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第二章 《最凶の天空迷宮編》
第五十話 実像世界のエンカウント
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「これは……」
珍妙な景色を前に、僕は思わずぽかんと口を開けたまま、硬直していた。
僕達は、見渡す限り青く透き通る水で覆われたトンネルの中に立っているようだった。
「え? これ、どうなって……」
おそるおそる、トンネルの壁に指を触れる。
すると、驚くことに指先が水の中に沈んだ。
「うわっ!?」
慌てて指を引き抜いた僕は、また「どうなってるんだ?」と呟いた。
ガラスで覆われているわけでもないのに、トンネル状に水が切り取られている。
そういう構造の不思議なダンジョン……と言う他ないのだろう。
「これが、このダンジョンの実像……」
「ええ、おそらくは」
エナは、神妙に頷いてみせる。
「虚像空間に強制転送されるこのダンジョンにおいては、本来誰も見ることができないはずの世界ね」
「そこに入ることができたのか。僕達は」
ふと、背中に背負ったクレアを振り返る。
さっきまで放っていた光は、嘘のように収まっていた。
けれど、背中越しに伝わる心臓の鼓動は、まだ何か異様な力を隠しているかのように、早い速度でトクトクと鳴っていた。
「これから先、どんな天変地異が起きてもおかしくないかもね」
「ええ。私もそう思うわ」
水で周囲を囲われたこの場所は、ひんやりと冷たい。
警戒しつつ、トンネルの中を進み出した。
時折、張り詰めた緊張を刺激するかのごとく水の中に泡が立ち上がり、コポポとくぐもった音を立てる。
けれど、不思議と敵の気配はない。
第一階層の実体であるが故に、虚像以上の激しい戦闘を想像していたのだが、拍子抜けだ。
だからと言って、警戒を解くのは早計すぎるから、常に神経を張っているのであるが。
――代わり映えのしない景色の中を、どのくらい歩いただろうか?
少しばかり緊張の糸が切れかけ、深呼吸をした――そのときだ。
ズゥウウンという振動音が、トンネルの先から聞こえてきた。
「エランくん、今の音聞いた?」
「うん。この先だよね。行ってみよう!」
「ええ」
地面を蹴って駆けだし、音のした方へ駆けだした。
果たして、すぐに水のトンネルを抜けた。
その先で僕等を待ち受けていたのは――鋭くそびえ立つ岩山だった。
切り立った崖や鋭く尖った岩が幾重にも折り重なってできているような見た目で、足の踏み場なんてろくにないのは、火を見るより明らかだ。
おまけに、ダンジョン内部に広がる空は分厚い黒雲で覆われており、嵐のような大雨が降っている。
服も髪も、たちまち濡れそぼってしまったが、そんなことは全く気にならなかった。
トンネルを設けた水の壁でぐるりと囲まれた岩山の中腹付近。その上空に、水で象られた巨大な鳥がいた。
鋭い嘴に、飾り尾羽。残酷なほど青白い身体を持つその鳥は、一瞥しただけで神話級のモンスターだと理解した。
けれど、今の僕はそのモンスターよりも、驚くべきものを視界に入れていた。
鳥のモンスターが見下ろす先。
岩山の中腹に、一人の男が倒れていた。
燃えるような赤髪を持つ、その男を僕が見紛うはずもない。
あいつは――
「ウッズ!!」
叫ぶや否や、僕はそびえ立つ崖へ向けて一目散に駆けだした。
珍妙な景色を前に、僕は思わずぽかんと口を開けたまま、硬直していた。
僕達は、見渡す限り青く透き通る水で覆われたトンネルの中に立っているようだった。
「え? これ、どうなって……」
おそるおそる、トンネルの壁に指を触れる。
すると、驚くことに指先が水の中に沈んだ。
「うわっ!?」
慌てて指を引き抜いた僕は、また「どうなってるんだ?」と呟いた。
ガラスで覆われているわけでもないのに、トンネル状に水が切り取られている。
そういう構造の不思議なダンジョン……と言う他ないのだろう。
「これが、このダンジョンの実像……」
「ええ、おそらくは」
エナは、神妙に頷いてみせる。
「虚像空間に強制転送されるこのダンジョンにおいては、本来誰も見ることができないはずの世界ね」
「そこに入ることができたのか。僕達は」
ふと、背中に背負ったクレアを振り返る。
さっきまで放っていた光は、嘘のように収まっていた。
けれど、背中越しに伝わる心臓の鼓動は、まだ何か異様な力を隠しているかのように、早い速度でトクトクと鳴っていた。
「これから先、どんな天変地異が起きてもおかしくないかもね」
「ええ。私もそう思うわ」
水で周囲を囲われたこの場所は、ひんやりと冷たい。
警戒しつつ、トンネルの中を進み出した。
時折、張り詰めた緊張を刺激するかのごとく水の中に泡が立ち上がり、コポポとくぐもった音を立てる。
けれど、不思議と敵の気配はない。
第一階層の実体であるが故に、虚像以上の激しい戦闘を想像していたのだが、拍子抜けだ。
だからと言って、警戒を解くのは早計すぎるから、常に神経を張っているのであるが。
――代わり映えのしない景色の中を、どのくらい歩いただろうか?
少しばかり緊張の糸が切れかけ、深呼吸をした――そのときだ。
ズゥウウンという振動音が、トンネルの先から聞こえてきた。
「エランくん、今の音聞いた?」
「うん。この先だよね。行ってみよう!」
「ええ」
地面を蹴って駆けだし、音のした方へ駆けだした。
果たして、すぐに水のトンネルを抜けた。
その先で僕等を待ち受けていたのは――鋭くそびえ立つ岩山だった。
切り立った崖や鋭く尖った岩が幾重にも折り重なってできているような見た目で、足の踏み場なんてろくにないのは、火を見るより明らかだ。
おまけに、ダンジョン内部に広がる空は分厚い黒雲で覆われており、嵐のような大雨が降っている。
服も髪も、たちまち濡れそぼってしまったが、そんなことは全く気にならなかった。
トンネルを設けた水の壁でぐるりと囲まれた岩山の中腹付近。その上空に、水で象られた巨大な鳥がいた。
鋭い嘴に、飾り尾羽。残酷なほど青白い身体を持つその鳥は、一瞥しただけで神話級のモンスターだと理解した。
けれど、今の僕はそのモンスターよりも、驚くべきものを視界に入れていた。
鳥のモンスターが見下ろす先。
岩山の中腹に、一人の男が倒れていた。
燃えるような赤髪を持つ、その男を僕が見紛うはずもない。
あいつは――
「ウッズ!!」
叫ぶや否や、僕はそびえ立つ崖へ向けて一目散に駆けだした。
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