8 / 90
7
しおりを挟む
★アリーヤサイド
「ふむ。なるほど、なるほど…。」
オーランドは昨日と同じように執務室で書類を受け取り、そして昨日とは違いサラサラと手紙を書く。
「麗しのご令嬢…この手紙を貴女の上司に渡していただけないだろうか。」
(またやってるわ…)
もう何度目だろうか。女性の文官が来る度、彼は手紙を書いては渡す。
「こんな執務室な所まで御足労頂いたというのに、貴女を計らずも追い返す形になる事は、私とて本意ではないのです。美の女神も裸足で逃げる美しい貴女を困らせるだけの私はなんと罪深いのか!この心臓は今にも張り裂けそうだ。しかし、もし愚かな私がこの書類の判断を間違い、そのせいで貴女にまで累が及ぶような事があれば……この身は悔恨の炎に焼かれてしまう! どうか、どうか!この私の愚かな願いを上司殿にご理解いただくよう、お取り計らい願えないだろうか。」
辺鄙な場所で悪かったな、とアリーヤは冷めた目でオーランドを見つめる。どうせあの手紙の中は「公爵家から後程、改めてご挨拶に伺わせていただきたいので、貴殿の所属と名を教えていただきたい」という旨の、暗に脅す内容に違いない。
女性文官は、オーランドの真摯で甘い言葉に顔を赤らめ、はにかむように微笑んで深く頷いた。彼女はまるで宝物を触れるかのように、大切そうに手紙を胸に抱え、オーランドに何度も頭を下げながら執務室を後にする。
「それ、疲れませんか?」
アリーヤは呆れた声で聞いてしまう。女性が持ってきた書類なら受け付けると言う噂でも聞いたのか、今日執務室に訪れたのは女性文官や、誰かに指示されただろうメイド達だった。
オーランドはそんな彼女たちが来る度に心の底から申し訳ないと言った表情で同じ文言を言い、手紙を書く。アリーヤなら想像するだけで疲れてしまう。
「何を言う!?あらゆる女性を幸せにするのが社交界一美丈夫な私の役目!それなのに断る事しか出来ないなんて…私はなんて無力なんだ!」
オーランドはガタリと席を立ち、机に左手を置き、右手で涙を隠すように目を覆い、如何にも悲劇のヒーローと言った体で話す。
「……そんなに心苦しいなら仕事を請け負っては?処理をするのは私になりますが」
「おお、アリーヤよ。私が女性から誘いを受けているのに嫉妬しているのだな?」
書類を持ってくるだけで、女性からの誘いと勘違いできるオーランドの前向きすぎる思考力は見習いたいが、次期公爵として女性に甘すぎるのはどうだろうか。ハニートラップに引っかかって公爵家が没落など目も当てられない。
更に言えばどうして実兄に嫉妬しなければならないのか…
「嫉妬もしてませんし、それはお誘いでもありませんわ、お兄様」
アリーヤが大きく溜息をついていると
「まぁまぁ。そこまでにしてお二人共、一度休憩致しませんか?」
執務室のドアの隣でずっと静かに仕えていたミリーが微笑みながら提案してくる。
「それもそうだ。むくれているアリーヤもいじらしくはあるが、機嫌が麗しくないご婦人程怖いものは無いからな。そうするとしよう。」
アリーヤとオーランドは執務室のソファに向かいあって座る。ミリーの紅茶を一口飲むとアリーヤはほっと一息つく。なんだか今日はいつもより何処かだるい。昨日も今日も普段の仕事量より遥かに少ないし、昨夜も一度目が覚めて水を飲んだ他は特に「何も無かった」はずだ。
「ふむ。しかしアリーヤよ。今朝から思っていたのだが、私がいるのにその変な顔はなんだ?」
「変な…顔ですか?」
相変わらず失礼な言い方だなと思いつつ、その変な顔なのはオーランドが居るからではないか、とも思ってしまう。
「ああ、そうだ。社交界一の美丈夫がここにいるのだぞ!?私と居るだけでご婦人はみな頬を染め幸せそうにすると言うのに…お前と来たらくたびれた顔をしている。どう見ても変では無いか?それとも美的感覚が壊滅的なのか?いつの間にそんな脳内になっていたのか……同情するぞ可愛いアリーヤよ。今日は帰って夕食を済ませたら直ぐに寝た方が良い。そして美的感覚を戻すべきだ」
アリーヤは内心ため息をつく。これでもそれなりに美的感覚はある方だし、もしオーランドが実兄でなくとも喩え美丈夫だろうと、ナルシストで嫌味な彼といて頬を染める事はない。
(まぁ、昨夜のお兄様は恥ずかしかったけど…)
そんな事は置いといて。色々とオーランドに言いたいことはあるが、このだるさはストレスだろう。確かに早く寝た方がいいと言う言葉には賛成だ。
「ふむ。なるほど、なるほど…。」
