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第二章 《友好舞踏会》の騒乱編

第27話 トラブル再発

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 ――十二月十一日。

 その日は、ついにやって来た。



 《友好舞踏会エクセレント・パーティー》当日。

 後に、《悲劇の舞踏会トラジックパーティー》と呼ばれるそれが、表向きは華々しく開催される。



 ブルガス王国は、レーネ王女を筆頭として、主人公である勇者アリスや親善大使などの主要人物がざっと30人前後集まる予定だ。



 対して、アリクレース公国側は影武者の親善大使や捨て駒の代表秘書官などを表向きに派遣し、《水龍》ツォーンを筆頭とした《黒の皚鳥》構成員が参加する。

 その数も、おおよそ30人。



 あくまで友好を結ぶためのパーティーであるため、参加する人数も平等にすることによって、相手に怪しまれないようにするという算段だろう。



 時刻は、午前十時三十分。

 《友好舞踏会エクセレント・パーティー》開催まで、残り一時間と三十分。



 俺は、《黒の皚鳥》構成員達と一緒に、公国側の参加者を偽って会場に到着していた。



 会場は、ブルガス王国の国境に最も近い街、プルーヌにある舞踏会場だ。

 アリクレース公国初代国王が建造した、築200年の巨大な石造りの建物であるそれは、今まで数々の催しで使用されてきた。(もちろん、ゲームの設定だから実際そうなのかは知らない)



 ゲームでは二次元の挿絵でしかなかったが、実際には五階建てのビルを優に超える大きさだ。

 そんな西洋建築を見ると、思わず感嘆の声が出てしまうというもの。



「はぇ~、凄いな」

「だなぁ。俺、ここに来るの生まれて初めてだぜ」



 横に立つレントもまた、赤い眼を輝かせて言った。

 彼のツンツン頭は綺麗に梳かしてあり、服装もきっちりとまとめられている。

 これから行うのはテロとは言え、表向きはパーティーだ。



 正装で臨まなければ怪しまれる。

 かくいう俺も、髪をオールバックにして、パープルのフロックコートを着こなしているわけだしな。



「お前、これから俺達が起こすこと、どう思ってる?」



 レントは、上を見上げたまま独り言のように聞いてきた。



 作戦の概要は、今朝の移動中に俺達モブにも伝えられた。

 シナリオを知っている俺からすれば、最低限の情報と言わざるを得ないのだが、下っ端なんてそんなものだろう。



「さあ。ただの犯罪だからな、どうも何もやっちゃダメだろ」

「そうだな、俺もそう思う。でも……俺達は、そうしなきゃ生きられないんだ」

「そうだな」



 俺は、運命を変える力の無いモブとして、彼の言葉に同調した。

 《黒の皚鳥》構成員の下っ端達の全員が、戦争がしたいと思っているわけではない。

 八割以上は、上の命令に従っているだけのこと。



 けれど、従わなければ生きていけない。

 元々、《黒の皚鳥》は奴隷も含め、身寄りの無い人間やはみ出し者の巣窟だ。

 だから、組織を抜け出したところで、行く当てもない。

 帰りを待ってくれている者もいない。



 生きて行く術は、この場所にしかないのだ。

 

「この作戦で活躍したら、俺、上の連中から認めて貰えっかな?」

「ツォーンさんより活躍すれば、あり得るかもな」

「ははっ、無茶言うなよ」



 レントは、乾いた笑顔を浮かべながら、俺の背中をバシバシと叩いてくる。



 レントにはそう答えたが、答えなんてわかりきっている。

 ツォーンより活躍しようが、認めて貰えることはない。

 だってお前は、モブなんだから。

 必ず死ぬ運命にある下っ端であることは、この場で俺だけが知っている。



 ――。

 

 会場の入り口には、衛兵がいた。



「ここでボディチェックを行う。参加者は一列に並んで順番にチェックを受けろ」



 鎧を身に纏った中年とおぼしき男が、大声で叫んでいる。

 俺は、先にレントを行かせて自分は列の一番後ろに並んだ。



 ボディチェック。

 こんなこともあろうかと、剣などの装備は一切持っていない。

 原作のシナリオにボディチェックなんて無かったけど、普通に考えれば重鎮の集まる舞踏会でボディチェックが入らないわけがない。



 予め予見していた俺、ナイス!

 

 やがて俺の番が回ってくる。

 意気揚々とボディチェックを受けた俺は、どや顔でふんぞり返り――



「指輪などの装飾品は、魔法がエンチャントされている可能性がある。速やかにはずせ」

「ファッッッ!?」



 圧倒的予想外の不意打ちに、俺はすっとんきょうな声を上げてしまった。

 

 これはマズい。

 だって《紫苑の指輪》は、固く守られているはずのお宝だ。

 はめている最中は《ステータス詐称》が常時働いているため、本来の実力も指輪の正体も完全に隠匿されているが――外した瞬間とんでもないことになる。



 まず《紫苑の指輪》が持ち出されていることがバレ、俺の実力と正体がバレ、作戦どころではなくなる。



「あ、あの。ただのアクセですのでお気になさら――」

「ご託は良いからはずせ」

「ですよねぇ……」



 ヤバい。

 ピンチだ。

 昨日もなんかツォーンに絡まれたし、俺実はモブ向いてないんじゃね?



 さて、どうしたものか。
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