明けない永遠の夜に

霧嶋めぐる

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6話

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 アンドロイドとコンピュータの間に繋がれたコードが少し増えていた。

「今日の進展は?」

 と瞬一が尋ねると、

 永遠が依然モニターを凝視したまま

「聴覚が回復した」

 と言った。

 瞬一は驚いて、思わず鞄を落としてしまう。

 だけどそんなことなんて気にせず、瞬一はアンドロイドに駆け寄った。

「なあ、もしもし、聞こえる?」

「聞こえてはいるが返事はできないだろうな。

 まだ声帯のセットアップが完了していないから」

「……そうか」

 順調に回復しているのは嬉しい。

 だけど意思の疎通ができないのは、ちょっと寂しい。

 瞬一が見るからに落ち込んでいたのが分かったのか、普段は滅多に周囲に反応しない佐藤が

「声はできるだけかけてやれ、聞こえてないわけじゃないから」とぽつりと呟いた。

 瞬一は顔を上げる。

 モニター越しの佐藤の目と目が合う。

 何を考えているのかわからないあの瞳は、だけどいつだって、何かは考えているのだ。

 瞬一にはそれが簡単には理解できないだけ。

 佐藤の生み出す数式のひとつも理解できない今の状態で、どうして彼の感情を理解できるだろう。

 そう思うと、少しでも佐藤と"会話"を交わせる、コンピュータが羨ましく思う。


 今、佐藤の感情は全てこのアンドロイドへと注がれている。

 きっとアンドロイドが復旧した時、それはコンピュータや本に次ぐ、佐藤の良い友達となるのだろう。

 そして、佐藤にとっての瞬一の優先順位は、これまで以上に低くなっていく。

 そんなこと、わかっているのだ。

 わかっているけど、でも。

 瞬一は、アンドロイドを助けたことを後悔していない。

 瞳を閉じれば、アンドロイドを拾った時の光景が鮮明に頭に浮かぶ。

 アンドロイドの頬を撫でると、人とは違う肌の感触が返ってきた。

 ざらりとした猫の舌のような、撫でたこちらが撫であげられているような感触。

 目を伏せた顔は穏やかで、慈愛の感情が溢れていた。

 お前を拾ってやらなくちゃ。

 元の主人のところに戻してやらなきゃ。

 そう思わせる"何か"を、アンドロイドは持っていた。

 だから、後悔はしていない。はず。

 瞬一は鞄を拾い上げ、ポケットに入れていた飴を舐めた。

「なあ、佐藤。話しかけてやったら、こいつ、元気出すかなあ」

「どうだろうな」

「こいつの主人、今頃何してんだろうな」

「さあな」

「心配、してるよな」

「……そうだといいな」

 本当は瞬一も理解し始めていた。

 ゴミ捨て場に横たわった物言わぬ人形。

 アンドロイドは、捨てられたのではないかということを。

 だけど、信じたくなかった。

 それではあまりに可哀想だ。

 人間によって生み出され、人間によって捨てられ、廃棄される。

 模擬ではあっても、例えアンドロイドの本質が数式によって作られたものだとしても、彼らは心を持っている。

 アンドロイドは捨てられる時、廃棄される時、何を思うのだろう。

 悲しむのか、恨むのか、それとも受け入れるのか。

 わからない。わからないけど。

 佐藤ならきっと、アンドロイドの気持ちを誰よりも理解できそうだと瞬一は思った。

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