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1泊目 優しい嘘はお嫌いですか?
第13話 この「後悔」に決着を
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《悟視点》
宿屋から続く扉を開けたら、そこはたまに使う最寄りの駅のホームだった。
行きたいと願ったのは、当然俺の家の玄関ではない。ゆい姉のいる場所だ。
「(行きたいと願った場所が女子トイレの扉ですか。なるほど、なるほど)」
「(こら、やめなさい変なこと言うの)」
駅のホームに降り立った俺の後ろからついてきたオーナーと変なお姉さんが何やら言っているが、そんなものは今頭に入ってこない。
「さっくん!」
俺を見つけたゆい姉の大きな目が、更に見開かれる。
ゆい姉の顔を見ると、どうしようもなく胸が熱くなってしまう。
早鐘のように鳴っている鼓動を感じながら、俺は一歩一歩ゆい姉の元へ近づいて行く。
「ちょ、ちょっとあんた。今までどこに……というか、一体どうやってここに来たのよ」
「ごめんお母さん。後で話すから」
駆け寄ってきた母に一言謝り、しかし歩みは止めない。
お母さんはこちらに伸ばしかけた手を引っ込めて、道を空けてくれた。
「ゆい姉」
「さ、さっくん……」
ゆい姉の側まで近寄って足を止め、俺とゆい姉は向かい合った。
長いマツゲに、昔よりもずっと女の子らしくなった身体に、ずっと変わらない優しげな栗色の瞳。
前に立っただけで、もう一度会えて良かったと、心から思える。
でも、会えたというだけで満足して済ませてはいけない。絶対に。
「あ、あのねさっくん。私……さっくんに嘘をついたの!」
ゆい姉は、自身の胸に拳を当てて絞り出すようにそう叫んだ。
「好きな人ができたっていうのも嘘! ほんとは、私のおばあちゃんが……その、倒れて。さっくん、お婆ちゃんと仲良かったから、傷付いて欲しくなくて。でも、結果的に私、さっくんに酷いことをしたから」
震える声で言葉を紡ぐゆい姉。
自分が一番辛いはずなのに、それでも誰かをいたわれるゆい姉が誇らしくて、なにより愛おしかった。
「だから、私……ごめ」
「謝らないでよ」
目元を潤ませ、後悔に震えるゆい姉に俺はできるだけ優しく告げる。
驚いてこちらを見るゆい姉に、俺は深く頭を下げた。
「全部知ってる。ゆい姉は優しいから、俺のために嘘をついてくれたんだって」
「!」
俺の言葉に、ゆい姉は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。それに構わず、俺は言葉を続ける。
「むしろ謝らないといけないのは、俺の方なんだ。ごめん、ゆい姉」
「謝るって……なんで」
「たぶん、ゆい姉をいっぱい困らせちゃったと思う。だって、意味わかんないもんな。ゆい姉が幸せになりに行くって、だから心配要らないって言ってくれただけなのに、あれじゃほとんど逆ギレだもん」
たぶん、ゆい姉は俺がどうしてあんなに取り乱したのか、わかっていない。
それは、俺を男の子として見てくれていない証拠で。でも、そんなことは俺が彼女を好きになってはいけない理由にはならないと思う。
「悔しかったんだよ。名前も顔もわからない、ただ口から聞いただけの相手が……その、俺とかよりもゆい姉に強く思われてるのが。だからついカッとなって、酷いこと言った。ごめんなさい」
重ねてきた時間で愛の重さが決まるわけじゃない。そんなことはわかっていても、嫉妬した。醜いけど、それが本心だ。
「でも、ゆい姉がしてくれた話は全部俺のための嘘だったから。実際にはゆい姉には幸せを委ねる相手はまだいなくて、1人で辛いことを抱え込もうとしてる。それだといつか潰れちゃうよ。ゆい姉には、そんなふうになってほしくないんだ。だからさ――」
俺は一度深呼吸して、ゆい姉の瞳を真っ直ぐに見据える。
「――俺に、ゆい姉を支えさせてほしい」
そう、伝えたいことを真っ直ぐに伝えた。
宿屋から続く扉を開けたら、そこはたまに使う最寄りの駅のホームだった。
行きたいと願ったのは、当然俺の家の玄関ではない。ゆい姉のいる場所だ。
「(行きたいと願った場所が女子トイレの扉ですか。なるほど、なるほど)」
「(こら、やめなさい変なこと言うの)」
駅のホームに降り立った俺の後ろからついてきたオーナーと変なお姉さんが何やら言っているが、そんなものは今頭に入ってこない。
「さっくん!」
俺を見つけたゆい姉の大きな目が、更に見開かれる。
ゆい姉の顔を見ると、どうしようもなく胸が熱くなってしまう。
早鐘のように鳴っている鼓動を感じながら、俺は一歩一歩ゆい姉の元へ近づいて行く。
「ちょ、ちょっとあんた。今までどこに……というか、一体どうやってここに来たのよ」
「ごめんお母さん。後で話すから」
駆け寄ってきた母に一言謝り、しかし歩みは止めない。
お母さんはこちらに伸ばしかけた手を引っ込めて、道を空けてくれた。
「ゆい姉」
「さ、さっくん……」
ゆい姉の側まで近寄って足を止め、俺とゆい姉は向かい合った。
長いマツゲに、昔よりもずっと女の子らしくなった身体に、ずっと変わらない優しげな栗色の瞳。
前に立っただけで、もう一度会えて良かったと、心から思える。
でも、会えたというだけで満足して済ませてはいけない。絶対に。
「あ、あのねさっくん。私……さっくんに嘘をついたの!」
ゆい姉は、自身の胸に拳を当てて絞り出すようにそう叫んだ。
「好きな人ができたっていうのも嘘! ほんとは、私のおばあちゃんが……その、倒れて。さっくん、お婆ちゃんと仲良かったから、傷付いて欲しくなくて。でも、結果的に私、さっくんに酷いことをしたから」
震える声で言葉を紡ぐゆい姉。
自分が一番辛いはずなのに、それでも誰かをいたわれるゆい姉が誇らしくて、なにより愛おしかった。
「だから、私……ごめ」
「謝らないでよ」
目元を潤ませ、後悔に震えるゆい姉に俺はできるだけ優しく告げる。
驚いてこちらを見るゆい姉に、俺は深く頭を下げた。
「全部知ってる。ゆい姉は優しいから、俺のために嘘をついてくれたんだって」
「!」
俺の言葉に、ゆい姉は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。それに構わず、俺は言葉を続ける。
「むしろ謝らないといけないのは、俺の方なんだ。ごめん、ゆい姉」
「謝るって……なんで」
「たぶん、ゆい姉をいっぱい困らせちゃったと思う。だって、意味わかんないもんな。ゆい姉が幸せになりに行くって、だから心配要らないって言ってくれただけなのに、あれじゃほとんど逆ギレだもん」
たぶん、ゆい姉は俺がどうしてあんなに取り乱したのか、わかっていない。
それは、俺を男の子として見てくれていない証拠で。でも、そんなことは俺が彼女を好きになってはいけない理由にはならないと思う。
「悔しかったんだよ。名前も顔もわからない、ただ口から聞いただけの相手が……その、俺とかよりもゆい姉に強く思われてるのが。だからついカッとなって、酷いこと言った。ごめんなさい」
重ねてきた時間で愛の重さが決まるわけじゃない。そんなことはわかっていても、嫉妬した。醜いけど、それが本心だ。
「でも、ゆい姉がしてくれた話は全部俺のための嘘だったから。実際にはゆい姉には幸せを委ねる相手はまだいなくて、1人で辛いことを抱え込もうとしてる。それだといつか潰れちゃうよ。ゆい姉には、そんなふうになってほしくないんだ。だからさ――」
俺は一度深呼吸して、ゆい姉の瞳を真っ直ぐに見据える。
「――俺に、ゆい姉を支えさせてほしい」
そう、伝えたいことを真っ直ぐに伝えた。
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