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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編
第26話 原作改変(イレギュラー)
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怖いお兄さんに睨まれて俺がまず最初に思ったことは――
あ、墓穴掘ったかも。
なぜその考えに行き着かなかったのか。
よくよく思えば、畏怖と憧憬の対象たる四天王と一対一ですれ違ったんだ。
避けるなり会釈するなり、何かしらモブっぽい反応を返さないと逆に怪しまれるというもの。
ここは一つ、弁明をしておこう。
「す、すいません。ツォーン様とすれ違ったことに気付かず」
「ほぅ。つまり私は、貴様にとっては空気みたいなものと?」
「いえ! 滅相もない! 明日の作戦で緊張していて……それで」
「なるほどな。まあ、貴様等のような虫けらには子細を伝えていないが、大きな作戦になるからな。気負うのも無理はない」
「はぁ……ど、どうも」
激励された、のか?
かなり無理のある言い訳だった気がするが、随分あっさりと信じ込んだものだ。
「だが、気負う必要はないぞ。なぜなら、明日の作戦は必ず成功するからだ」
「? それってどういう――」
不意に意味深な発言をしたツォーンは、ぽんと俺の肩に手を置く。
そのときだった。
ほんの僅かに、心臓が重くなるような感覚に捕らわれる。
もし俺が、ツォーンに触れられたことで緊張するような本物のモブであったら、自身の心臓の高鳴りに隠れてしまい、違和感に気付かなかっただろう。
そのくらい、些細な変化。
ツォーンは俺の耳元に唇を近づけ、囁くように言った。
「明日の作戦は、レイズが決めた本筋の他に――俺が独自で組んだ作戦も組み込まれている。明日の作戦が失敗するようなことはまず有り得ないさ。だから、安心して望みな」
そう言い残し、ツォーンは踵を返して去って行く。
その後ろ姿を見送った俺は、自身の胸元にそっと手を置いた。
「固有スキル《魔法創作者》起動。無属性魔法、《異物摘出》を作成――起動!」
バチチッ。
手を置いた胸元に紫電が弾け、心臓の違和感が手の方に移動するのを感じた。
紫電が収まり、胸から手を離すと、俺の手元には水色の小さな玉があった。
小さなガラス玉のようなもので、ヤツのものと思われる魔力が渦巻いている。
見かけだけは宝石みたいで綺麗だが、おそらくこの玉はただ純粋に綺麗なもの、というわけでもあるまい。
四天王であるツォーンによって、仕込まれたものだから。
俺は、スキル《鑑定眼》を使用し、不思議な玉を調べる。
その結果浮かび上がった玉の正体に、思わず眉をひそめた――そのときだった。
「なぁにやってんだ? そんなとこでよ」
ぶっきらぼうな声が、横から殴りつけた。
慌てて《鑑定眼》をきり、声のした方を見れば、金髪ツンツン頭の美少年が立っている。
なんだかんだで交流が続いている、レントだった。
「別に。今までちょっとある人と話してただけだ」
「ある人……?」
レントは俺の掌にのっている綺麗な玉を見て、何やら合点がいったようにぽんと手を叩いた。
「おお。さては女だな? 食えないヤツめ!」
「は? ちょっと待て。なんでそんな話に――」
「恥ずかしがることないだろ~? 誰なんだよ、誰に貰ったんだよ? 教えろよなぁ~、俺達親友だろ?」
何やら勘違いしたレントが、俺の肩に手を回してくる。
この陽キャ特有の仕草は……うん。前世で陰キャだった俺にとっては、まだ慣れないなぁ。
そんなことを思っていた矢先、俺はレントの中にとある違和感を感じた。
たぶん、普通に彼を見ているだけでは気付かなかっただろう。
レントと触れあったからこそ気付いた、ほんの少しの違和感。
俺が今手に持っている玉に内包されている魔力と、同じ波長の魔力をレントの中から微かに感じる。
まっさか、この感じは――
俺は《鑑定眼》を再起動し、レントの胸元を凝視する。
《鑑定眼》は、あらゆる真実を見透かすスキル。
物体や身体の構造や、その人のステータス、物体に付与された魔法の種類まで、ありとあらゆる真実が筒抜けになる。
今、俺の目にはレントの身体がレントゲン写真のように丸見えに――あ、一応言っておくがダジャレではない。
とにかく、俺の目にはレントの身体が透けて見えているのだ。
彼の身体の中央――心臓がある辺りに、俺が埋め込まれたものと同じ玉があった。
「……なるほど。そういうことか」
「何がそういうことなんだ?」
「いや、なんでもない。こっちの話だ」
俺は、ツォーンが何を企んでいるのかを悟る。
ただ同時に、危機感を募らせていた。
この、ツォーンが玉を人体に埋め込むという展開は、原作のストーリーに存在しないからだ。
ここに来て、初めての原作改編。
たぶん、勇者アリスが戦うはずだったリーナを横取りしたり、死ぬはずだったフロル達が生きていたりするせいだろう。
物語の過去を改編したことで、ストーリーの軸が若干ズレ始めているのだ。
だが――まあいい。
俺は、ニヤリと不敵に笑う。
元々俺は、未来を変えるために生きている。
ならば、変わっていく展開の中で目的を果たすだけだ。
「……なあ、どうしたお前。急にニヤニヤしてキモいぞ」
「やめろよな。人が格好良く覚悟決めてんのに水を差すの」
「格好良く覚悟決めた? やましく妄想キメた、の間違いだろ。ナチュラルにキモかったんだが」
「なんだとコラァ!」
その夜。
陽キャと陰キャによる、生産性ゼロの押し問答が延々と続いたのであった。
あ、墓穴掘ったかも。
なぜその考えに行き着かなかったのか。
よくよく思えば、畏怖と憧憬の対象たる四天王と一対一ですれ違ったんだ。
避けるなり会釈するなり、何かしらモブっぽい反応を返さないと逆に怪しまれるというもの。
ここは一つ、弁明をしておこう。
「す、すいません。ツォーン様とすれ違ったことに気付かず」
「ほぅ。つまり私は、貴様にとっては空気みたいなものと?」
「いえ! 滅相もない! 明日の作戦で緊張していて……それで」
「なるほどな。まあ、貴様等のような虫けらには子細を伝えていないが、大きな作戦になるからな。気負うのも無理はない」
「はぁ……ど、どうも」
激励された、のか?
