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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第25話 《水龍》:ツォーン=レフィストス
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アジトの中は、いつもよりも浮ついた空気だった。
いつもより、と言うからには当然俺はこのアジトにいつも通っている、ということになる。
元々《紫苑の指輪》を手に入れたのは、最強闇属性魔法を手に入れるためではなく、最早隠しきれなくなったステータスを隠蔽するため。
当然のことだが、フロルやフェリスは死んだことになっているものの、《黒の皚鳥》構成員である俺は、死んだわけではない。
故に、こうして時間があるときに毎日通い、なんてことないただのモブを演じているのである。
フロル達を助けた時仮面を付けていたのも、俺が組織の人間だとバレないようにするため。
反旗を翻すための準備を進めながら、組織の情報を内部から手に入れる。
そのための変装だったのである。
「しっかし、いつものことながら面白いくらい気付かれないものだな……」
慌ただしく走り去っていく構成員を横目に、俺は苦笑した。
《状態異常》で作成した《ステータス詐称》を自身に付与し、本来のステータスを欺いている。
そのお陰で魔力のオーラが放出してしまうこともなく、完璧な少年Aを演じられているのだ。
明日のテロの準備で忙しい連中と、その中に紛れ込む反逆者の首領。
なんとも中二心をくすぐられるシチュエーションではなかろうか。
ただのモブと言えど、大事な作戦前にいないとなれば怪しまれかねない。
とりあえず、作戦開始直前までこの群れの中に紛れておくとしよう。
そんなことを考えながら、俺はひんやりと冷たい空気で満たされた通路を歩く――と。
前方から、もの凄いオーラを放つ存在が近づいてくるのを感じた。
薄暗い通路の先から、身長2メートルはあろうかと思われる人間が現れる。
年齢は30歳前後。筋骨隆々な身体に、額や頬には歴戦の猛者を思わせる傷。
腰まである長い青髪を適当に括り、琥珀色の瞳は鋭い眼光を放っている。
彼こそが《水龍》ツォーン=レフィストス。
《黒の皚鳥》最強の一角にして、明日の対戦相手。
相手は、俺など見向きもしていない。
まるで道端にいる蟻がごとく、眼中にないのだろう。
ならば俺も、彼の対応に従おう。
彼我の距離が20メートル、10メートル、5メートルとぐんぐん近くなる。
お互いの視線が、自身の歩む先だけを見つめたまま、身体がぶつかりそうな距離ですれ違った。
「……」
「……」
互いに無言。
お互いがお互いを意識しないまま、ただの通行人が交差するように。
相手の影が後ろへ過ぎ去り、近づくときと同じ速度で威圧感が遠ざかっていく。
そのまま、何事もなかったかのようにモブである俺は歩くのを止めない――とそのときだった。
かつん。
遠ざかっていた足音が、急に止まる。
どうしたんだ?
忘れ物でも思い出したのか?
そんなことを思っていた、そのときだった。
「……待て、貴様」
「!」
俺は、心臓が口から出るほど驚いて立ち止まる。
声をかけられた?
なぜ?
俺は完璧なモブを演じていたはず……!
いや待て待て。
そもそも声をかけられたのが俺であるはずがない。
たぶん別の誰かに言ったんだ、うん。
俺は、ほっと胸をなで下ろして再び歩き出し――
「おい。無視するな。何「俺じゃないよね?」的な感じで行こうとしてんだ」
さっきより鋭い声を投げかけられ、足を地面に縫い止められたかのような錯覚に囚われる。
……あ、やっぱ俺だったのか。
てかなんで目を付けられた!?
「あ、あの……何か俺気に障るようなことしましたか?」
「ああ、した」
「す、すいません。見ての通り、ただのクソ雑魚キャラAなもので、非礼をおかしたことに気付けず……あは、あはは」
「そうだな。貴様のことは顔も名前も知らん、ただのクソ雑魚だ。視界に入ることもないゴミ虫だ。なのに――」
その瞬間、周囲の空気が一気に氷点下を振り切ったかのように張り詰めた。
冷たい金色の瞳が、俺を射貫く。
「なのになぜ、誰もが震え上がる四天王たる私とすれ違って、貴様は涼しい顔をしていられる?」
いつもより、と言うからには当然俺はこのアジトにいつも通っている、ということになる。
元々《紫苑の指輪》を手に入れたのは、最強闇属性魔法を手に入れるためではなく、最早隠しきれなくなったステータスを隠蔽するため。
当然のことだが、フロルやフェリスは死んだことになっているものの、《黒の皚鳥》構成員である俺は、死んだわけではない。
故に、こうして時間があるときに毎日通い、なんてことないただのモブを演じているのである。
フロル達を助けた時仮面を付けていたのも、俺が組織の人間だとバレないようにするため。
反旗を翻すための準備を進めながら、組織の情報を内部から手に入れる。
そのための変装だったのである。
「しっかし、いつものことながら面白いくらい気付かれないものだな……」
慌ただしく走り去っていく構成員を横目に、俺は苦笑した。
《状態異常》で作成した《ステータス詐称》を自身に付与し、本来のステータスを欺いている。
そのお陰で魔力のオーラが放出してしまうこともなく、完璧な少年Aを演じられているのだ。
明日のテロの準備で忙しい連中と、その中に紛れ込む反逆者の首領。
なんとも中二心をくすぐられるシチュエーションではなかろうか。
ただのモブと言えど、大事な作戦前にいないとなれば怪しまれかねない。
とりあえず、作戦開始直前までこの群れの中に紛れておくとしよう。
そんなことを考えながら、俺はひんやりと冷たい空気で満たされた通路を歩く――と。
前方から、もの凄いオーラを放つ存在が近づいてくるのを感じた。
薄暗い通路の先から、身長2メートルはあろうかと思われる人間が現れる。
年齢は30歳前後。筋骨隆々な身体に、額や頬には歴戦の猛者を思わせる傷。
腰まである長い青髪を適当に括り、琥珀色の瞳は鋭い眼光を放っている。
彼こそが《水龍》ツォーン=レフィストス。
《黒の皚鳥》最強の一角にして、明日の対戦相手。
相手は、俺など見向きもしていない。
まるで道端にいる蟻がごとく、眼中にないのだろう。
ならば俺も、彼の対応に従おう。
彼我の距離が20メートル、10メートル、5メートルとぐんぐん近くなる。
お互いの視線が、自身の歩む先だけを見つめたまま、身体がぶつかりそうな距離ですれ違った。
「……」
「……」
互いに無言。
お互いがお互いを意識しないまま、ただの通行人が交差するように。
相手の影が後ろへ過ぎ去り、近づくときと同じ速度で威圧感が遠ざかっていく。
そのまま、何事もなかったかのようにモブである俺は歩くのを止めない――とそのときだった。
かつん。
遠ざかっていた足音が、急に止まる。
どうしたんだ?
忘れ物でも思い出したのか?
そんなことを思っていた、そのときだった。
「……待て、貴様」
「!」
俺は、心臓が口から出るほど驚いて立ち止まる。
声をかけられた?
なぜ?
俺は完璧なモブを演じていたはず……!
いや待て待て。
そもそも声をかけられたのが俺であるはずがない。
たぶん別の誰かに言ったんだ、うん。
俺は、ほっと胸をなで下ろして再び歩き出し――
「おい。無視するな。何「俺じゃないよね?」的な感じで行こうとしてんだ」
さっきより鋭い声を投げかけられ、足を地面に縫い止められたかのような錯覚に囚われる。
……あ、やっぱ俺だったのか。
てかなんで目を付けられた!?
「あ、あの……何か俺気に障るようなことしましたか?」
「ああ、した」
「す、すいません。見ての通り、ただのクソ雑魚キャラAなもので、非礼をおかしたことに気付けず……あは、あはは」
「そうだな。貴様のことは顔も名前も知らん、ただのクソ雑魚だ。視界に入ることもないゴミ虫だ。なのに――」
その瞬間、周囲の空気が一気に氷点下を振り切ったかのように張り詰めた。
冷たい金色の瞳が、俺を射貫く。
「なのになぜ、誰もが震え上がる四天王たる私とすれ違って、貴様は涼しい顔をしていられる?」
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