりなんだ。うん」
うつむき加減で収友は答える。
「エーッ! もう会えなくなっちゃうのオッ!」
女子たちが色めき出したすき間を縫って八城が顔を出す。
「アールッ! おっ前ってほんっとーにすげェなあ。G県なんかに何しに行くんだよ。そんなにすごい高校なん?」
「んん? いや、別にそういうわけじゃ……」
「ちょっとオッ、八城ジャマッ!」
「なな、なんだよ、俺だってアールに話がァ……」
八城は女子の輪から放り出されると、他の女子も加わって収友がもみくちゃにされている姿を目の当たりにする。
「み、みんなァ! ち、ちょっとまって、ちょっとオ―――ッ」
収友の悲鳴をよそに、八城は立ち上がると、尻もちをついたズボンのホコリを手で払って遠巻きに女子の輪を見つめる。
「……すごいね。ちょっと待ってよっか」
八城がその声に後ろを振り返ると、おとなしめの女子たちが同じく遠巻きにその様子を見守っていた。
溜め息をついて八城は一言、漏らす。
「ライオンが食い終わるのをハイエナが待ってるってか。なんつうか……野生の世界の厳しさを思い知ったよ。骨も残らねえんだろうけど、成仏しろよ。アール」
「ちょっ……助けろよ―――っ! ヤッシ―――ッ」
卒業式から一週間後、収友はG県に向かう新幹線乗り場の改札口にいた。
「明日夏おばさんには連絡しておいた。向こうに行ったらお前の保護者は明日夏おばさんになるんだから、おばさんの話をよく聞くんだぞ」
陽生が口うるさく収友に話しかける。
「うん。わかってるよ」
「お兄ちゃん、元気でね。たまに帰ってきてよッ」
結愛は淋しそうな顔をしながらも、必死に口元を上げていた。
「うん。……じゃあ、行くね」
背を向ける収友の姿を目に映し、陽生は堪らず声を投げかけた。
「しゅうと!」
収友はゆっくりと振り返る。
「……明日夏おばさんのこと、よろしく頼むな」
収友は優しく微笑むと、改札口に進んでいく。そして、その姿も見えなくなった。
「はぁ―――あ。あんなお兄ちゃんでもいなくなると……寂しいね」
結愛は後ろ手にしながら溜め息をついた。
「そうだな。……淋しく、なるな。おばさんも収友もいなくなって、ママも夜勤があるし。……二人きりになっちゃったな」
陽生も同じように溜め息をつく。
「パパはいるんだから私は別に平気よ! それよりパパぁ。なんかおいしーもの食べに行こーよォ。せっかくここまで来たんだからさぁ」
結愛は陽生の手を引っ張ると、何事も無かったかのように歩き出した。
「あ、ああ。わかった、わかったからそんなに引っ張るなよぉ」
陽生は結愛に引っ張られながらも、改札口の方を名残惜しそうに見つめた。
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