かなり無理のある言い訳だった気がするが、随分あっさりと信じ込んだものだ。
「だが、気負う必要はないぞ。なぜなら、明日の作戦は必ず成功するからだ」
「? それってどういう――」
不意に意味深な発言をしたツォーンは、ぽんと俺の肩に手を置く。
そのときだった。
ほんの僅かに、心臓が重くなるような感覚に捕らわれる。
もし俺が、ツォーンに触れられたことで緊張するような本物のモブであったら、自身の心臓の高鳴りに隠れてしまい、違和感に気付かなかっただろう。
そのくらい、些細な変化。
ツォーンは俺の耳元に唇を近づけ、囁くように言った。
「明日の作戦は、レイズが決めた本筋の他に――俺が独自で組んだ作戦も組み込まれている。明日の作戦が失敗するようなことはまず有り得ないさ。だから、安心して望みな」
そう言い残し、ツォーンは踵を返して去って行く。
その後ろ姿を見送った俺は、自身の胸元にそっと手を置いた。
「固有スキル《魔法創作者》起動。無属性魔法、《異物摘出》を作成――起動!」
バチチッ。
手を置いた胸元に紫電が弾け、心臓の違和感が手の方に移動するのを感じた。
紫電が収まり、胸から手を離すと、俺の手元には水色の小さな玉があった。
小さなガラス玉のようなもので、ヤツのものと思われる魔力が渦巻いている。
見かけだけは宝石みたいで綺麗だが、おそらくこの玉はただ純粋に綺麗なもの、というわけでもあるまい。
四天王であるツォーンによって、仕込まれたものだから。
俺は、スキル《鑑定眼》を使用し、不思議な玉を調べる。
その結果浮かび上がった玉の正体に、思わず眉をひそめた――そのときだった。
「なぁにやってんだ? そんなとこでよ」
ぶっきらぼうな声が、横から殴りつけた。
慌てて《鑑定眼》をきり、声のした方を見れば、金髪ツンツン頭の美少年が立っている。
なんだかんだで交流が続いている、レントだった。
「別に。今までちょっとある人と話してただけだ」
「ある人……?」
レントは俺の掌にのっている綺麗な玉を見て、何やら合点がいったようにぽんと手を叩いた。
「おお。さては女だな? 食えないヤツめ!」
「は? ちょっと待て。なんでそんな話に――」
「恥ずかしがることないだろ~? 誰なんだよ、誰に貰ったんだよ? 教えろよなぁ~、俺達親友だろ?」
何やら勘違いしたレントが、俺の肩に手を回してくる。
この陽キャ特有の仕草は……うん。前世で陰キャだった俺にとっては、まだ慣れないなぁ。
そんなことを思っていた矢先、俺はレントの中にとある違和感を感じた。
たぶん、普通に彼を見ているだけでは気付かなかっただろう。
レントと触れあったからこそ気付いた、ほんの少しの違和感。
俺が今手に持っている玉に内包されている魔力と、同じ波長の魔力をレントの中から微かに感じる。
まっさか、この感じは――
俺は《鑑定眼》を再起動し、レントの胸元を凝視する。
《鑑定眼》は、あらゆる真実を見透かすスキル。
物体や身体の構造や、その人のステータス、物体に付与された魔法の種類まで、ありとあらゆる真実が筒抜けになる。
今、俺の目にはレントの身体がレントゲン写真のように丸見えに――あ、一応言っておくがダジャレではない。
とにかく、俺の目にはレントの身体が透けて見えているのだ。
彼の身体の中央――心臓がある辺りに、俺が埋め込まれたものと同じ玉があった。
「……なるほど。そういうことか」
「何がそういうことなんだ?」
「いや、なんでもない。こっちの話だ」
俺は、ツォーンが何を企んでいるのかを悟る。
ただ同時に、危機感を募らせていた。
この、ツォーンが玉を人体に埋め込むという展開は、原作のストーリーに存在しないからだ。
ここに来て、初めての原作改編。
たぶん、勇者アリスが戦うはずだったリーナを横取りしたり、死ぬはずだったフロル達が生きていたりするせいだろう。
物語の過去を改編したことで、ストーリーの軸が若干ズレ始めているのだ。
だが――まあいい。
俺は、ニヤリと不敵に笑う。
元々俺は、未来を変えるために生きている。
ならば、変わっていく展開の中で目的を果たすだけだ。
「……なあ、どうしたお前。急にニヤニヤしてキモいぞ」
「やめろよな。人が格好良く覚悟決めてんのに水を差すの」
「格好良く覚悟決めた? やましく妄想キメた、の間違いだろ。ナチュラルにキモかったんだが」
「なんだとコラァ!」
その夜。
陽キャと陰キャによる、生産性ゼロの押し問答が延々と続いたのであった。
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