オーランドは昨日と同じように執務室で書類を受け取り、そして昨日とは違いサラサラと手紙を書く。
「麗しのご令嬢…この手紙を貴女の上司に渡していただけないだろうか。」
(またやってるわ…)
もう何度目だろうか。女性の文官が来る度、彼は手紙を書いては渡す。
「こんな執務室な所まで御足労頂いたというのに、貴女を計らずも追い返す形になる事は、私とて本意ではないのです。美の女神も裸足で逃げる美しい貴女を困らせるだけの私はなんと罪深いのか!この心臓は今にも張り裂けそうだ。しかし、もし愚かな私がこの書類の判断を間違い、そのせいで貴女にまで累が及ぶような事があれば……この身は悔恨の炎に焼かれてしまう! どうか、どうか!この私の愚かな願いを上司殿にご理解いただくよう、お取り計らい願えないだろうか。」
辺鄙な場所で悪かったな、とアリーヤは冷めた目でオーランドを見つめる。どうせあの手紙の中は「公爵家から後程、改めてご挨拶に伺わせていただきたいので、貴殿の所属と名を教えていただきたい」という旨の、暗に脅す内容に違いない。
女性文官は、オーランドの真摯で甘い言葉に顔を赤らめ、はにかむように微笑んで深く頷いた。彼女はまるで宝物を触れるかのように、大切そうに手紙を胸に抱え、オーランドに何度も頭を下げながら執務室を後にする。
「それ、疲れませんか?」
アリーヤは呆れた声で聞いてしまう。女性が持ってきた書類なら受け付けると言う噂でも聞いたのか、今日執務室に訪れたのは女性文官や、誰かに指示されただろうメイド達だった。
オーランドはそんな彼女たちが来る度に心の底から申し訳ないと言った表情で同じ文言を言い、手紙を書く。アリーヤなら想像するだけで疲れてしまう。
「何を言う!?あらゆる女性を幸せにするのが社交界一美丈夫な私の役目!それなのに断る事しか出来ないなんて…私はなんて無力なんだ!」
オーランドはガタリと席を立ち、机に左手を置き、右手で涙を隠すように目を覆い、如何にも悲劇のヒーローと言った体で話す。
「……そんなに心苦しいなら仕事を請け負っては?処理をするのは私になりますが」
「おお、アリーヤよ。私が女性から誘いを受けているのに嫉妬しているのだな?」
書類を持ってくるだけで、女性からの誘いと勘違いできるオーランドの前向きすぎる思考力は見習いたいが、次期公爵として女性に甘すぎるのはどうだろうか。ハニートラップに引っかかって公爵家が没落など目も当てられない。
更に言えばどうして実兄に嫉妬しなければならないのか…
「嫉妬もしてませんし、それはお誘いでもありませんわ、お兄様」
アリーヤが大きく溜息をついていると
「まぁまぁ。そこまでにしてお二人共、一度休憩致しませんか?」
執務室のドアの隣でずっと静かに仕えていたミリーが微笑みながら提案してくる。
「それもそうだ。むくれているアリーヤもいじらしくはあるが、機嫌が麗しくないご婦人程怖いものは無いからな。そうするとしよう。」
アリーヤとオーランドは執務室のソファに向かいあって座る。ミリーの紅茶を一口飲むとアリーヤはほっと一息つく。なんだか今日はいつもより何処かだるい。昨日も今日も普段の仕事量より遥かに少ないし、昨夜も一度目が覚めて水を飲んだ他は特に「何も無かった」はずだ。
「ふむ。しかしアリーヤよ。今朝から思っていたのだが、私がいるのにその変な顔はなんだ?」
「変な…顔ですか?」
相変わらず失礼な言い方だなと思いつつ、その変な顔なのはオーランドが居るからではないか、とも思ってしまう。
「ああ、そうだ。社交界一の美丈夫がここにいるのだぞ!?私と居るだけでご婦人はみな頬を染め幸せそうにすると言うのに…お前と来たらくたびれた顔をしている。どう見ても変では無いか?それとも美的感覚が壊滅的なのか?いつの間にそんな脳内になっていたのか……同情するぞ可愛いアリーヤよ。今日は帰って夕食を済ませたら直ぐに寝た方が良い。そして美的感覚を戻すべきだ」
アリーヤは内心ため息をつく。これでもそれなりに美的感覚はある方だし、もしオーランドが実兄でなくとも喩え美丈夫だろうと、ナルシストで嫌味な彼といて頬を染める事はない。
(まぁ、昨夜のお兄様は恥ずかしかったけど…)
そんな事は置いといて。色々とオーランドに言いたいことはあるが、このだるさはストレスだろう。確かに早く寝た方がいいと言う言葉には賛成だ。
11
あなたにおすすめの小説
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる