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第二章 《最凶の天空迷宮編》
第三十七話 修羅場?
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「え、エランくん……!」
僕の視線に気付いたらしいエナは、急にわなわなと震え出す。
みるみるうちに目元に光の珠が浮き上がり、白い頬を伝って流れ落ちた。
「な、なんで泣いて……?」
ぎょっとして目を見開いた瞬間、エナは耐えかねたように僕の方に向かって駆けだした。
人混みを強引にかき分け、涙を振りまきながら、一心不乱に。
「エランくんっ!!」
感動と、安心と、恐縮と……それだけではない強い思いが入り交じった複雑な感情を浮かべ、勢いのままに抱きついてきた。
「ちょ……え、エナ!? 何を――ッ」
いきなり抱きつかれて、彼女いない歴=年齢の僕は、危うく気が動転しそうになる。
けれど、そんなことお構いなしとばかりに、エナは「よがっだぁあああ!」と叫びながら、僕の肩に顎を乗せて子どものように泣きじゃくる。(肩に顎が乗っているのは、エナの方が僕より身長が高いからだ)
大人びた性格のエナらしくない行動に驚いたのもそうだが、美少女がいきなり公衆の面前で抱きついてきたことの方が問題だ。
おそるおそる周りの反応を見ると――
「――え、なに? 彼女? めっちゃ美人じゃん」
「心配のあまり抱きつくとか、良い子だな~」
「ていうか、それじゃあ一緒に出てきた女の子はなに? 妹?」
「いや違うだろ、似てねぇし。二股とかじゃね?」
「うーわ、浮気とかマジないわ。彼氏サイテー」
うわぁ。なんか完全に風評被害を受けてるんですが……
パーティを追放される前、一番仲が良かった仲間ってだけなんだけどなぁ。
こちらとしては、ため息をつくしかない。
とりあえず、誤解を解かないと。
「エナ。話はあとでゆっくりしよう。この状況はちょっとマズいし……」
「ぐすっ、ひっく……どうして?」
「いや、側に美少女が二人いるせいで、いろいろ変な誤解をされてるというか……ほ、ほら。恋人二人は流石にダメでしょ、倫理的に」
「……え? 恋人? 私とエランくんが……?」
肩から顎を話したエナと、目が合う。
その瞬間、かぁあああっと沸騰したかのように顔を真っ赤にして、エナは飛び退いた。
「ご、ごめんなさい! 私、つい――」
「いいよ。心配してくれて嬉しかったし。ただ、できれば恋人と疑われるようなことは、控えて欲しいってだけ」
「わ、私は別に……(疑われてもいいんだけど)」
「? 何か言った? よく聞こえなかったんだけど」
「な、なんでもない! なんでもないの!」
慌てたように首を横に振るエナ。
(どうしたんだろ?)
どうにも様子がおかしいエナを見て、僕は首を傾げるが。
そのとき、電気が走ったような痛みが耳に弾けた。
「い、いったたたた!?」
この攻撃は、まさか――?
振り返ってみれば、クレアが死んだ魚のような目で僕を睨んでいる。
「ど、どうしたの?」
「私を差し置いて、いい度胸だね! こんなに可愛い彼女がいながら浮気だなんて、許さないんだからぁ!」
「ちょっ! 声が大きい! てか落ち着いて、本格的に僕がクズだと思われる!」
死んだ目のままジタバタと暴れ出したクレアを、慌てて宥める。
――けれど。
「見ろよ、やっぱり二股だ」
「うーわ、エランくんて実はドクズ系?」
「両手に花とか言って喜んでるのかな。なんか嫌だ」
さっきまでの尊敬と羨望の眼差しはどこへやら。
今や、周りの人々が僕に向けている目は、完全に冷え切っていた。
「ご、誤解ですぅうううううううううううっ!!」
僕の絶叫が、どこまでも高い青空に吸い込まれていくのだった。
僕の視線に気付いたらしいエナは、急にわなわなと震え出す。
みるみるうちに目元に光の珠が浮き上がり、白い頬を伝って流れ落ちた。
「な、なんで泣いて……?」
ぎょっとして目を見開いた瞬間、エナは耐えかねたように僕の方に向かって駆けだした。
人混みを強引にかき分け、涙を振りまきながら、一心不乱に。
「エランくんっ!!」
感動と、安心と、恐縮と……それだけではない強い思いが入り交じった複雑な感情を浮かべ、勢いのままに抱きついてきた。
「ちょ……え、エナ!? 何を――ッ」
いきなり抱きつかれて、彼女いない歴=年齢の僕は、危うく気が動転しそうになる。
けれど、そんなことお構いなしとばかりに、エナは「よがっだぁあああ!」と叫びながら、僕の肩に顎を乗せて子どものように泣きじゃくる。(肩に顎が乗っているのは、エナの方が僕より身長が高いからだ)
大人びた性格のエナらしくない行動に驚いたのもそうだが、美少女がいきなり公衆の面前で抱きついてきたことの方が問題だ。
おそるおそる周りの反応を見ると――
「――え、なに? 彼女? めっちゃ美人じゃん」
「心配のあまり抱きつくとか、良い子だな~」
「ていうか、それじゃあ一緒に出てきた女の子はなに? 妹?」
「いや違うだろ、似てねぇし。二股とかじゃね?」
「うーわ、浮気とかマジないわ。彼氏サイテー」
うわぁ。なんか完全に風評被害を受けてるんですが……
パーティを追放される前、一番仲が良かった仲間ってだけなんだけどなぁ。
こちらとしては、ため息をつくしかない。
とりあえず、誤解を解かないと。
「エナ。話はあとでゆっくりしよう。この状況はちょっとマズいし……」
「ぐすっ、ひっく……どうして?」
「いや、側に美少女が二人いるせいで、いろいろ変な誤解をされてるというか……ほ、ほら。恋人二人は流石にダメでしょ、倫理的に」
「……え? 恋人? 私とエランくんが……?」
肩から顎を話したエナと、目が合う。
その瞬間、かぁあああっと沸騰したかのように顔を真っ赤にして、エナは飛び退いた。
「ご、ごめんなさい! 私、つい――」
「いいよ。心配してくれて嬉しかったし。ただ、できれば恋人と疑われるようなことは、控えて欲しいってだけ」
「わ、私は別に……(疑われてもいいんだけど)」
「? 何か言った? よく聞こえなかったんだけど」
「な、なんでもない! なんでもないの!」
慌てたように首を横に振るエナ。
(どうしたんだろ?)
どうにも様子がおかしいエナを見て、僕は首を傾げるが。
そのとき、電気が走ったような痛みが耳に弾けた。
「い、いったたたた!?」
この攻撃は、まさか――?
振り返ってみれば、クレアが死んだ魚のような目で僕を睨んでいる。
「ど、どうしたの?」
「私を差し置いて、いい度胸だね! こんなに可愛い彼女がいながら浮気だなんて、許さないんだからぁ!」
「ちょっ! 声が大きい! てか落ち着いて、本格的に僕がクズだと思われる!」
死んだ目のままジタバタと暴れ出したクレアを、慌てて宥める。
――けれど。
「見ろよ、やっぱり二股だ」
「うーわ、エランくんて実はドクズ系?」
「両手に花とか言って喜んでるのかな。なんか嫌だ」
さっきまでの尊敬と羨望の眼差しはどこへやら。
今や、周りの人々が僕に向けている目は、完全に冷え切っていた。
「ご、誤解ですぅうううううううううううっ!!」
僕の絶叫が、どこまでも高い青空に吸い込まれていくのだった。
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