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結愛が部屋に閉じこもってから二カ月が過ぎたある日の夕方。
「さーってと、夕飯でもつくるかぁ」
陽生がキッチンで背伸びをしていると、目の前に突然、結愛が現れた。
「おわッ。ビックリした――。な、なに。……腹ぁ減ったの?」
結愛は穏やかな表情をすると、陽生に話しかける。
「パパ。……話したいことがあるの」
「お、おう」
二人はダイニングテーブルに向かい合って座った。
「私ね、あの日からずっと部屋に閉じこもって本を読んでたの」
「……そっか」
「あの日、私はお兄ちゃんの心に触れた。……お兄ちゃん、こんな小さい頃から今までずっとずっとこの世界の事を想っていた。小さな、か細い心で必死になって世界と戦っていたわ。……私、お兄ちゃんを苦しめたこの世界を知りたかった。どんな構造をしているのか。どんなことが起こっていて、どんな問題があるのかっていうのを見て、読んで、そして必死に考えた」
「何か……わかったのかい」
陽生は頬を緩ませながら尋ねた。結愛は真っ直ぐに陽生を見つめると、これまで一度も見せたことのないしっかりとした口調で答えた。
「飢餓よ。有り余る食料が捨てられている一方で、飢餓に苦しんでいる国がある。飢餓が対立を生み、貧困を育てる。弱いものがさらに弱く、罪のない子供たちが生贄にされる。食料を生産するために森が焼かれ、そこに住む野生動物が殺されてゆく。私は……この飢餓と闘う!」
結愛の言葉に陽生の口元が一層緩んだ。
「……そうか。……良かったよ、結愛の進むべき道が決まって」
「パパ。私、学校を辞めるわ。そして年が明けたらこの家を出て渡米する」
「ええッ? そ、それはちょっと……」
結愛の目つきが勇ましく変わる。
「私にはもう学歴なんて必要ない。すでに戦いは始まっているの。この絶対的に不利な状況を、私は一刻も早く好転させなきゃならない。……時間は、無いわ」
陽生はうつむくと二、三度首を縦に振った。
「宿命、だもんな。……たださ、身体だけは……大事にしてくれよ」
「……うん」
そうして結愛は翌日、陽生とともに登校すると、学園に退学届を提出した。
「さーってと、夕飯でもつくるかぁ」
陽生がキッチンで背伸びをしていると、目の前に突然、結愛が現れた。
「おわッ。ビックリした――。な、なに。……腹ぁ減ったの?」
結愛は穏やかな表情をすると、陽生に話しかける。
「パパ。……話したいことがあるの」
「お、おう」
二人はダイニングテーブルに向かい合って座った。
「私ね、あの日からずっと部屋に閉じこもって本を読んでたの」
「……そっか」
「あの日、私はお兄ちゃんの心に触れた。……お兄ちゃん、こんな小さい頃から今までずっとずっとこの世界の事を想っていた。小さな、か細い心で必死になって世界と戦っていたわ。……私、お兄ちゃんを苦しめたこの世界を知りたかった。どんな構造をしているのか。どんなことが起こっていて、どんな問題があるのかっていうのを見て、読んで、そして必死に考えた」
「何か……わかったのかい」
陽生は頬を緩ませながら尋ねた。結愛は真っ直ぐに陽生を見つめると、これまで一度も見せたことのないしっかりとした口調で答えた。
「飢餓よ。有り余る食料が捨てられている一方で、飢餓に苦しんでいる国がある。飢餓が対立を生み、貧困を育てる。弱いものがさらに弱く、罪のない子供たちが生贄にされる。食料を生産するために森が焼かれ、そこに住む野生動物が殺されてゆく。私は……この飢餓と闘う!」
結愛の言葉に陽生の口元が一層緩んだ。
「……そうか。……良かったよ、結愛の進むべき道が決まって」
「パパ。私、学校を辞めるわ。そして年が明けたらこの家を出て渡米する」
「ええッ? そ、それはちょっと……」
結愛の目つきが勇ましく変わる。
「私にはもう学歴なんて必要ない。すでに戦いは始まっているの。この絶対的に不利な状況を、私は一刻も早く好転させなきゃならない。……時間は、無いわ」
陽生はうつむくと二、三度首を縦に振った。
「宿命、だもんな。……たださ、身体だけは……大事にしてくれよ」
「……うん」
そうして結愛は翌日、陽生とともに登校すると、学園に退学届を提出した。
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